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決闘準備と出しゃばりな悪魔

その提案に、その場の全員が目を丸くした。


学園内にある、会議室。

教師陣、生徒会役員、そして事の発端となったルギィ達が集まっている。

集まっている理由は、決闘に関するルールの取り決めのためだ。

しかし、ここにもう決闘を受ける方の者たち、つまりカキタとライリーの姿は無かった。


さて、教師陣、生徒会役員、ルギィ達が驚き、視線を向ける先には、金髪の男が座っている。

床に着くのではないかというほど長い金髪、生徒会長よりもなお真っ青で綺麗な青空の瞳。

女性と見紛うほどの、面立ちをした青年である。

しかし、二千年以上を生きる存在だ。

人なのか、それともエルフなのか誰もわからない。

わかっているのは、彼が神話時代から生きている存在だということ。


イルリス・ジルフィード。


それが彼の名前だった。


「いったい、なにを言って……」


ようやく声を出したのは、教師の1人であった。

それにイルリスは答える。


「ですから、捜査局として、決闘の場。

まぁ、会場ですね。

舞台、と言い替えてもいいですが。

それを提供しようかと」


「なぜ?」


生徒会長が続いて問いかけた。


「僕がここにいる理由と繋がっている、と言えば良いでしょうか」


場が場なので、イルリスも砕けた口調ではなくかしこまった丁寧な言葉で返した。

言いつつ、イルリスはニコニコと目を細める。

胡散臭そうな笑顔だ。


――絶対、なにかある――


その場のほぼ全員がそう思った。

しかし、誰も口に出さない。


「あなた方のお仕事は、事件の捜査のはずです」


毅然とした口調でそう言ったのは、学園長である。

カキタの家へ訪問した、老女だ。


「えぇ、捜査の一環です。

僕がここに来た理由です」


イルリスは、飄々と続ける。


「生徒が授業中に、魔法犯罪に巻き込まれ、死にかけた。

とてもとても、大変な事件だ。

子供たちは、宝です。

未来への、宝です。

各国の宝物です。

それを預かっている以上、卒業までは学園という宝箱に押し込めて鍵をかけ、しまっておかなかければならない。

それに捜査局が協力する、ということです」


「未来の部下だからですか??」


「そうですね。

捜査局の未来を担うかもしれない、若者は大切にしなければ」


イルリスは嘲笑しているようにも、真剣に言っているようにも見える。

だからこそ、タチが悪い。


この男の真意が読み取れない。


しかし、【捜査局の悪魔】の異名は伊達ではないことを、少なくともその場にいる大人たちは知っていた。


人を人とも思わぬ所業の噂が多いのだ。

有名なものはおとり捜査だろうか。

おとり捜査を平気で実行し、死なせた者は二千年の間で数しれず。


それ以外にも悪名を轟かせており、枚挙に遑がない。


捜査局(こちら)が舞台を用意するなら、万が一のことが起きてもすぐに対応できます」


言いつつ、イルリスは教師の一人を見た。

濃い桃色の髪をした、女性教師である。


「ねぇ、そう思いませんか、エス――…ステラ先生?」


カキタ達のクラスで世界史を教えている、ステラへ向かって、イルリスはそう言った。

イルリスとステラは面識があった。


昔からの知り合いなのである。

いま、彼女の名前を言い直したのも、つい昔の呼び名を言いそうになったからである。


「……そうですね」


今度はいっせいに、ステラへと視線が向けられた。

ステラはルギィ達を見つつ、


「確認したいのですが。

あなたは、イルリス殿は、この決闘に邪魔が入るとお考えということでしょうか?」


「えぇ。

話を聞く限り、今回の授業での一件は、明らかに巻き込まれた生徒を狙ったものと考えられます。

なぜ狙われたのか、それは不明です。

もちろん、犯人も不明です。

故に、神聖な儀式でもある決闘に邪魔が入る可能性も残されています。

決闘内容は、コロシアムでの個人戦、ということでしたが。

そこで遠方から狙撃でもされてごらんなさい。

その狙撃になにかしら細工がされていたらどうします??


そう、たとえば、蘇生魔法をキャンセルするような、狙撃魔法だったら??


学園側の技術力で、それをカバーし、万一があっても生徒の命を復活させることができますか?」


できねーだろ、と言っているようなものだった。

ある程度ならできる。

でも、ある程度以上のことが起きたら、できない。


生徒の命が大事なら、守りたいなら、そして神聖な儀式を行いたいのなら、捜査局の用意した舞台を使え。


こう言っているのだ。

そして、卑怯ではあるが、万一、決闘の最中に邪魔が入り参加者なり、観客なりが巻き込まれ命を落とした場合。

その責任の所在がハッキリするのである。


万一のことがあれば、それはすなわち捜査局の責任となる。


この提案は、要は捜査局側が泥を被ってやる、という提案でもあった。


魅力的な提案である。

そして、イルリスが胡散臭い悪魔的な存在ではあっても、この提案をしたということは、必ずやり遂げるということも、学園長は知っていた。


もしかしたら、落とし穴があるかもしれない。


そう考えながらも、学園長はこの提案を受け入れる事にしたのだった。


その決定に、ステラ以外がザワついた。


しかし、決定権は学園長にあった。


イルリスの提案は受け入れられ、舞台となる会場の説明にうつる。

それから、その舞台にそった細々した決闘のルールが決められていった。


全てが決まり、会議室から人々が出ていく。

ステラが出ていこうとしたところを、イルリスが呼び止めた。


「ちゃんと先生してるみたいだね」


いつもの砕けた口調で、イルリスはステラに話しかける。


「まぁ、一応」


「見込みのある子はいた??」


「…………」


ステラの頭に、とある生徒の顔が浮かんだ。

おそらく、優秀な生徒になるであろう少年だ。


「まあ、いちおう」


そこで2人は人気のない場所へうつる。


「僕もねぇ、見つけたよ。

いやぁ、驚いたね。

てっきり、入学した女の子のほうしか残っていないと思ってたけど。

続いてたみたいでね」


イルリスは、色々説明をすっ飛ばしている。


「何の話ですか?」


「【あの子たち】の子孫を見つけたよ。

現代だと【永遠の旅路を歩む者】と【愛を求め叫び続ける者】って言ってたっけ?

しかも、後者の直系だよアレは」


ステラの顔色が変わる。


「え、それはスノードロップの家しか残っていないんじゃ」


「うん、そのはずだったんけどねぇ。

スノードロップの家は前者の直系の子孫だけど。

どこかで分かれて、それでも血筋だけは残そうとしてたのかな。

ただの偶然か。

はたまた先祖返りで、直系のように感じたのかな??


たしか、君が教科担当してるクラスの子だったはずだよ」


「まさか」


「名前は、たしか。

そうそう、カキタ君って言ったかな」


名前を聞いて、ステラは頭が痛くなった。

どうじに、妙に納得してしまった。

そして、普段の彼女からは想像すらできない毒をはいた。


「どんな偶然だよ、クソが」


それから、イルリスをジト目で見た。


「なるほど、だから出しゃばって来たんですね、イルリスさん。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


「さて、その辺は想像におまかせするよ」


なんて言って、イルリスは静かな月のように微笑んだ。

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