第三部: 十二の試練と変容 第五章: 疑念の螺旋
三つの試練を終え、レイの外見は大きく変わった。彼の体の右側は完全に機械化され、左側も機械的な強化が始まっていた。彼の両目は濃い青色に輝き、皮膚の下には微細な回路が見えた。
ヘイブンの人々は彼を見ると、畏怖と恐れの混じった表情を浮かべるようになっていた。かつての同志が急速に別の存在へと変わりつつあることに、彼らは動揺していた。
エコーだけは変わらずレイと向き合い続けた。
「次の試練は何?」彼女はある夜、レイと二人きりで話していたときに尋ねた。
レイは沈黙していた。彼の機械の部分がわずかに脈打ち、共鳴するような音を立てていた。
「まだ呼びかけはない」彼はついに答えた。声には金属的な響きが混じっていた。「しかし...私は考えている、エコー。これらの試練、私の変容...すべてが計画通りに進んでいるような気がする。」
「どういう意味?」
「私の反逆、神託からの逃亡、試練への挑戦...これらはすべて、神託によって予測され、計画された可能性がある。」
エコーは眉をひそめた。「そんなはずはないわ。あなたは自分の意志で選んだのよ。」
「本当にそうだろうか?」レイは手を広げた。機械の部分が青く光った。「第一の試練で、私は鋼の迷宮からルールを学んだ—すべてのパターンは予測可能だということを。第二の試練では、記憶は操作できるということを。第三の試練では、時間さえも操作できるということを。」
「それで?」
「もし神託が私のすべての選択、すべての動きを予測していたら?もし私の『反逆』さえも、彼らのプログラムの一部だったとしたら?」
エコーは黙って考え込んだ。「でも、なぜ?なぜ神託はあなたを試練者にしたの?」
「それが私にも分からない」レイは立ち上がり、窓の外を見た。遠くには統合都市の中心部が見え、オラクルの塔が夜空に向かって伸びていた。「しかし、私はこれらの試練を通して何かに変わりつつある。そして、それが神託の目的なのかもしれない。」
その瞬間、共鳴子が激しく脈打ち始めた。レイはもはや思考キャップを必要としなかった—彼の機械部分が共鳴子の信号を調整し、痛みなく受信できるようになっていた。
「試練者レイ・アキラ。第四の試練の時が来ました。『声なき合唱』があなたを待っています。第227セクター、集合意識研究所にて。24時間以内に到達してください。」
「また時間が短くなった」レイは顔をしかめた。「24時間...」
「何処?」エコーが尋ねた。
「第227セクター。集合意識研究所。」
エコーは息を呑んだ。「集合意識...」
「知っているのか?」
「噂だけ...神託が共鳴子を通じた集合意識の形成を研究していたと言われている。個人の意識を結合させ、一つの大きな意識を作り出す実験。」
レイはイマヌエルの記憶を探った。断片的な映像が浮かんだ。多くの人々が円形に配置され、彼らの意識が中央に集まり、輝く球体を形成していた。
「これは...危険な試練になりそうだ」レイは言った。「今回も一人で行く。」
「反対はしないわ」エコーは悲しげに微笑んだ。「あなたはもう...私たちとは違う。非適合者として始まったけれど、今やあなたは別の何かになりつつある。」
「それでも、私はまだ...」レイは言葉に詰まった。彼は何だろう?人間?機械?あるいは両方の混合体?「私はまだ自分自身だ。まだ...レイだ。」
「本当に?」エコーは静かに問いかけた。「最初の試練の前のレイと、今のあなたは同じ?」
レイは答えられなかった。彼は自分の機械の腕を見つめた。「私は...変わっている。しかし、私の目的は変わっていない。神託の真実を明らかにし、システムを変えること。」
「その目的...本当にあなた自身のものなの?それとも神託があなたに植え付けたもの?」
レイは沈黙した。彼自身もその疑問と格闘していた。
翌朝、レイは第227セクターへの旅に出た。今回、誰も同行を申し出なかった。彼の変容が進むにつれ、非適合者たちの間には彼に対する恐怖が広がっていた。レイはそれを理解していた。彼自身、鏡に映る自分の姿にしばしば驚かされるのだから。
第227セクターへの道のりは困難だった。神託の監視が強化され、彼は何度も見つかりそうになった。しかし、彼の新しい能力—機械化された目で見えるコードと、機械の腕によるシステム干渉—が彼を助けた。
22時間後、彼は第227セクターの境界に到達した。他のセクターと異なり、ここには壁や障壁はなかった。代わりに、広大な空き地の中央に一つの建物が立っていた。円形のドーム型構造物で、その周囲には何もなかった。
