出立
「どこまで行ってたの?」とチルが問うと、ロクサーノは「二百年前と環境が変わって砂が取れなくなった」と答えた。ロクサーノが手にしているのは袋詰めされた砂が二袋。今ではこれだけの量を取るのにこんなにも時間がかかるのだと彼は言う。昔はもっと取れたらしい。
「――――で、そこの黒髪は?」
ロクサーノは研ぎ澄ました目でシルラを見る。
「あー……真鈴って言えばわかるかな……」
「真鈴……? お前、あの女を知ってるのか?」
ロクサーノは驚き、がらりと表情を変えた。
「知ってるも何も、あいつのせいでここに来た」
「……なるほど。真鈴ならやりそうだ。何が目的だ?」
「さぁ。俺は飛ばされただけだから」
「そうか。――――待て、飛ばされただと?」
「ああ。なんか最近、移動魔法を覚えたらしくて……おかげでこっちはいい迷惑だって……」
「それだ!!」
ロクサーノは突然大きな声をあげた。一同は驚きながらロクサーノを見る。
「真鈴にキャロルの元まで飛ばしてもらおう。……なんで今まで気がつかなかったんだ! メイスン! 魔法石を!」
「は、はい!!」
メイスンは急いで部屋から出て行った。しばらくすると、青いガラス玉を持って帰ってきた。
魔法石を受け取ると、ロクサーノは精神統一をするかのように、静かに目を閉じた。青いガラス玉は光を帯びる。
「真鈴、聞こえるか? 聞こえたら出てこい」
すると、魔法石は人の形になり床に降り立つ。真鈴が現れた。
「何よ?」
「頼みがある。お前がシルラを飛ばした魔法で俺達をキャロルの元に飛ばしてくれ!!」
「ふーん。ようやく気付いたわけだ? わかったわ。そっちに行くから待ってて。――――えーと、住所は……」
真鈴は紙を広げた状態で、真鈴は消えて行った。しばらくすると、二階から悲鳴が聞こえてきた。一同は顔を見合わせ、二階に走った。
マジックアイテムの倉庫となっている部屋をロクサーノが勢いよく開けると、そこには物に埋もれて倒れている真鈴の姿があった。
「何……やってんだ、お前は……」
「何って、あんたのせいじゃない!! 少しは掃除くらいしなさいよ!!」
「今さっきしていたところだ」
「まあ! 腹の立つ!!」
「本当の事だ。――――立て」
ロクサーノは真鈴の腕をとってひっぱり上げた。
立ち上がった真鈴は、じっとチルを見る。
「ふーん……。この子が例の……。ねぇ、今からジルハード城に向かうけど、準備はいい?」
「え……? 私はいいけど……。みんなは?」
チルは振り返り、ナイル達を見た。三人は問題ないと返事を返す。
「ロクサーノ、ジルハード城に魔法石はあるわよね?」
「ああ。俺が昔、キャロルに贈ったピアスに付いてる。そいつが盗まれてなければ。もしくは宝物庫に埋もれてるかもな」
「なら、大丈夫ね。――――みんな、行くわよ?」
真鈴は指で空に魔法陣を書いた。それは淡く光っている。
「ロクサーノ、魔法陣に魔力を注いで。あんたの魔力が城に入る鍵になるから」
「あ、ああ……」
ロクサーノは魔法陣に手の平を向けた。精神を集中させ、彼は魔力を注ぐ。
すると魔法陣の光は部屋全体を包み込み、光と共に彼らはジルハード城へと消えて行った――――。