表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/58

覚悟

 眠りにつく頃、ナイルは布団にもぐって考えていた。


 三日後には結論を出さなければならない。その前にその結論を報告しなければならない人がいる。それを考えると、結局は明日中には結論を出さなければならない。母親を納得させる時間も必要だ。


「アンブランテの門で……」


 ナイルが思い浮かべているのは、ジルハード城でみた異国の景色だ。


「はぁ……行ってみたいとは思うけど……」


 彼はため息をついて、眠りについた。


 ――――翌日。ナイルはクラウスの元に向かった。


「今日は仕事じゃないぞ?」


 クラウスは首をかしげた。


「ちょっと訊きたい事があって……」


「んー……、まあ座れ」


 クラウスはテーブルに着き、ナイルを向かい側に誘った。


「はい」


 言われるがまま、彼は席につく。


「で、訊きたい事って?」


 クラウスは肘を付き、指を組んだ。


「クラウスさん……もし、旅に出るチャンスが目の前にあったらどうします?」


「んー……そうだね。それが二度とないチャンスなら行くかな。――――……何かチャンスあった?」


 クラウスは笑った。彼はすべてお見通しのようだ。


「はい、まあ……。だけど、行くべきか迷ってて……」


「ふーん……。行けばいいんじゃないかな。ナイルが本当にやりたい事なら。俺は止めないよ」


 ただね、と彼は続ける。


「後で後悔するくらいならやめといた方がいい。人生を変える大きな選択だからな。いい方向に向かわせなきゃ」


「はい。それはわかってます」


「そう。……で、結局どうするつもり?」


 クラウスの問いにナイルはしばらく黙った。


「すぐに決断しろとは言わないよ。ただ、行きたいのかそうでないのか……」


「そりゃ、行きたいですよ!」


「うん。そうか……。なら覚悟が必要だね」


「覚悟?」


「自分の人生を変える覚悟。今、お前が選択するのは覚悟を決めるかどうかじゃないかな」


 ナイルはしばらくの間黙った。やがて口を開いたかと思うと、クラウスにこう告げた。


「……わかりました。有り難う御座います」


 ナイルは立ち上がり、店を出ていこうとした。それをクラウスは引き止める。


「待って!」


「何ですか?」


 真剣な顔をしてクラウスは言う。


「俺は反対しない。ただ、もし行くのなら挨拶くらいしてから行ってくれ」


 ナイルは少し笑った。


「当たり前ですよ……。じゃ、失礼します」


 鈴が鳴り、ナイルはドアの向こうへと消えて行った。


 それと同時に部屋の奥から長い桃色の髪の少女が現れた。彼女はお盆にティーカップを乗せて立っている。


「クラウスさん……」


 暗い声音と表情で彼女は言う。


「ナイル……出ていくんですか?」


「……サクラ。気持ちはわかるけど、あれは本人の問題だ。俺達が口だしできる事じゃない」


「そう……ですよね。――――あ、お茶冷めちゃったので入れなおしてきます」


 彼女は少し早足になりながら奥へと消えて行った。しばらくの間彼女は戻ってこなかった。


「そうか……ナイルがいなくなるのか……」


 クラウスは呟くように言った。


 彼は立ち上がり短剣を一本取って席に戻った。布を出し、刃を拭きながら彼はまた呟く。


「また新しい人を探さないと。……はぁ。ナイルは一番はじめから居たからなぁ……。なんか寂しくなるな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