ジルハード王国記第∞巻-4
「護衛をつけても娘を外に出さない親父の心境」
「……ふーん。よくわかんないけど、過保護もいい加減にしてほしいわ」
「それは言えてるな」
ロクサーノは小さく笑った。彼が声を出して笑うのは珍しい。キャロルは少し、胸に違和感を覚えた。
「どうした?」
「え、何が?」
何の感情もないはず――――そう思いながらも、キャロルはロクサーノから目をそらす。
「いや、別に……。ちょっと違和感があっただけだ。俺の思い違いかもな」
「そ、そう……」
その時、一人の男の子が二人の前を横切った。彼はそこで足を止め、キャロルの顔を覗く。
「な、何?」
子供に見つめられ戸惑うキャロル。
「おねーちゃん、王女様にそっくりだね」
その瞬間、二人は目を大きく開いて互いに顔を見合った。
「そ、そう? よく言われるの。ありがとうね。……さ、行きましょ」
子供にできるだけの笑顔でそう言い、キャロルは立ち上がった。それに続いてロクサーノも立ち上がる。
「リト・クァン!?」
二人が別の場所に移動しようとした時。女の声がして二人は振り返った。子供が彼女の元に近付いた。彼女はこの子供の母親らしい。
「はい……そうですけど……」
今後のこの国での生活を考えると無視するわけにはいかない。ロクサーノは首だけ後ろを振り返った。
「あの、今急いでるので用がないのなら……」
「あら、ごめんなさいね。さ、行くわよ」
女は子供の手を繋いで来た道を引き返そうと後ろを振り向いた。
その時。強い風が、キャロルの帽子を飛ばした。彼女の長い髪がなびく。それに気付いたロクサーノは、瞬時に布を広げ、絨毯と化した布の上にキャロルを乗せて飛び立った。
風が止み、親子が振り返った時にはキャロルとロクサーノの姿はなかった。
一枚の絨毯が風に乗って飛んでいる。その上に乗っているのは二人の男女。一人は有名な魔術師、もう一人はこの国の王女だった。
「危なかった……」
キャロルが言う。
「そうだな……。どうする? もう帰るか?」
「そうね。帰りましょ」
二人を乗せた絨毯は城へと向かった。
その直後。キャロルは背後からロクサーノを抱きしめた。突然の出来事に、ロクサーノは声がうまくでない。
「キャ、キャロル……? あの……」
その瞬間、キャロルはぱっと腕を離した。
「あ、ごめん……あの……」
キャロルはロクサーノの顔を覗き込んで続きを言った。
「あ、ありがとう……」
それを聞いてロクサーノは小さく笑う。
「ああ……。こちらこそ」
さわやかな風の中、キャロルは再びロクサーノに抱き着いた。ロクサーノは胸元にかかる小さな手をそっと取る。
――――その後、二人が許されない愛に、禁断の恋に落ちてしまうのは、また別のお話。