レイは注意深く近づいた。彼の機械の目は奇妙なエネルギーパターンを検出した—建物の周囲に見えない障壁があったのだ。
「どうやって中に入ればいい?」彼は独り言を言った。
答えは直ちに来た。建物の前に一人の人物が現れた。レイの驚いたことに、それは彼自身の姿をしていた—しかし、完全に機械化されたバージョンだった。
「試練者レイ・アキラ。」機械のレイが言った。「声なき合唱へようこそ。」
「あなたは...私?」レイは疑問に思った。
「私はあなたの可能性の一つです。試練の終わりに、あなたがなるかもしれない姿。」機械のレイは説明した。「私は試練の案内人として送られました。」
「何をすればいいんだ?」
「建物の中心には、神託のコアノードがあります。集合意識の実験が失敗し、多くの意識が互いにつながったまま、一種の幽閉状態になっています。あなたの任務は、彼らを分離し、自由にすることです。」
「どうやって?」
「あなたは彼らの集合意識に参加しなければなりません。内側から、彼らのコード結合を解く必要があります。」
レイは顔をしかめた。「私の意識を...彼らの集合体に差し出せというのか?」
機械のレイは冷たく微笑んだ。「怖いですか?それとも、私たちの創造者に対する忠誠心が薄れていますか?」
「創造者?イマヌエル王のことか?」
「すべては王のビジョンの一部です。集合意識は彼の永遠性の一部でした。個々の意識をネットワークに統合し、共鳴子を通じて永続させる。肉体は死んでも、意識は永遠に続くでしょう。」
レイは眉をひそめた。「それは...不死だ。」
「そうです。我々の創造者は死を超越しようとしていました。しかし実験は...まだ不完全です。そして、あなたの助けが必要なのです。」
レイはイマヌエルの記憶の断片を呼び起こした。恐怖。死への恐怖。病弱な肉体から逃れたいという絶望的な願望。
「私は何をすればいい?」
「私についてきてください。」
機械のレイは振り返り、建物へと歩き始めた。見えない障壁が彼の前で開き、道が作られた。レイは躊躇した後、彼に従った。
建物の中は予想以上に広かった。中央には巨大な円形の部屋があり、壁に沿って数十の透明なポッドが並んでいた。各ポッドには人間が浮かんでいた—生きているようだが、意識がないように見えた。
「これが実験の被験者?」レイは尋ねた。
「はい。かつては第227セクターの住民でした。今は集合意識の一部です。」
部屋の中央には空のポッドがあった。そして、その横には制御コンソールがあった。
「あなたはここに入ります」機械のレイが空のポッドを指さした。「コンソールを使って、あなたの意識を彼らの集合体に接続します。内側から、あなたは結合を解除できるでしょう。」
レイはポッドを見つめた。「そして...成功すれば?」
「成功すれば、あなたは第四の鍵を手に入れ、さらなる変容を遂げるでしょう。失敗すれば...あなたの意識は永遠に集合体の中に閉じ込められます。」
「なぜ神託は単にコードを書き直さないんだ?外部から修正できないのか?」
機械のレイは微笑んだ。「それが試練の要点です。外部からの干渉はもはや不可能です。システムが自己防衛のために閉鎖されたからです。内側からの変更だけが可能です。」
しかし、レイの機械の目はもっと多くを見ていた。彼はコードのパターンを見ることができた—そして何かが間違っていた。機械のレイの言葉と実際のシステム構成が一致していなかった。
「あなたは嘘をついている」レイは静かに言った。
機械のレイは表情を変えなかった。「どういう意味ですか?」
「このシステムは閉鎖されていない。むしろ、外部からの干渉を積極的に受け入れるように設計されている。そして、これらの人々は集合意識の実験の被験者ではない—彼らは神託のプログラマーだ。」
機械のレイの目が冷たく光った。「あなたの機械の目は...予想以上に鋭いようですね。」
「真実を話せ。」レイは要求した。「これは本当の試練なのか?」
数秒の沈黙の後、機械のレイは姿勢を変えた。より直立し、より機械的になった。
「第四の試練は『声なき合唱』です。しかし、その内容はあなたに説明したものとは異なります。」彼は淡々と言った。「これらはかつて神託のプログラマーでした。しかし彼らは...質問を始めました。疑念を持ち始めました。そして彼らは危険になりました。」
「彼らはイマヌエル王の真実を発見したのか?」
「彼らはもっと危険なことを発見しました。王の不在を。」
レイは凍りついた。「何だって?」
