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鍵と鎌

 探し回った結果、ロクサーノの最後の目撃情報はデイ・ルイズの生活テントだった。そこで聞いた話では、ロクサーノがナイルとチルを探していたという。


「一旦廃屋に戻るか……」


 ナイルの提案で、一同は廃屋へと向かった。


 ――――しかしそこにロクサーノはいなかった。


 だが変わりに、背の低いメイドがアンブランテの門の前に座っていた。


「メ、メイスン!?」


「あら、チルさん。それにナイルさんに……」


「あ、こっちはカロン。私の店に来たお客さん」


 紹介をうけて、メイスンは会釈した。


「はじめまして。私、ロクサーノ様にお仕えするメイスンと申します」


「あ、どうも……」


「それでは、早速ですがロクサーノ様をお呼びいたします。みなさん、もうどこにも行かないでくださいね?」


 チルとナイルは、ばつの悪そうな顔をした。


 それを知ってか知らずか……メイスンは白いベルを手に取り鳴らした。


 軽く綺麗な音が、部屋全体を包み込んだ。音は大きいのに、不思議なことに耳を刺激することはない。


 チルがそれは何かと尋ねると、メイスンは通信するためのマジックアイテムだと答えた。だとすると、これもロクサーノが作ったのだろう。


 ベルを鳴らしてから数十分後――――アンブランテの門の部屋に、ロクサーノが飛び込んできた。


「無事だったか!!」


 彼は乱れた息を整えつつ、話を続ける。


「よく聞け。……お前達、アンブランテの門を使ったな?」


「え、ええ……王女の様子が気になって……。あ、でね! その時」


「全く知らない所に飛ばされた。そうだろ?」


 チルとナイルは顔を見合わせた。なぜそれを知っているのか、チルが尋ねると、ロクサーノはこう答える。


「今な、世界中のアンブランテの門が暴走している。原因はまだわからないが……お前達がいないから、もしかしたらと思って、今から時の旅人に会いに行く所だった」


「時の旅人? 何よそれ」


「時間を移動できる魔術を使える者達の事だ。連中は過去に行ったり未来に行ったりできる」


「へぇー……で、なんでその時の旅人の所に?」


「お前達がどこまで飛ばされたか確かめる為だ。過去に飛んで尾行してもらおうと思ってな。近くにいるのなら、そこにいる時間に飛んで行く。そうしようと考えてた。……で、だ」


 ロクサーノは一旦口を止めカロンを見る。


「そこの銀髪は誰だ?」


「ああ、この人はね、カロン・デュレンメル。最終的にカロンがとってた宿のクローゼットに出ちゃって。それでここに帰って来られたんだけどね」


「そうか……。ん? そういえばどこかで会ったような……」


「公園で会ったやろ」


 思い出せないロクサーノにカロンが返す。


「そうだった。……まあ、その事に触れても時間の無駄だ。早い所次の段階に移らなければ。……ラティーヤの玉と回復魔法の玉はあるか?」


 チルはかばんから言われた物を取り出した。


「ええ。これでしょ? でも何も起きないんだけど」


「そうだ。……何も起きないのは、あと一つ道具が足りないからな。通称『リトの鍵』と呼ばれる鍵がこの家の中にあるはずなんだが……」


 彼の言った『リトの鍵』に、ナイルとチルが反応した。


「リトの鍵!? それ一体なんなのよ!?」


「……何の話だ?」


 思いもよらない食いつき具合にロクサーノは少し戸惑った。


 仕方がないので、ナイルがアンブランテの門の向こうで起きた話――特に王妃の部屋でのできごとを具体的に話した。


「なるほどな。多分、そいつは側室のアンネだな。キャロルの事を忌み嫌っていた女だ」


 そこで「キャロル?」とカロンが聞いてきたので、ロクサーノは王女の名だと答える。


「アンネは嫉妬深い。ジルハードが封印から解かれれば、国の復興もありえない話ではない。実際、トラキノスとポルフェインに囲まれてるロマリタリアには皇帝が暮らす宮殿だけの国が存在する。ジルハードだって、キャロルが王位に着けばそうなるかもしれん」


