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終焉

 ――――収容施設との話は付き、一同は廃屋へと戻った。


 初めてここに来たキャロルは目を疑った。


「こんな所に住んでたの!?」


「今は住んでない。もう何十年も放置してるんだ。古くもなる」


 ばつが悪そうにロクサーノは言う。


 外はすでに日が暮れて真っ暗だ。それが余計に不気味さを増す。


「さて兄貴。今日も母さんに怒られに行く事になりそうだ」


 苦笑いをしてナイルは言う。


「いつも遅いのはお前だろ? なんで俺まで……俺、もう二十六なんだけど……」


「けど、いくつだろうと母さんは黙っちゃいないよ。今日は兄貴も道連れ。てわけで……俺達は先に帰るから。チルはどうする?」


「私? そうね……。今日は疲れたし、帰る。明日またここに来ればいいのね?」


 ロクサーノは少し考えてから答えた。


「そう……だな。また来てくれるのなら、明日来てくれ」


「わかった。なら、帰りましょ。カロンも帰るよね?」


「せやな。……なら、帰りますか」


 四人はメイスンからカンテラを貰い、門の前を後にした。


「気をつけて帰れよ」


「また明日!!」


 キャロルは後ろ姿達に手を振った。


「……行っちゃったね」


「俺達も帰るか?」


「うん。ロクサーノの家なんて久しぶり……」


 二人はリトの家へ入って行った。メイスンが扉を閉めて、門の前には誰もいなくなった――――。


 リビングに入るとロクサーノは手を天にかざした。すると部屋の燭台やランプに光が灯る。


「少し遅くなるが飯にするか。出来上がるまでいろいろ見てまわるといい」


「え、あ、うん」


 ロクサーノはメイスンと共に台所に向かった。部屋に残ったキャロルは、ゆっくり歩いて部屋を見回した。


「見てまわるって言われても……」


 二百年の記憶が無い彼女には、この家はたいして古い記憶ではなかった。それにロクサーノは気付いていないのか、忘れているのかと思うキャロルであった。


 彼女はとりあえず椅子に座って待つ事にした。


 しかし、いてもたってもいられなくなり、ロクサーノに手伝う事はないかと訊いたが、今日はいいからと断られてしまった。


「こんな調子でやっていけるのかな……」


 椅子に戻って彼女はため息をついた。


 ――――そして一方、四人はミフェン堂の前まで来ていた。


 そこで全員の目立つ傷をチルが治したが、まだ傷があるだろうということで彼女は提案した。


「みんなまだ傷だらけでしょ? 今から薬渡すから待ってて。――――あ、ナイル達は後で持ってくるから。今は帰った方がいい」


 そういうわけで、ナイルとシルラは先に帰宅して行った。チルはカロンを連れて玄関の戸を開ける。


「入って。今はここからしか入れないの」


「いや、俺はここで……」


「そう。なら、ここで待ってる?」


 カロンは頷いた。


「なら待ってて。すぐ戻ってくるから」


 チルは店側へと姿を消した。


 しばらくして、彼女は紙袋に薬を入れて帰ってきた。


「これ、傷薬とあと二日酔いに利く薬。まんまり飲み過ぎないようにね」


 カロンは頭を掻いた。


「お前なぁ……。まあ、もらっとく」


 彼は紙袋を受け取って笑う。


「じゃあ。薬ありがとうな!」


「うん。じゃあね」


 カロンの後ろ姿を見送って、チルはドアを閉めた。


 彼女は一旦店に戻って、紙袋を出して傷薬を袋に入れる。


「次は隣ね。大丈夫かな……」


 きっと今頃、あの二人はウェルゼに怒鳴られているに違いない。そう思いつつ、彼女は急いでアイレア家に向かった。


 案の定、ウェルゼの大きな声が聞こえた。しかしシルラの反発する声も聞こえる。


「――――だから、デイ・ルイズで人が多くてはぐれたんだって!! 何度言えばわかるかな……」


「だからってもう十時よ? こんな時間まで何してたの!? 正直に言いなさい!」


「あー……もう……」


 やはりシルラが言い負かされている。


「さすがウェルゼさん……じゃなかった」


 チルはドアを叩いた。


「すみませーん!」


 すると少し間を開けてウェルゼがドアを開けた。


「あら、チルちゃんじゃない! どうしたの? こんな夜遅くに」


 ウェルゼはさっきまで怒っていたとは思えないような笑顔を見せる。


「あの……薬届けにきました。調合に時間かかって……それで遅く……」


「そうなの? ちょうどいいわ。ナイルならそこにいるから」


 そう言ってウェルゼはリビングへと消えていった。


「チル! 助かったよ。まったく母さんは……人の話聞かない所は相変わらずだ」


 ウェルゼに聞こえないよう小さな声でシルラは言う。


「まあ、ウェルゼさんらしいっちゃらしいけどね……」


 薬をナイルに渡してチルは言う。そして、軽く笑みを浮かべてこう言った。


「じゃあ、私帰るから。早く二階にでも避難したら?」


「冗談じゃないって……」


 ナイルは額に手を当てた。


「じゃあね。また明日」


「……じゃあな」


 ナイルは相変わらず額に手を当てたままだ。


「気をつけるんだよ」


 シルラは余裕があるように笑って見せる。


 しかし、チルがいなくなった途端、彼らは彼女の言う通りに二階へ上がって行くのだった。


 ウェルゼが戻ってきた時には、玄関はもぬけの殻だ。


「まあ! うまく逃げたわね」


「もういいんじゃないか?」


 後ろに立つレオンが言う。


「シルラもナイルも、もう大人だ」


「……そうね」


 ウェルゼはリビングへと戻っていった。


「お夜食でも作ろっか」


 彼女はレオンの顔を見ないで言った。次に、彼に聞こえないようこうも言った。


「もう大人、か」


「何か言ったか?」


「ん。何も」


 台所に入り彼女はトマトを切り始めた。


 頼りない光を放つ電球が彼女の手元を照らす。


 ――――そんな事は知らないナイルとシルラ。二人は物置部屋に来ていた。


「なんか、ここに来ると落ち着くんだよね」


 シルラが言うとナイルも同意した。


「うん、わかる」


 開けた扉から風が入り込む。


 風で二人の髪が揺れた。


 シルラは、チルからもらった傷薬を袋から出した。その時、他にも何か入っている事に気付く。――中にはパンが二つ入っていた。


「チルのやつ」


 ナイルは笑った。


「全部お見通しってことか」


 シルラはナイルにパンを一つ渡した。


「そうだね。敵に回したら怖い子だとは思ってたけど。やっぱ怖いかも」


 ――――その時、噂の張本人は部屋で寝転がって、机に置いたランプに向けて手をかざした。天然石のブレスレットが光に反射する。


「……メディナの鎌とももうお別れか。ほんと、夢みたい」


 ――――そうして、それぞれの夜が更けていった――――

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