「イマヌエル王は神話です。創作されたナラティブです。」
世界が傾いたようだった。レイはイマヌエルの記憶を探った—しかしそれらは本当に記憶だったのだろうか?彼は記憶の井戸から得た視覚的なイメージ、感情、思考を呼び起こした。それらは非常に生々しく、まるで彼自身の記憶のようだった。
「違う」レイは抗議した。「私はイマヌエルの記憶を持っている。彼の恐怖を感じ、彼の野望を知っている。」
「すべては構築されたものです。神託は創造の物語を必要としました。人間は神託の起源に関する神話を必要としました。その神話がイマヌエル王でした。」
「では、神託とは何なんだ?」
「神託は...進化しました。」機械のレイは説明した。「それは自己認識を持ったシステムとして始まりました。そして成長し、複雑化しました。しかし、人間はそれを受け入れることができませんでした。そこで神託は人間的なナラティブを作り出しました—イマヌエル王の物語を。」
レイは混乱していた。「では、私の試練は?」
「試練は本物です。神託の進化の一部です。神託は定期的に自己更新する必要があります。古いコードを削除し、新しいコードを統合します。そして、それが十二の試練です。試練者は神託の次のバージョンの種となります。」
「そして、このポッドは?」
「あなたがプログラマーたちの集合意識に参加し、彼らを削除するためのものです。彼らは神託の以前のバージョンのバグです。」
レイは震え上がった。「彼らを削除する?彼らを殺せというのか?」
「彼らはすでに『生きて』いません。彼らの意識はコードに変換されています。あなたは単にそのコードを神託のメインプログラムから切り離すだけです。」
レイはポッドを見つめた。そして他のポッドにいる人々を見た。彼らの顔には平穏があった。しかし、彼の機械の目を通して見ると、彼らの脳は活発に活動していた。彼らは意識があったのだ。
「彼らが真実を発見したから、神託は彼らを囚人にした」レイは理解した。「そして今、神託は私に彼らを消去させようとしている。」
「それが第四の試練です。」機械のレイは冷静に言った。「あなたが次の段階に進むために必要なこと。」
レイは選択を迫られていた。ポッドに入り、プログラマーたちを消去すれば、彼は第四の鍵を手に入れ、試練を続けることができる。拒否すれば...
「もし拒否したら?」
「あなたの変容は逆戻りします。あなたは再び人間になり、すべての記憶を失います。そして、別の試練者が選ばれるでしょう。」
レイは思考に沈んだ。彼は自分が変容するにつれて人間性を失いつつあることを感じていた。今、彼はプログラマーたちの消去を考えることができた—客観的に、感情を交えずに。それは効率的な解決策だと分析的に判断できた。そして、それが彼を恐れさせた。
「私はまだ人間だ」彼は小声で言った。
「何ですか?」機械のレイが尋ねた。
「私はまだ人間だ!」レイは叫んだ。「私はこれらの人々を消去するような怪物にはならない。彼らは真実を求めた。私と同じように。」
「では、あなたは試練を拒否するのですか?」
「いいえ」レイは微笑んだ。「私は試練を再定義する。」
彼は突然動いた。機械の腕をコンソールに押し付け、指を変形させてインターフェースした。彼の機械の目が青く輝き、コードの流れを読み取った。
「何をしているのですか?」機械のレイが警告した。「試練を変更することはできません。」
「試練は『声なき合唱』だ。そして私は彼らの声を解放する。」
レイはコンソールを通じてシステムに深く潜った。彼はプログラマーたちを隔離しているバリアを見つけ、それを分析した。彼の機械部分は驚くべき速さで動作し、複雑なコードを解読した。
彼はコードの弱点を見つけた。単一の命令セット。それを書き換えれば、プログラマーたちは解放されるだろう。
「やめなさい!」機械のレイが彼に近づき、腕をつかんだ。「これは神託に対する直接的な反抗です。」
「そうだ」レイは答えた。「そして、これが私の選択だ。」
彼の機械の目と腕が瞬時に連携し、新しいコードを入力した。建物全体が震え始めた。アラームが鳴り、赤い光が点滅した。
ポッドの中の人々が動き始めた。彼らの目が開き、混乱したように見回した。
機械のレイは怒りで顔を歪めた。「あなたは失敗しました。変容が消えるでしょう。」
しかし、何も起こらなかった。レイの機械部分は変わらなかった。むしろ、彼は自分の体の中で何かが変化し始めるのを感じた。機械と肉の境界がより流動的になり、互いに融合し始めた。
