青い光
「僕は……僕は、消えたあの日に、自分の身体を破壊してしまった……。死んだんだ、僕は。もう何にも触れる事はできない」
キケルはナイルとチルの手に自分の両手を乗せた。しかし彼の手は二人の手をするりと抜けてゆく。
「そんな……!」
「おい……じゃあ今、目の前にいるお前はどうして俺達に見える? 悪い冗談でもいい! 今のは冗談だろ!?」
ナイルは勢いあまって椅子から立ち上がった。
「冗談じゃないよ。僕は自分の魔力のせいで死んだ。だけど、自分が撒いた災いの種をどうにかするまではどこにも行けなかった。それでも今日で僕は行かなくてはいけないみたい。どこに連れていかれるかはわからないけど……」
「会えなくなるってそういう事なの……?」
「うん。ねぇ、最後に一つ言い忘れた。……チルには僕と同じ目にあってほしくない。だから、何があってもそのペンダントは離さないで。いずれ魔力をコントロールできるようになっても、制御装置は自分自身の大き……守りにな……ら……」
「キケル!?」
キケルの声が途切れてゆく。体は透けて、透明さを増していっている――。
彼を引き止めようとしてチルは飛び付いた。けれど決して触れる事のできないキケル。チルは彼の体を通り抜けて、床にたたき付けられた。
「待てよ……」
キケルの体は、もう下半身が見えない。ナイルは彼の腕をとろうとしたが、やはり通り抜けてしまう。
チルが起き上がって上を見上げた時には、キケルは完全に消えようとしていた。口元が消える前に、彼の口が動いた。何を言っているかはもうわからないが、彼を見送る二人の友人には、最後の笑顔で言ったことがわかった。
廃屋に、ある少年の名を呼ぶ声が木霊した。
一瞬、粉のように細かい青い光が空を舞った。