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消息

 人込みを掻き分け、三人はようやく生活テントの前に来た。ナイルとチルは顔を知られているため、すぐに通してもらえた。生活テントの集まりの中を三人はせっせと歩く。


「まって!」


 チルが何かを思い出し、歩みを止めた。


「何?」


「なんや?」


「……あのさ、よくよく考えたら、私たちロクサーノがどのテントにいるか知らないわ……」


 その時、三人の時は一瞬止まった。


「う……そうだな……」


「ほんまかいな……」


「……だ、大丈夫! ここで働いてる人なら知ってるはずだし」


 そう言って、チルはすれ違った旅芸人にロクサーノの居場所を問い詰めに行った。


 旅芸人は「ロクサーノ?」と言い、少し考えてからこう答えた。


「……言いにくいが、あいつはもう、ここにはいない。テントはもぬけの殻だった。どこに行ったかは誰もわからない……」


「いない!? そんな……嘘でしょ!?」


「嘘じゃない。ロクサーノと知り合いみたいだし、他に心あたりがあるならそっちに行ってみる事をお勧めする」


 そう言って、旅芸人はどこかへ行ってしまった。


 その後、何人かに話を聞いたが、やはりロクサーノはもう、ここにはいないという。


「どうする?」


 チルは二人に問う。


「どうするって言われても……」


「そうだな……。廃屋にでも行ってみるか?」


「……そうね」


 ナイルの提案で、次に目指す場所は廃屋となった。


 三人はまた、人込みを避けながら目的地に向かうのだった。


 ようやくといった所で、三人は廃屋にたどり着いた。


 ナイルは門の鍵を開けようとした。――しかし、門はすでに鍵が開いていた。


「ロクサーノ……ここにいるのか?」


 緊張した面持ちで、三人は廃屋の中に入る。薄汚い廊下からアンブランテの門の所まで行ったが、そこにロクサーノはいなかった。代わりにメイスンがそこにいる。


「お待ちしていました。ロクサーノ様なら、自宅にいらっしゃいます」


 そう言ってメイスンが指すのは、真ん中のアンブランテの門だ。


 直ったのか、とナイルが聞くと、メイスンは笑顔ではいと答えた。


「今朝、真ん中のアンブランテの門が復旧したとの連絡がありまして。ロクサーノ様は今自宅の掃除をしておられます。お三方がみえたら招くようにと言われてますがどうなさいます?」


「もちろん、会いに行くわ」


 チルが率先して答えた。


「では、行きましょうか」


 メイスンは扉を開けた。――――そこからまず目に飛び込んできたのは、時代を感じるが、清潔感のあるリビングだった。


「あらあら、ロクサーノ様の仕事が早いこと。さっきまでボロ屋敷みたいだった部屋がこんなに綺麗になるなんて、流石ですわ!」


 見違えるように変わったらしい部屋を目の当たりにし、メイスンは感動して声をあげた。


「ロクサーノ様? どこにおられるのですか? お客様ですよー!」


 メイスンは大きな声でロクサーノを呼んだ。――――しばらくすると、リビングの入口のドアが開いて、ロクサーノが出てきた。いつも通りの、個性的な髪型に黒いジャケットの姿だ。


「来たか。見ての通り、ここに来る門だけは復旧した。……だが、城に繋がるアンブランテの門が復旧しない以上、キャロルは助けられない……」


 そう言う彼の顔は、どこか辛そうで、寂しそうだ。やはり、二百年間想い続けた王女を早く助けたいという思いが強いようだ。


「ねぇ、どうしてもアンブランテの門がないと王女は救い出せないの?」


 もうわかりきっている事だが、チルは聞いてみた。


「ああ。知っているだろう? ジルハード城には盗賊対策が成されている。敷地内に入ろうなんぞ、考えるだけ無駄だ」


「だよね……。――――門の復旧ってどのくらいかかるの?」


「さぁ。俺が知っているのは、中枢となる場所が復旧して徐々に他のアンブランテの門も元に戻るだろうと言われている事だけだ」


「そう……」


「前も言った通り、門が復旧したらそっちに行くから。余計な気遣いはしなくても大丈夫だ」


「うん、わかった。なら復旧まで待ってる」


「……で、話は変わるが」


 ロクサーノは頭を掻いた。


「せっかく来たんだ。掃除を手伝ってくれないか?」


 三人は顔を見合わせた。


「……どうする?」


「俺はどっちでも」


「俺も。どっちでもええよ」


「なら、手伝おうか」


 ナイルとカロンはそれに頷いた。


「そうか! ならこれを」


 するとロクサーノは早速、どこからか布の袋を三つ出し、三人に渡した。袋を開けると中には青い砂が入っている。


「その砂を一掴み、埃が溜まっている所に撒いてきてくれ。あとは砂が勝手に埃を集めてくれる」


「へぇ……便利ね」


 砂を触りながらチルは言う。


「で、それが終わったら雑巾で水拭きしてくれ」


「あ、そこは普通なんだ……」


「なら、よろしく頼んだ。俺は二階に行くから一階を頼む」


 指示を出し終えると、ロクサーノはさっさと部屋を出て行ってしまった。


「相変わらずね……」


 ロクサーノの後ろ姿が見えなくなると、チルはぽつりと呟いた。


「しょうがないよ。ロクサーノはああいう奴なんだから。それより、早く掃除しよう」


 言いながらナイルは部屋から出て行った。後を追うようにチルとカロンも部屋から出て行く。

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