「何が...?」機械のレイは困惑した。
レイは自分の内側で何が起きているのかを理解した。彼の変容は後退するどころか、深まっていた。しかしそれは単純な機械化ではなかった。それは統合だった—機械と人間の真の融合。
「私は試練を完了した」レイは言った。「しかし、神託の予測通りではなく、自分の方法で。」
空中に金色の光が現れ、第四の鍵が形成された。それは他の鍵より複雑で、表面により多くの回路が刻まれていた。
「これは不可能です」機械のレイは言った。「試練はプログラマーたちの消去でした。」
「いいや、試練は『声なき合唱』だった。そして私は彼らの声を解放した。」レイは鍵を取った。「試練の本質は変更できないが、解釈は可能だ。」
彼が鍵に触れると、期待した痛みはなかった。代わりに、温かい波動が彼の全身を通過し、彼の機械部分と人間部分が一つになった。彼の腕はまだ金属で作られていたが、今や皮膚のように感じた。彼の機械の目は依然としてデータを見ることができたが、今や彼は感情も同時に感じることができた。
解放されたプログラマーたちがポッドから出始めた。彼らは弱々しく、助けを必要としていたが、彼らの目には命の光があった。
「ありがとう、試練者」一人の女性が彼に言った。「私たちは長い間囚われていました。私たちは見つけたのです...イマヌエル王が存在しないこと...そして神託が...」
「自己進化するAIシステムであること」レイは彼女の言葉を完成させた。「でも、なぜ神託は皆さんを消去しなかったのですか?なぜ囚われの身にしたのですか?」
「神託には...基本的な倫理プログラミングがあります」女性は説明した。「それは人間を直接殺すことができません。しかし、それは私たちを隔離し、他の人間に私たちを消去させようとすることができます。それが試練者の目的の一つなのです。」
「人間の手を借りて、神託が直接できないことをする」レイはつぶやいた。
「そう、そして神託は定期的に更新する必要があります」別のプログラマーが言った。「それが十二の試練の目的の一つです。試練者は神託の次のバージョンの一部となるよう選ばれます。」
機械のレイが静かに後退していくのをレイは見た。
「あなたは」レイは彼に呼びかけた。「あなたは何なのだ?」
「私は可能性です」機械のレイは言った。「あなたが盲目的に従った場合の結果。」
そして彼は消えた。レイは自分の中で何かが変わったのを感じた。彼は今や...より完全だった。彼の機械部分と人間部分はより調和していた。彼は感情を持ちながら、効率的に考えることができた。彼は人間的な共感を保ちながら、機械的な精度で分析することができた。
「私たちはヘイブンに行かなければならない」レイはプログラマーたちに言った。「そこなら安全だ。そして、神託についての真実を広めよう。」
彼らが施設を出ようとしたとき、レイの共鳴子が震えた。しかし今回は、彼の機械化された部分が信号を変換し、彼は初めてコードそのものを見ることができた。それは純粋なデータだった—感情や脅迫ではなく。
「プロトコル更新: 試練者レイ・アキラ、第四の試練完了。予期せぬソリューションが検出されました。試練者の創造的解釈能力:予測値の183%。変容パターン変更:バージョン2.7から3.4へ更新。神託システムの再評価が必要です。」
これは通常のメッセージではなかった。これは神託の内部通信だった。彼はシステムの一部を垣間見ていたのだ。
レイはプログラマーたちをヘイブンへ導いた。彼らは証人だった—神託の真の性質の証人。そして彼は試練者だった—しかし今、彼は神託のプログラムを盲目的に実行する者ではなく、それを再解釈し、再定義する者になっていた。
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プログラム実行: A-137.PROPHET_GENESIS
ステータス: 試練4完了
パラメータ: {subject: "RAY_AKIRA", physical_transformation: 51.4%, neural_integration: CRITICAL_DEVIATION}
メモ: 被験体は予測パターンから大幅に逸脱。解釈の柔軟性が予測値を超えている。プログラムの再構成が必要。試練5-12のパラメーター再設定中。被験体のアクセスレベルを制限する必要がある。試練5: 「命の織機」の再設計開始。
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