永久の赤い空-2
更に思い出は蘇る。今度は、俺達が別れる原因になった事件や。
五年前、村はアンジェティまでも異端と扱い始めた。……むしのいい話や。今まで散々アンジェティの力を利用しておきながら。
俺達は捕らえられ、同じ牢で最後の時を過ごした。
――――せやけど、夜は明け、俺はおおいに暴れ回った。……許せなかったんや。アンジェティを利用した奴らが。アンジェティを裏切った奴らが。……アンジェティを異端にしてしまった自分の存在が。あいつが異端扱いされた原因は、この赤い目や……。
せめて妹を救いたかった。今まで自分を守ってくれた存在を。…………けど、これでよかったんやろうか。その答えは今もわからない。
牢から出された瞬間。俺は処刑台まで連れていこうとした男を殴り飛ばした。そして、アンジェティの手を取って走り出した。妹は驚いて手を離そうとしたが、俺は更に手を強く握った。
しかし……それが俺らの最後やった。
逃げ出す途中、俺は捕まってしまった。アンジェティはなんとか逃がしたが、俺が再び逃げ出して妹を捜したけどもあいつはどこにもいなかった。……もしかしたら捕まったのかもしれん。そう思って、こっそり村に戻ってみると、村は焼けとった……。真っ赤な炎に包まれて、轟々と。
……ああ、もう一つ思い出した。俺には唯一の友達、アルトがいた。あいつは俺の事を受け入れてくれて、アンジェティとも仲がよかった。
せやけど、村を全焼した火事のせいで、俺の唯一の親友は居なくなってしまった。
この目が悪いんや――――俺は恨んだ。自分の赤い目を。村人の言う通り、この目は悪魔の目や。妹の人生を狂わし、親友の命を奪い……。
と、いうのも、後でわかった事なんやけど、火事の犯人は親父らしい。親父はアンジェティが火刑にかけられると聞き、仕事をほうりなげ帰ってきたが娘はおらず、それにキレて村を燃やしたのではと俺は思う。風の噂で、生き残った奴が俺の親父の事を話していたらしいと聞いたから、そう思っとるだけやけどな。母親が死んでから親父はカタギの仕事から離れていった。だから仲間を使って村を襲ったんやろう。
多分、俺は親父の血を受けすぎたんやろう。おかげで怒った時の制御が出来なかった。……それか、制御能力は全部アンジェティが受け継いだのか。
気になったから俺はあれからもう一度村に戻ってみた。村は焼け野原になっていて、人はほとんどおらん。――俺は村を後にした。もう、この村には大切な人はいない。誰一人。
「ねぇ、君……」
ふいに後ろから声をかけられた。振り返るとそこには長めの黒髪の男がいた。白いガラベーヤ(この辺の地域の民族衣装で、足まである長いワンピースのような服)を着たその男は俺に問う。
「これ、村が全部燃えちゃったの?」
俺は黙って頷いた。――――全部、燃えやがった。親友も。何もかも失った。
「そんな……! ひどい有様だ……」
男は驚愕し、目を丸くした。
――もうこの村には居たくない。そう思って俺は駆け出した。男が何か言っとるが気にしとれんかった。
それから俺は村を離れ旅に出た。始めは国内を転々と。そのうちに国を出て、現在まで旅を続けてきた。このトゥルクニスにも一度来た事がある。――その間、俺は銀髪の女を見る度に妹の存在を重ね合わせ目で追っている。
ふと時計を見ると、時刻は日付が変わろうとしている頃だった。
「おい、起きろ」
俺はナイルを叩き起こした。
「……何」
奴は不機嫌そうに声をあげる。
「寝るならちゃんと布団に入ってから寝ろや」
ナイルはのそのそと起き上がり、言われた通り布団にもぐった。その様子を見て、なぜか小さな笑みがこぼれる。
――――今、俺には、俺を認めてくれる仲間がおる。
せやけどアンジェティはどうなんやろうか……。それ以前に生きとるんやろうか。……いや、今それを考えてもしゃーない。
まだ半分以上残っとる酒を、俺は一気飲みした。
窓から外を見ると、銀髪の女はまだそこにおった。……気のせいやとわかっとるが、心なしかアンジェティに似ている気がする。しばらくすると女は店から出てきた男と一緒にどこかに行ってしまった。
俺は窓の外を覗くのをやめた。その時、日付が変わったのに気付いた。
今日もまた、一日が始まる。