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リト・クァン

 次に彼女の前にロクサーノが姿を現したのは、ショーが始まる数時間前だった。呼び出し鈴がなって玄関のドアを開けると、ナイルと共にそこにいたのだ。


「早く支度しろ。ショーが始まる」


 どうやらロクサーノは、自分のショーに招待してくれるらしい。


 チルは急いで支度をして、二人の元に駆け寄った。


 ロクサーノは落ち葉を一つ拾い、魔法で大きくした。しかもそれは少し浮いている。それを見たチルとナイルが驚愕する声がする。


「乗れ。しっかり捕まってろ」


 ロクサーノが先に乗り込み、二人も後に続いて乗り込んだ。


 大きな葉っぱは絨毯のようにふかふかで、それもまた二人を驚かせた。


 ロクサーノはマジックアイテムと呼ばれる、一般人でも使える魔法の道具を作るのが得意だという。これもチルの魔力と同様、珍しい種の魔力なのだと彼はいう。


 しかしロクサーノ――リト・クァンが有名な魔法使いである理由は、やはりその魔力の強さである。直接的な魔法にも彼は長けていた。


 葉っぱはゆっくり上昇を始め、デイ・ルイズのテント目掛けて一直線に飛んで行った。チルとナイルは自分の村を上から眺められる感動に酔いしれている、といった感じだ。


 やがて生活テントの集落に着くと、役目を終えた葉っぱは元の姿に戻った。


 ロクサーノはショーの行われる大きなテントに向かい、二人について来いと言う。


 彼が案内したのは従業員用の裏口で、荷物が乱雑に置かれたそこの階段を上がり、証明機具が置かれている、舞台と客席の間の真上まで行った所だ。高さはあるが、ここならどの客席よりも間近に舞台を見る事ができる。


 ただし今日は証明機具は使わないらしい。黒い布がかけられていた。


 ロクサーノは二人にカンテラを二つ手渡し、準備があるからと下に戻っていった。


 しばらく、二人は証明機具の近くに積まれた椅子を出してそれに座っていた。下からは観客のざわめきが聞こえてくる。それにまじって二人も、先ほどの空からの眺めの話などをしていた。


 ――――そろそろショーが始まるという頃。ショートの黒髪のメイドが階段を上がってきた。


「ナイル、あれ……」


 存在に気付いたチルが、ナイルの裾を引っ張って彼女を指差した。


「お久しぶりでございます」


 メイドは丁寧にお辞儀をする。それに対して、はぁ……だの、どうも……だの、二人は曖昧な返事をした。


 小さなそのメイドは、彼らがロクサーノに初めて出会った時にいたあのメイドだった。


「私、ロクサーノ様に造られた、女中のメイスンと申します。」


「造られた?」


「どういうことだ?」


 二人は顔を見合わせた。


「私はロクサーノ様のマジックアイテムでございます。こうして身の回りのお世話をする為に造られました」


「へ、へぇー……」


「魔法ってそんな事もできるのか……」


「はい。――――で、ロクサーノ様からの伝言を持ってまいりました」


「伝言?」


 聞いたのはナイルだ。


「はい。『魔力を破壊しろ』とお伝えするようにと……」


「魔力を破壊!?」


 衝動でチルは立ち上がった。


「それって、観客に魔法で攻撃するって事!?」


「そうではありません! ロクサーノ様はそんな事をするお方ではありません!!」


 メイスンはハッとして、口に手を添えた。


「申し訳ございません……。少々興奮してしまいました」


「あ、いや……」


 それに対しチルは同様してしまった。考えた末に出た言葉は伝言への謝礼だった。


「つ、伝えてくれてありがとう。わかったわ。魔法の準備しとく」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 メイスンは頭を下げてから、来た道を戻っていった。


「ラティーヤを……」


 大きな拍手と共にショーがはじまり、チルは小さく暗唱した。


 舞台の真ん中には、大きな水晶がある。水晶の中にはブラックホールのような物が渦を巻いている。


 この水晶には災いが封じられていると、ロクサーノは舞台の上で説明する。


 彼が右手を上げると魔法の光が舞台袖から飛び出し、一人の女が舞台に現れた。きらびやかな衣装を身にまとった――――彼はそれをある国の王女だという。


 王女は願いを叶える為に、ある物を取りにきたらしい。


 王女は片手に剣を持っている。それを振りかざし、水晶を真っ二つに割った。


 割れた水晶は散り散りになり、会場全体に光となってゆっくりと落ちていった。それはとても幻想的だ。


 しかし対象に、舞台の上ではロクサーノが災いと言ったブラックホールが不気味に渦を巻いている。王女はそれを愛おしそうに抱きしめる。


 災いは王女の胸の中で爆発した。爆発した災いは、塊となってチル達のいる方へと飛んで来た。


「えっ!?」


 チルは驚いて後ずさった。ナイルも目を丸くして、襲い掛かる災いを見ていた。


「――――チル! あのメイドの言ってたやつだ!」


 思い出してナイルは叫んだ。


「あ、ああ!! ――――ラティーヤ!!」


 両手を突き出してチルは叫んだ。手が光り、光から女の姿をしたラティーヤの魔法が飛び出した。


 ラティーヤは迫りくる災いに立ちはだかり、災いをその身で包みこんだ。それは激しい光を発し、爆発した。光の粉が、水晶のカケラと混ざり合って会場を舞う。


 激しい光に目がくらんでいたチルは、そっと目を開け、まばたきを数回した。


「え……」


 ラティーヤの魔法の光と同じ黄色をした水晶玉が、地面に転がって――――浮いて――――チルの元に寄ってきた。彼女はそっとそれを手に取る。


 その時、客席から歓声が上がった。舞台では、王子が黒い馬に乗った騎士から王女を略奪しようとした所で、王子が砂と化して形を崩してゆく。


「それが鎌を作るのに必要な材料だ」


 突然、ロクサーノが手すりの上に軽く乗るようにして現れた。


「うわぁ!! いつからいたのよ!!」


「後は回復の方だな。これはどうして手に入れるか……」


 ロクサーノは驚いているチルに反応を示さず、次の行程を頭で整理している。


「人の話聞きなさいよ!」


「――――よし、今からお前達を俺の家に飛ばす」


「え、ちょっと!?」


 ロクサーノは葉っぱを一枚取りだし大きくし、それにチルを乗せた。しかしナイルには、乗せるのではなく、まず問い掛けた。


「お前も乗るだろ?」


 ナイルは「まあ……」と曖昧な返事を返す。


「じゃあさっさと乗れ」


 ナイルが乗ったのを確認すると、ロクサーノは左手を横に振った。


 葉っぱはスピードを上げて階段を駆け降り、テントから出て空へと飛び立った――――。


 それを見届け、ロクサーノは舞台に魔法をかけた。舞台上では観客をうならせる演出が続いている。


「お姫様のお相手は王子って誰が決めた?」


 ロクサーノはほくそ笑んだ。


 舞台の上では王女と騎士を囲むように、砂が光り舞い踊る姿が見られる。


「この村もあいつも、お坊ちゃんの王子が守れる訳がない。守るのは――或いは手に入れるのは、俺だ」

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