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エピローグ:物語のおわり

 それから幾年が過ぎ。

 

 私が十年以上の年月を過ごしたあの森は、今では王族所有の地となっていた。あのボロ小屋は随分と前に解体されてしまったが、その場所には今ではこじんまりとしつつ頑丈な作りの館がある。


「そんな顛末がその指輪にあったんだね。」

「この話は墓場にまで持って行こうと思っていたのに。ここにいると口が軽くなっていやね。」


 しっかりとした作りのソファに腰掛けながら、レオはくすくすと笑った。私は縫い物をやめ、自分の肩をトントンと叩いた。


「ただ縫い物をするだけでは眠くなってしまうから、と。話を始めたのは君の方だろう、アーシェ。」

「この森に暮らしていた頃の昔話をしようと思っていたのに、気がつけばまた貴女との婚約話になっていたわ。あなたの相槌のせいよ。」


 話の合間に挟まれるレオの巧みな相槌によって、誘導されていた気がする。黙って微笑む彼の様子から察するに、おそらく間違ってはいないだろう。


「君の義妹の話は今回初めて聞いた。この国の淑女を代表するようなあの彼女がそんなおいたをしでかしていたなんて、今では考えられないな。」

「あの一件で彼女も思うところがあったのでしょう。今は義母の手綱をしっかり握っていてくれているから気楽だわ。…それより、どうして貴女と出会うまでの話を何度も私にさせるの?」


 気になっていたことをレオに尋ねる。思えば数年前、この館が森に建ってから。ここに来るたびに彼はこの話を好んで聞いていた。私の質問に対して、彼は肩をすくめて答えた。

 

「君が僕との初めての出会いを覚えていないものだから。二度目の出会いくらいは覚えていてもらいたくてね。」

「まあ。」


 呆れた私はそれだけしか返せなかった。彼の言う初めての出会い――幼少期の出会いを私が覚えていない事を、そんなに根に持っていたのか。


「…まあ、あまり印象の良い出会いではなかったから、忘れていられても構わないのだけれど。むしろそのまま忘れていて欲しい。二度目の出会いの方が印象が良さそうだし、そちらを覚えていてくれるなら、そうしてくれ。」

「なぁに、それ。」


 真面目な様子で続けられた彼の言葉に、思わず軽く吹き出してしまう。一度目の出会いを思い出せないことに対する罪悪感は、風に吹かれたように消え去った。彼はいつもこうして私の心を軽くしてくれる。


「ありがとう、レオ。」

「どういたしまして。何に対してのお礼かは計りかねるけど。」

「言わないわ。…そろそろお茶の時間にしましょうか、淹れてくるわ。」


 気恥ずかしさを感じた私はハーブティーを淹れようと立ち上がる。その様子を見たレオがさっと先回りし、私に手を差し伸べた。


「気をつけてくれ、アーシェ。いきなり立ち上がったりしたら。」

「この間の立ちくらみは結局何ともなかったってば。心配性ね。」

「お茶くらいは言ってくれたら僕が淹れる。今は身体を一番大切にしてほしいんだ。」


 そう言って私を座らせると、レオはさっさとキッチンへ歩いていってしまった。


「過保護ね、まったく。今から心配だわ。」

 

 一人呟いて、新しい命が宿ったお腹をさする。心配だ、なんて言いながら顔がにやけてしまうこと、この子には伝わっているだろうか。彼の行動の随所に、深い愛情を感じてしまうのだから仕方がない。


 机に無造作に置かれた赤子用の縫い物をまとめる。ハーブティーの香りがただよって来る頃、窓辺に飾られた一輪のハルジオンが風に揺られていた。


おわり

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