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永久の赤い空-1

ここから先は番外編です。

 シリカ国ネイ村。何もない田舎町。そこが、俺の故郷。『俺達』が生まれ育った土地。


 カロン・デュレンメル――――それが俺に与えられた名。そして……俺の片割れとも言える、双子の妹はアンジェティ。俺達は、異端な存在やった。


 ネイ村は銀髪黒目が特徴的な種族の村で、赤目の俺はその時点で異端者となった。妹には不思議な力がある。アンジェティは霊や神と会話ができ、風を生み出すなどの神の力を持っていた。どこかで聞いた物語のような能力が妹には備わっとった。


 そんな妹が異端宣告をされたのは、今から五年前の事や。アンジェティはその能力が原因で魔女扱いされてしまった。そして、俺らは処刑から逃れ、離ればなれに。それから俺は一人で旅を続け、仲間と出会い、アンブランテの門という『ドアを開けたら別世界』というような不思議な扉で旅をし、今はトゥルクニスという国の都市、ハッティという街にたどり着いた。トラキノスの隣の国や。


 この街は賑わっとる。外の世界は色とりどりの明かりで彩られていて、夜も遅いというのに誰も家に帰ろうとはしない。この街は一歩裏道を進めば別世界に行ってしまう。娼婦を装ったカツアゲ集団も居るわけで、地理をよく知らない土地でそういう所に迷い込まないようにと俺らは早めに宿に着いた。


 同室になったナイルはベッドに寝転んで本を読んでいる。俺は街で買った地酒を飲んでいた。


 何となく窓から街を覗く。二階からだと人の様子がよくわかる。外では誰もが浮かれ騒いでいた。――――その中に、長い銀髪の女が居て、俺は瓶を落としそうになった。……そんなはずはない。


「人違いやろ……」


 俺は銀髪女を目で追うのをやめた。……妹がおるわけない。もう離ればなれになったんや。


 ふと、思い出が蘇ってきた。俺が目の事でいじめられてた時の話や。


 いつもなら売られた喧嘩は買って返す。石を投げられたらその辺の枝を振り回して叩き返す。俺はそういう子供やった。けど、アンジェティがおる時はそうもいかん。あいつは俺の腕をとって、空いた手で俺の持っとった枝を取り上げる。そうして、決まってこう言う。


『あいつらは自分がかわいいどうしようもない人間なん。だからあんな事言えるんや! せやから、気にしたらあかん!! あんな奴らの為に自分の手を汚す必要ない!!』


 その意味が俺にはわからんかった。理解できたのは、もっとずっと先の話。チルがみかんを持ってきた事で思い出は断ち切られた。俺は二つ目の酒瓶を開けた。


「まーた飲んでる! 少しは自重したら? 飲むのは自由だけど明日二日酔いになったら誰が迷惑するか考えてよね!!」


「お前は俺のオカンか」


「何よ!」


 チルはみかんを投げ付け部屋から出ていった。咄嗟にそれを受け取り、俺はまた思い出した。


 今度は、母親の事だ。


 俺の母親は、俺達が九歳の時に亡くなった。まだ二十八という若さだった。アンジェティはその事に対するショックが大きくて、しばらく放心状態やった。俺かて、すぐには立ち直れんかった。けど、親父が仕事柄なかなか家に帰ってこなかったから、妹を慰められるのは俺しかおらんかった。その時、今まで存在の意味を感じられなかった俺にアンジェティは『カロンがいてくれてよかった。双子でよかったよ』と言ってくれた。俺には俺を必要としてくれる人がおる。そう、思わせてくれた。


 ――――気がついたらナイルがうたた寝を始めとった。時計は午後十一時を指している。


「まだ十一時か……」


 俺は酒を一気に煽った。

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