武器屋
――――ついに、デイ・ルイズは最終日を迎えた。
この祭が終われば、ヨーデンはいつもの田舎村へと戻ることになる。
祭の会場は最終日というだけあって大いに盛り上がっていた。
そんな中、チルとナイルは、カロンの居る宿屋にやってきた。部屋に入ると、カロンはベッドの上で酒をビンのまま飲んでいた。
「……昼間っから何やってんのよ」
呆れた顔をしてチルは言う。
「あ? なんか用か?」
「今日はデイ・ルイズの最終日だから。ロクサーノの所に行こうかと思って。……カロンはどうするの?」
「そっか……。ロクサーノは今日でデイ・ルイズを抜けるんやったな。そら、消息不明になる前に話付けとかんとな」
カロンは立ち上がり、テーブルの上に酒瓶を置いて代わりに鍵を手にした。
「来るの?」
意外そうな顔をしてチルが問う。
「その為に来たんやろ?」
「お酒飲んでたのに?」
「まだ二口しか飲んどらん。そんくらいで酔うか」
カロンが部屋の鍵を閉めたのを確認して、チルは言う。
「後で吐いても知らないから。じゃ、行きましょ」
「せやからそんなんで酔うか!」
反論されても、何事もなかったようにチルは振る舞う。
「なんやねん。最初に会うた時とイメージ違うなぁ……」
独り言のようにカロンは言う。それにナイルが答えた。
「いや、チルはああいう奴だ」
「……そうかい。人は見かけによらんな」
「見かけ通りだと思うけど……」
「それは長く一緒に居るからそう思うだけやろ?」
「そういうもんかな……」
「ちょっと何してんの?」
気がつけばチルは階段を下りかけていた。ナイルとカロンは止まっていた足を進めた。
「悪い。カロンと少し話があって。――さっさと行こうか」
――――三人は宿屋を出て、ロクサーノのいる生活テントを目指した。
祭の会場は相変わらず人で溢れているので、彼らは遠回りでもなるべく人通りの少ない所を歩いていった。途中、ある店の前でナイルが足を止めた。
「どしたの?」
「クラウスさんが……」
ナイルの目線の先には、武器や防具に囲まれた店の中で剣を磨いている茶髪の青年がいる。
ナイルは店のドアを叩いて青年を呼んだ。窓から顔を覗かせる。
青年はナイルに気付き、店の鍵を開けた。
「ナイル? どうした、仕事再開は明日からだぞ?」
「それはこっちのセリフですよ。クラウスさん何してるんですか?」
「剣の手入れだ。営業禁止されてるからって、やっぱり手入れしないと落ち着かなくてな……。まぁ、なんだ。立ち話もなんだから入れ。――――ん? 一人見た事のない奴がいるな?」
クラウスは三人を店の中に招き入れ、カロンの存在に気付いた。
「最近知り合った、旅人のカロンです」
「カロン・デュレンメルや。よろしゅう。……で、気になったんやけど」
「はじめまして。クラウス・ヴェナンギルです。――気になったって、何が?」
「営業禁止ってどういう事や?」
「ああ。デイ・ルイズの間は犯罪防止の為に武器の販売は禁止されるんだ。だから今日までは店は休みだ」
「そうなんか。なんや? ナイルはここで働いてるんか」
カロンは、今度はナイルに問い質した。
「まあ、そういう事だ。もう三年はここにいるかな……」
「ほー……なら、明日来てみよか。なんやよさそうな武器が沢山あるしな」
「ありがとう。とりあえず、みんな座りな」
クラウスは人数分の椅子を並べた。三人はそれに従って椅子に座る。
「えーと、カロン……だっけ。旅人なんだって? ぜひ話を聞かせてくれないか?」
クラウスは目を輝かせて言う。
「ええけど……。話したら長くなりそうやし、今日はちょいと用事があってな。悪いけど、明日でもええか?」
「構わない。なら、明日絶対に聞かせてくれよ?」
「……お、おう。ほな、早い所ロクサーノの所に行こか」
カロンは立ち上がった。チルとナイルもそれにならい、立ち上がる。
「そうね。来たばっかりで悪いけど……早く行かなくちゃ」
「みんな、悪かったな。――ならクラウスさん、また明日」
ナイルは店の戸を開けた。全員が店から出たのを確認して、彼は一礼して店から立ち去った。
一人残されたクラウスは、そっと呟いた。
「旅人かぁ……。羨ましいな」