表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/58

急展開

 ――――そしてもう五時になろうかという頃、カロンが店にやってきた。


「いらっしゃい」


「ナイルはまだ来とらんようやな」


「まだ仕事じゃない?」


 チルは椅子を出してカロンに勧めた。


「座って待ってたら?」


「おう、そうする」


 チルは再びカウンターに戻って、片付けを始めた。


「今日はもう店じまい。ナイルは何時頃来るって言ってた?」


「五時までには来るって言うとった」


「ならそのうち来るわね」


 時計を見ながら彼女は言う。


 ――――しばらくして、ナイルがやってきた。時間はぴったり五時だ。


「おかえり。すぐに行くけどいい?」


「ん。構わない」


「なら行こっか」


 チルは先に店を出て、全員出た後に鍵を閉めた。その時、ふと目に入ったカロンの剣について問いだした。


「あれ? 剣、新しくなってる?」


「まあな。あの店は信用できる武器屋やって思ってな」


「ふーん……。そういうもんなんだ……」


 そう言って彼女は歩き始めた。


「ちょ! 聞いてんのか!?」


「聞いてるわよ。ほら、早く行かないと日が暮れちゃう。シルラは先に行っちゃったんだから」


「お前たいして興味なかったんとちゃうか!?」


 歩きながら、チルとカロンは言い合う。


「武器なんてよくわからないし。なんか新しくなってる気がしたから訊いただけ!」


「そうなんかい!」


「そう! だからこの話はもうおしまいにしましょ!」


「……はいはいわかりましたよ」


 結局折れたのはカロンだった。それを見てナイルは苦笑する。


 それからしばらく歩いて、ようやく三人は廃屋にたどり着いた。


 ナイルが慣れた手つきで門を開け、何度も来たこの廃屋のアンブランテの門まで三人は行く。


 真ん中のリトの家への扉を開けると、彼らが今来る事がわかっていたかのように、椅子に腰掛けたロクサーノがこちらを見ている。


「遅かったな」


 リビングの椅子に座ってからロクサーノが言う。


「こっちにだっていろいろあるのよ」


「店でも開いてたか?」


「そんなところ」


 チルはメイスンに案内された椅子に座った。


 他の二人も、順番に座ってゆく。


「キャロルは?」


 チルは辺りを見回して問う。


「ああ、今呼んでくる」


 ロクサーノは立ち上がって部屋から出て行った。


 しばらくして、彼はキャロルを連れて戻ってきた。


「みんなに話があるの」


 ロクサーノが後ろに控え、キャロルは口を開いた。


「まず、ジルハードの国民達はポルフェインの国民として正式に認められたわ。だから、これで本当にジルハードは終わったの。で、私達はこれから、伝えられる限りの事を今の時代に伝えるわ。私も、伝えられる限りのことを伝えるわ。そして……」


 キャロルは息を一つ吸った。


「私はこの国を出るわ。ロクサーノも一緒に」


 四人はキャロルの発言に驚愕した。彼らは口々に意見を言う。


「うそ! 国を出るってどこに行くつもり?」


 チルは身を乗り出した。


「チル! 落ち着いて。大丈夫。ちゃんと考えてあるから……」


 キャロルは手の平をチルに向け椅子に座らせた。


「あのね、私達、アンブランテの門を使って旅にでるの。……で、よかったらだけど…………誰か、一緒に旅をしない? 口ではああ言ったけど、やっぱり、せっかく皆と会えたから……。それにシルラとカロンは旅人なんでしょう?」


 それはまさに急展開だった。


 ナイルとカロンは顔を見合わせる。


「お前! チャンス来たやん!」


「いや……だけど……」


「ここで諦めてどうすんねん!!」


 ナイルは机に肘をついて、下を向いて黙り込んだ。


 それを見たチルが「何? どうしたの?」と訊いてくる。


「ナイルが旅に出たがっとったん、知っとったか?」


「そりゃあ。子供の時から剣の練習してたし」


「せやろ? なんに、今になってためらっとるんよ」


 その時、ナイルが顔を上げて一言こう言った。


「……少し、考えさせてくれ」


「お、おう……」


「なら三日後に返事を聞く。同行するのなら、今日と同じ時間に来てくれ。そうしたら出立の日を決めよう」


 二人の会話にロクサーノが口を挟んだ。これはシルラとチルにも言っている。


「さて、報告は終わった。……まあ、くつろいでいけ」


 そう言ってロクサーノは、メイスンを連れて部屋から出ていった。


「ねえ、キャロル……」


 静かになった部屋でチルは口を開けた。


「ロクサーノのどこがいいの?」


「えっ? ……そうね。ロクサーノは、ああ見えても本当は優しい人なの。それにすごく一途だし。そういう所が好き……かな」


 どこか嬉しそうに彼女は語る。


 その後も、彼らは他愛もない話で盛り上がった。その時のキャロルの表情は、いつになく楽しそうだった。


 そして夕日の光が窓から注ぎ込む頃――――シルラは懐中時計を確認した。


「ナイル、もう六時半だ。そろそろ帰らないと……」


「え、本当? ――――なら、俺達は先に帰るよ」


 全員に向かってナイルは言った。シルラとナイルは立ち上がる。


「じゃあな」


「またいつか」


 先にナイルが扉を開けて出ていき、次にシルラが手を振りながら出ていく。


 三人も挨拶を返すと、完全に扉は閉まる。


「なんか、兄弟なのに全然違うね。ナイルとシルラじゃ、感情っていうか言葉っていうか……とにかくそういうものの柔らかさが全然違う」


 静寂を打ち破りかのようにキャロルが口を開いた。


「確かにな。シルラはヘラヘラしすぎな感じするわな」


 頬杖をついてカロンは言う。


「ほんと。……ねぇ、二人はいつまで居てくれるの?」


「え? 私はお邪魔にならない程度の時間には帰るけど……」


「カロンは?」


「俺も。右に同じ」


「なら夕飯食べてってよ! ロクサーノって料理上手いんだよ! 待ってて。今話にいってくるから!」


 キャロルは元気な子供のようにロクサーノを呼びに行った。


 一方、アイレア家の兄弟は家路に着きながら、キャロルの言った事について話していた。


「どうする? 本当に旅に出たいのなら協力するよ」


「……まだわからない。今夜じっくり考えてみる。早く決断して、旅に出るならクラウスさんに言わなきゃいけないし」


「それと母さんにも」


 それを聞いてナイルはうなだれた。


「そうだよな……。一番の難関」


 ナイルはため息をつく。


「で、兄貴はどうすんの」


「俺? 俺は……」


 シルラは少しの間考え込んだ。


「俺はナイルが出ていくならそれについてく。行かないなら一人でまた旅に出るよ」


「やっぱり……旅に出るのか……」


「うん。まだ旅を終わらせたくないんだ」


「……なら止めない」


 呟くようにナイルは言った。


「何か言った?」


「別に。早く帰ろうぜ」


 ナイルはさっさと先を歩いて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