旅人
ミフェン堂は毎日営業しているわけではない。薬のでき具合、主の都合によって店が開いていることは滅多にない。
この幸運な男性客は店の中を物色し、必要な物をかたっぱしから手に取っていく。
その客は、多分、一度見たらなかなか忘れられないような容姿をしていた。長い銀髪もそうだが、透き通るような紅い目もまた特徴的だ。そして何より特徴的なのは、その話し方だ。彼は聞いたことのない方言を話している。
「すんませーん」
その一声で、チルが裏から店側に出てくる。
「はーい。なんでし……」
文字通り、彼女はその場で固まった。
「どないした?」
「い、いーえ、外国の方なんて珍しいなって……」
チルは笑顔を作りながら、カウンターへと向かう。
「何をお探しで?」
「買うもんはもう決まった。いくらになる?」
青年はカウンターの上に、『どっさり』という言葉が似合うほどの沢山の薬品を順に並べていく。
「うわ、こんなに沢山!?」
チルは思わず声をあげ、次にはハッとして口元に手をあてた。
「結構な長旅になりそうなんでな。それに、ここの傷薬は評判ええし、まとめて買うておこうかと思ってな。
にしても、お嬢ちゃんこの店一人でやってんねんて? 俺と同い年くらいに見えるのに、薬作れるなんて凄いのぉ。しかもかなり評判の……」
「あのっ!!」
この青年はほうっておくと一日中しゃべるのではないか……そんな予感がし、チルは用件を済ませてもらう意味でも、青年のしゃべりに口をはさんだ。
「なんや?」
対する青年は、特に何も気にしていないようだ。
「代金だけど……」
「せやったな」
「これ全部合わせて一万リランはすると思うんだけど……大丈夫なの?」
「問題ない! 前の町で賞金首捕まえたからな! このまま国を越えるだけの資金は得た」
上機嫌に彼は言う。
「ふぅん……。じゃあ、デイ・ルイズの後にトラキノスから出るんですね」
「まぁ、そのつもりやね」
しゃべりながら、チルは商品の袋詰めをしていく。
瓶詰めされた風邪薬や朝方ナイルが買っていった傷薬、さらにパピルス紙に包まれた葉の大きな薬草に、瓶に入った葉が細かく切られた薬草。すべてを詰め終わると、チルはそろばんを弾いて代金の計算を始めた。
「合計で九千七百八リランね」
「ほぼ一万か。んじゃこれで」
青年は一万リラン札を一枚出した。お釣りを渡されるとそれをトーガのどこにあるのかわからないポケットにねじ込んだ。
そして腕いっぱいに、買った荷物を抱え、彼は店を出て行ったのだった。