表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/58

 時は流れて、日はとっぷりと暮れていた。


 ――――チルとナイルはというと葉っぱに乗せられ、廃屋であるロクサーノ(リト・クァン)の家の玄関前にほうり込まれた。


「いて……何なんだよ乱暴だな……」


 愚痴をこぼしつつナイルは起き上がった。


「あー……やっぱあの人信用できない!」


 先に起き上がっていたチルは腕組みをして憤慨している。


「ならなんで協力してんだ」


 土を払いながらナイルは聞く。


「だって、現実にジルハードの王女はあそこに居たのよ!?」


「……そうだな。……まあ、なんだ。それはともかく、怪我とかしてないか?」


「私は大丈夫よ。ナイルは?」


「大丈夫。擦りむいただけ」


 彼の言う通り、ナイルの右腕のひじからは血が流れている。


「待ってて、治すから」


 チルは、ナイルの右腕を掴んだ。しかしナイルはそれをとっさに拒んだ。


「え……?」


 チルの驚く表情――二つのまるい目がナイルを覗く。


「え、いや、なんでもない。頼むよ」


 そう言うナイルはチルの顔を見ようとしない。先ほど自分がとった行動に罪悪感を感じているようにも見える。


「うん……」


 気にしながらもチルはもう一度ナイルの腕をとった。黒猫の時のように精神を集中させ、手の平から青い光を出していく。


 光に包まれナイルの傷は回復した。それと共に、チルの手から注ぐ青い光が上空に集まり――――ラティーヤと同じような青い玉を作り、ゆっくりとチルの元にやってきた。


 二人は唖然とした。自分の元に降りてくる玉を、震える手でチルは受け取った。


「ラ、ラティーヤと……」


「同じだな……」


 ここはキケルが魔力を制御できなかった場所。冷静に考えれば、この玉にロクサーノの力が関わっているのは明白だ。


 チルはかばんからもう一つの玉を取り出した。二つはまったく同じ大きさだ。


「これで封印を解く鎌が……?」


「そういう……事だな」


「でも何も起きない」


「……だな」


 チルは暗がりで輝く二つの玉をぶつけてみた。しかし音をたてるだけだった。


 鎌の作り方を知っているロクサーノは、ショーで当分帰ってきそうにない。飛ばされた二人は途方に暮れた。


「どうするか……」


「そうね……。なら私、もう一度王女に会いたい」


「王女に!? アンブランテの門に行くのか?」


「うん」


「え、おい……」


 言いながらチルは既に行動に入っていた。玄関の戸を開き、暗い廃屋をカンテラで照らして入って行こうとしていた。それに気付いたナイルは急ぎ足になりながら後を追う。


 廊下を渡り、大きな扉の前に着いてそれを開いた。その先には、いつものように三つの扉がある。


 キケルに供えたものは、ナイルいわくロクサーノがリビングに移したらしい。その時彼は、キケルについてすべて話したという。


「そう……。まあいいわ。捨てられなかっただけよかった」


 少しチルの声のトーンが下がった気がした。それでも次には、彼女は右側の門に向かって行った。


 時差なのか、王女の部屋はまだほんのりと明るい。夕焼けの光が窓から差し込む。


 チルは王女へと近付き顔を覗き込んだ。まだ少女のような顔つきのこの王女は、よわいは十八と伝えられている。つまりはチルよりも年上ということだ。


 綺麗な人、とチルは目を細めて言った。触れようとしても、王女に纏わり付くもののせいで近付く事は許されない。


 チルはしばらく彼女を眺めていた。外は闇に覆われ始めている。辺りが暗くなっていることに気付いて彼女は立ち上がった。


「戻るのか?」


 それまで後ろで何も言わなかったナイルが言った。


「うん」


「そうか。なら、戻る……」


 振り返ってナイルは口を止めた。


「どしたの?」


 彼の目線――――アンブランテの門のある所には、それまではなかった扉が隣に並んでいた。


「何……あれ……」


 チルは眉をひそめた。


 普通の扉よりも幅が狭く、人一人が入れるくらいの大きさでしかないそれは、両開きの扉の半分を切り取ったような形をしている。


「どうする? 行ってみる?」


 扉を指さしながらチルは言った。


「俺に聞かれてもな……。やめといた方が無難だとは思うけど」


「まあ……そうだけど。……ロクサーノはこの扉の事知ってるのかな」


「帰ってきたら直接聞いてみたら? とりあえず、戻るなら戻ろうぜ」


 ナイルは既にアンブランテの門の取っ手に手をかけていた。


「そうね」


 それに答えて、チルも門に向かって行った。


 二人が廃屋に戻った。その後――――突如現れたその扉が音を起てて開いた。


 扉を閉める直前にチルが音に気付き、その扉を再び開けた。


「どうした?」


「なんか、音がした……」


 ナイルに振り向いたチルは少し青ざめた顔をしている。


「音?」


「うん。なんかキィーって……」


「誰かが城にいるのかな……」


 二人はゆっくりと、王女の部屋を覗き込んだ。ぱっと見渡す限りでは、特に異変は無い。ナイルは部屋に押し入った。そしてようやく気がついた。――――隣の扉が、外側に開いている事に。


「おい……これ……」


 チルもそれを見て息を飲んだ。


「……いつの間に!? だって、誰もいない……」


 二人は警戒しながらも、その扉の向こう側を覗き込んだ。しかし真っ暗で何も見えない。カンテラで辺りを照らしたが、やはり何も見つからない。


 ふいに、彼らを吸い込むような弱い風が吹いた。


 なんか不気味、とチルは言う。ナイルもそれに同意する。


 どこから吹いているのかわからないその風はやむことはなく、急に強さを増していった。


 風により、王女の部屋の調度品は倒れていた。ボロボロのカーテンは不気味に揺れている。


 そして、おどろく隙すら与えられないまま二人は風に飲み込まれ、暗黙の世界へと吸い込まれてしまった――――。


 部屋に残るは、二百年間眠り続ける王女のみ。半開きのアンブランテの門の隣に現れた扉は、音を起てて閉まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