最後の王女
――――ロクサーノが町の様子をうかがいに行った間、これは彼女の魅力なのだろうか、キャロルはすぐに周りに溶け込んでいった。
「案の定、町は大騒ぎだ。何人かはキャロルの名を呼んでこっちに向かってきてる」
「もう!? どうしよう……私……」
キャロルは窓から町を見下ろした。
「でも、行かなくちゃいけないんだ。私は、王族としての最後のつとめを果たさないと……。――――ロクサーノ」
「決心は固まったか」
「……行こう。ジルハードは、もう終わったのよ」
キャロルは扉を開け、部屋を出た。
「みんなも。……私の最後の仕事を見届けて」
彼女の後ろ姿は言う。
「……行くぞ」
キャロルとロクサーノは先に部屋を出ていった。一同は後を追う。
――――外は生き残った城に仕える者であふれていた。総勢五十人ほどはいるだろうか。
彼らは口々にジルハードの復興を叫んでいる。やっぱり、とロクサーノが言った。
この入口の扉を完全に開けば、キャロルは最後のつとめを果たす事になる。
チル達を脇に下がらせて、彼女は二百年間閉じたままの扉を開いた――――。
二百年ぶりの光が差し込む。
外は人々が五月蝿く喚く。
キャロルは息を吸って、大声で言った。
「――――静まりなさい!!」
驚いた人々は一瞬で、キャロルの言うとおりに静まり返った。
「あなたたちの要望はしかとこの胸に受け止めよう。けれど、私は、ジルハードの復興を望んではいません」
再び、ざわめきが起こった。
「静まりなさい! ジルハードはもう終わったのです。二百年という長い眠りに付いていた私達は、これから新しい時代と共存していかなければなりません。ここは私達の時代ではなく、今を生きる人々の時代です」
すると今度は、この先どうすればいいのかとか、王女様はどうするのかだとかの質問が飛び交った。
「ポルフェインに手を打ってもらいましょう。悪いようにはしないはずです。とりあえず、収容施設の管理者と話をつけてしばらくの衣食住は確保しましょう。――――私はどうするかまだ考えていません」
ここでロクサーノが口を挟みそうになったが、それをチルが止めた。
「何をっ……」
「馬鹿ね! どうせリトの家で暮らそうとかなんとか言ったんだろうけど、そんな事他の人に言えやしないわよ!!」
「――――最後に。今をもって、私は王女の座を降ります。もう、私は王族ではありません。……では皆様、収容施設に参りましょう」
キャロルは大衆の中へと姿を隠した。