 ロクサーノは息を一つついて話を続ける。


「で、話を戻すが……。さっきのリトの鍵だが、それが封印を解く鎌を作るための材料になる。――――ナイル、鍵を出せ」


「だからそんな物持って……」


「いいから出せ」


 ナイルは紐に繋がれた三つの鍵を出した。


「それだ。その銅の鍵だ」


「この宝箱の鍵が?」


「そうだ。その鍵は魔術をかけると、いろいろな鍵になる。――――例えば、家の鍵の代わりに使おうと魔法をかければ、自分の家の鍵になる。箱を開ける鍵にしようとすれば、鍵は箱を開ける為の鍵に変形する。……まあ、悪用されないよう制限は付けてるがな」


 その制限とは、具体的にいうと「家の所有者(または住んでいる者)が魔法をかけなければ家の鍵にはならない」だとか、この鍵にはアンブランテの門のように、鍵穴にさせば遠くへ繋がる門ができるという機能もあるのだが、それを悪用されない為に「出られるのは外だけ」という制限もある、とロクサーノは説明する。


「これがリトの鍵だったの……」


 キケルに渡された宝箱の鍵。それは周りに起こる事すべての鍵となっていた。チルはため息を漏らす。


「なんていうか、全部計算されてたみたい……」


 そして、彼女はロクサーノをチラリと見る。


 そんな事は知らないロクサーノ。彼はチルに鍵を寄越した。


「二つの魔力の塊を鍵に合わせてみろ」


「……うん」


 言われるがまま、チルはまず、ラティーヤの玉を手に取った。


 玉はまるで水のように、鍵の中にするりと吸い込まれて行く。それを見たチルとナイルは驚愕し、目を丸くした。


 驚愕し震える手で、次にチルは回復魔法の玉を持った。こちらもラティーヤの玉同様、鍵に吸い込まれて行く。


 二つの力が混ざった『リトの鍵』。ロクサーノの言う事が正しければ、この鍵は王女を包む結界を壊す鎌となる。


 鍵は、脈打つように一定感覚を保って鼓動する。


「うわぁ!?」


 チルはよろけて足を踏ん張った。腕は、変化したものを支え、目はそれに釘づけになっている。


「こ、これ……が……」


 ――鍵は一瞬にして大鎌へと変化した。


 するどい銀の刃に、鉄の持ち手、鎌の頂点には赤い目をした、銀の蛇のモチーフが枝に絡み付くようについている。


「それは『本物の』メディナの鎌だ。お前達ならよく知ってるだろう?」


 それを聞き、三人はさらに驚愕した。


 メディナの鎌とは、この国の神話――――トラキノス神話に登場する、争いの女神メディナが持っていたとされる鎌である。彼女の鎌は、あらゆる物を切り裂く。その鎌をモチーフにした物が不幸を切り裂くお守りとして現代に伝わっている。


「本物の? メディナが使っていた?」


 鎌を持ち上げてチルは言う。


 ロクサーノは黙ってうなずいた。


「……ありえない! だって、私が手にできるような物じゃ…………」


「だけどお前は実際、それを手にしている。何なら今すぐにでも証明……と言いたいところだが、生憎アンブランテの門はあの状態だ」


 アンブランテの門をロクサーノは睨む。この扉が正常に機能していれば、すぐにでも王女を助けられるのだが、それが叶わないのだから無理もない。


「今日は諦める。――――その鎌は他の形に変形させる。チル、鎌を何か……常に持ち歩いていられる物をイメージして変形させてみろ」


「何か持ち歩いていられる物か……」


 しばらく考えた後、チルはイメージを膨らませた。すると鎌は縮み姿を変え、最終的にピンク色の天然石のブレスレットとなった。


「まあ……これなら誰も鎌だとわからないだろう。下手にペンダントにすれば、それこそ武器の仮の姿だと疑われかねないしな」


「本当に……これがメディナの鎌なんだ……」


「だから言ったろう? ――――……もう帰るか。家まで送る。カロンは宿を教えてくれ。次はアンブランテの門が復旧したらまた来るからな」


 しゃべりながらロクサーノはさっさと玄関へ向かって歩いて行った。三人はその後を追う。

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