遠い遠いご先祖さまの話
※※※
決闘開始まで、まだ少し時間がある。
俺は、舞台となるダンジョンの入口前にいた。
しかし、対戦相手はまだ姿を見せていなかった。
集合時間にはまだ余裕があるからだろう。
捜査局が、今回のために用意したダンジョン。
ダンジョンには名前がつけられており、舞台となるこのダンジョンにも当然名前があった。
【神界へ通じる塔】
というのが、このダンジョンの名前である。
高く高くそびえる、石造りの塔だ。
それも当然で、このダンジョンは千の階層から成っている。
「授業で習ったかな?
このダンジョンは、一部の転移者や転生者、渡航者の故郷にも飛んだことがあるんだよ」
そう説明するのは、イルリスさんである。
ちょっと前にやってきたのだ。
「そうなんですか」
俺は、へぇ、っとだけ返す。
しかし、ライリーはこのことを知っていたらしく、
「あ、それなら知ってます!
大崩壊の時ですよね」
そう口にした。
「そうそう、ほかの次元にある大世界まで巻き込んでねぇ。
それで、異世界に飛ばされちゃって、飛んだ先の異世界でも大混乱が起きたって話だよ」
「……そうなんですか」
ん?
と、俺は首を傾げた。
イルリスさんが二千年以上生きていることは、先輩達や本人から聞いたので知っている。
だから、イルリスさんは歴史の生き証人でもあるのだ。
彼は、大崩壊のドタバタを見てきたはずである。
しかし、今の言動ではまるで人伝で聞いたような印象を受ける。
俺の疑問を察したのか、イルリスさんは聞いてもいないのに当時のことを語り出した。
「僕もねぇ、その大混乱とか諸々に巻き込まれちゃってねぇ。
大崩壊で存在を否定、消されちゃってさ。
事件が解決するまで消えてたらしいんだよ」
なんか、さらりととても怖いことを言われた。
「復活した時には、報告の嵐で、もう大変だったのは覚えてるけど」
いい思い出だなぁ、とイルリスさんは語った。
「まぁ、世間話はこれくらいにして」
イルリスさんは本題に入る。
「君たちには、事前に説明はしてあるけど。
念の為、最後の確認をしようか」
確認は大事だ。
それを知っているので、俺は頷く。
ライリーは、緊張しているのかゴクリと喉をならす。
イルリスさんを見ながら、俺は自分の役割を口にした。
「今回の決闘騒ぎの裏にいる存在を炙り出すための、囮ですよね」
イルリスさんが満足そうに頷く。
数日前、イルリスさんと初めて顔を合わせた時のことが頭に浮かぶ。
この決闘をすることになった、そもそもの原因である手袋を投げつけられた、あの朝の出来事だ。
その光景を、たまたま居合わせたこともあり、隠れてみていた先輩トリオ。
同じ寮の先輩たちだ。
その中でも見えない物が視える能力を持つ、聖女先輩。
あの時、彼は妙なことを口にしたのだ。
曰く、決闘を申し込んできたルギィさん達に、なにか妙な気配がまとわりついていたらしい。
その妙な気配の主が、裏にいる。
少なくともイルリスさんは、そう睨んでいるらしい。
俺の言葉に、イルリスさんはニコニコ顔である。
「理解が早くて助かる、まぁ、あの子の子孫だから当然か」
???
あの子の子孫??
この人、俺のご先祖さまの知り合いなのか??
イルリスさんの言葉に、今度はライリーが首を傾げる。
「子孫??」
なんなら、同じ言葉を繰り返した。
イルリスさんは、今度は苦笑する。
「そそ、この子のご先祖にも似たようなトラブルが起きた時に手伝ってもらったことがあってねぇ。
もう二千年も前のことなんだけど。
まぁ、その時のやり方は大顰蹙を買っちゃって」
あははは、とイルリスさんは笑った。
大顰蹙って、なにしたんだろう、この人?
「何したんすか?」
俺以上に、ライリーが興味を示した。
「んーと、端的に言うとご先祖の子そっくりの人形作って、あの子の友達がそれを殺しちゃったんだよ。
友達が殺しせたのは、事故みたいなものだけどね。
とどのつまり、死を偽装したんだ。
友達にも、ほかの知り合いにもそのこと知らせてなくてねぇ。
ご先祖の子の葬式までやっちゃったから。
友達は精神崩壊寸前まで行ってねぇ。
ネタばらしして、戻ってくる時も大変な騒ぎになっちゃってさ。
いやぁ、あれはやり過ぎたなって反省してる」
なにしてるんだ、この人。
でも、あー、なるほど。
先輩たちが、イルリスさんに対してあまり良い印象を持っていなかったのは、似たようなことをずっと続けていたからか。
なんとなくそんな気がする。
話を振ったライリーはドン引きだ。
俺も、頬が引き攣るのがわかった。
「でも、そうやって味方を騙さないといけなかったんだ」
反省はしているが、後悔はしていないらしい。
それにしても、それがおれの御先祖って、よくわかったなこの人。
うちには家系図なんてものもないから、ご先祖さまがどこの誰か、なんて知らなかったし。
たぶん、死んだ母さんも知らなかっただろうな。
父さんと姉ちゃんの方も家系図なんて、無かったと思うし。
いや、意外にあったりするのか??
今度帰ったら、姉ちゃんに聞いてみるか。
「君は、そんなあの子の血を引いてる」
イルリスさんはさらに続けた。
「だからこそ、今回の騒動の裏にいるのが誰なのか調べなきゃいけないんだ」
「そんなに重要な人物だったんですか?
俺のご先祖さまって??」
わざわざ死を偽装した、ということは、元々命を狙われていた、ともとれる。
しかし、二千年前のご先祖様となると、現代を生きる俺からすると遠すぎて、どう反応したものかわからない。
イルリスさんは、まじまじと俺を見る。
「……そうか、君は、カキタ君はなにも知らないんだね。
まぁ、いまは時間もないし。
その話はおいおい、君のご家族も同席の上で説明しよう」
イルリスさんの言葉が終わるのと、ルギィさん達が姿を現したのは同時だった。
ルギィさんたちのほうをチラリとみて、また視線を戻すと、イルリスさんは煙のように消えていた。
そして、決闘ははじまった。




