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5.キミはカミを知っているか

 すっかり秋めいてまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 読書の秋、ミステリ談義にふさわしい季節となりました。


 今日は何を読もうかしらとウキウキしている皆様に、私からも是非、素敵な作家を紹介させていただきたいと思います。


 皆さんはアンリ・カミ(1884-1958)という作家をご存知でしょうか。


 かの喜劇王チャールズ・チャップリンに「世界で最も優れたユーモリスト」と言わしめた、フランス・バカミス界の泰斗です。


 いや、バカミスですらないですね。


 バカです(※誉め言葉)。


 今宵はそんなカミの魅力に迫ってまいります。


【注意事項】※必ずお読みください。

最後まで余すところなく語りますのでネタバレあります。最後まで語ったところで作品の魅力は損なわれないのと(それもどうなの)、どうせもう絶版だし……という気持ち。

どんな理由であれ、ミステリのネタバレ絶許な方はここでお別れです。また次回お会いしましょう。


 はい。


 注意事項は読みましたか?


 ではまいります。


 カミといえば、名探偵ルーフォック・オルメスシリーズが有名ですが(この語感⊂( ˆoˆ )⊃ どこから引っ張ってきたネーミングなのか丸分かりですね。ちなみにルーフォックは「アタマおかしい」という意味のLoufoqueのもじり、フランス語はHの音を発音しないのでHolmèsはオルメスとなります)、本日はここから食前酒として短編をひとつ、メインディッシュとして中編をひとつお出しいたします。


 ではまず、食前酒となる短編はこちら、「骸骨盗難事件」。


 普通に考えたら墓荒らしとか、博物館とか、理科室の標本辺りを想像してしまいますがノンノンノン。


 ある日、生きた男性の体内からすべての骨が盗まれるという事件が発生します。


 何故それが発覚したのかというと、被害者の毎日の日課であるレントゲン撮影を行ったところ、何と骨が映っていなかったからだそうです。


 この人は一体何をやっているんでしょうか。毎日だなんて被曝が心配です。


 名探偵は「どうしてそんなことを」と尋ねます。当然です。当然の疑問です。


 それに対する答えがこれ↓


 毎晩パリの物騒な歓楽街で遊んで帰るから、帰宅した時に銃弾とかナイフとかが体内に残ってないか確認する為。


 レントゲンを撮るまでもなく、銃弾が体に入ったらその場で分かりそうなものですが、この説明は普通に受け入れられます。


 名探偵は捜査に着手。


 ところが、事件は意外な展開に。


 なんと、この男性は昨夜、酔っていたせいでレントゲンのスイッチではなく、カマンベールの缶を押したそう。当然何も写りません。


 今日やってみたら、めでたくレントゲンに骨が写り、盗まれていないことが分かったのでした☆


 おしまい。


 どうだ下らないだろう。カミって大体こんな感じです。


 じゃあつかめてきたと思うので、メインディッシュいきますね。


 今日味わっていただきたいのは、知る人ぞ知る怪作、「衣装箪笥いしょうだんすの秘密」。


 何ならもう飲みながら聞いていただいても。それくらいの緩さで多分丁度いいです。


 本作で悲劇に見舞われるのは、とある秘密の研究に勤しむ博士と、彼の美しい一人娘、アンジュール。


 博士は解剖学の専門家なのですが、可愛い一人娘が処女として嫁げるよう、彼女のその器官を切り取って冷蔵庫保管していました。


 代わりに経験済みの器官を移植してもらったアンジュールは先端娘(原文ママ)のように楽しく遊びまくります。どんだけ遊びまくっても嫁ぐ時は処女に戻れるのでへっちゃらです。


 ところが、何とこの大切な処女の器官が、博士のかつての助手だった男に冷蔵庫ごと盗まれてしまうのです。


 彼はずっと美しいアンジュールに懸想していたのでした。


 うん……(*´꒳`*) いちいちツッコんでたら説明が進まないのでしばらくツッコミ放棄しますね。


 アンジュールは「処女として嫁げる日を夢見ていたのに」とガチで泣き崩れます。


 彼女の処女を取り戻すべく立ち上がったのは、我らが名探偵ルーフォック・オルメス。


 ですが、犯人である助手もまた、博士が認めるほどの解剖学の権威でした。助手はなんと捜査課長を誘拐し、彼の鼻に若者の脚を移植して送り返します。捜査から手を引けという警告です。


 助手は更に、アンジュールの彼ピをも殺そうとします。ちなみにアンジュールには本命彼ピの他に愛人が三人いて、メンズ四人はふつうに仲良しです。


 助手が彼ピ殺害の凶器に用いたのは衣装箪笥でした。


 それもただの衣装箪笥ではありません。


 後ほど発覚するのですが、この箪笥は実は、人間の脳髄を移植された樹木から造られた、殺人の意志を持つ生きた家具だったのです。


 扉がパカァ開いてギロチンのように首を切る仕様です。


 和箪笥と違って木の脚が四本ついているので歩行も可能。


 結果的に彼ピ殺害には失敗するものの、殺人箪笥はパリの街に解き放たれます。脚があるので勝手に出歩けてしまうのです。


 パリの街を血に染めながら衣装箪笥が向かった先は――そう、エッフェル塔でした。


 四本の脚を使って器用によじよじ上っていく衣装箪笥。箪笥の脚なんてかなり短いんじゃないかと思いますが、段差ほんとに超えれてるんでしょうか。合間で勿論、塔の中にいる人間たちをシャッシャッと殺っていきます。エッフェル塔で働く無線技士が決死のラジオ放送を行い、その様子が捜査本部に伝えられます。


 事ここに至り、捜査課長は記者たちの前で悲痛な覚悟を表明しました。


 場合によっては、エッフェル塔を爆破することも辞さない、と――。


 完全にテロとの戦いです。この話の何がすごいって、登場人物が皆メチャメチャ真剣なとこです。


 ちなみにこの段階では犯人である助手はもう捕まっていて、アンジュールのあれが入った冷蔵庫も無事に取り戻せています。ですが、もうそんなことどうでもいい。我々読者は今、箪笥の行方に目が釘付けです。


 やがて無線技士も凶刃の餌食となり、ラジオ放送も途絶えました。


 そして遂に、殺人箪笥はエッフェル塔の頂上に姿を現したのです。


 けれど――箪笥は既に満身創痍でした。


 我らがルーフォック・オルメスと彼が率いる警官たちの追撃により、体中に銃弾を浴びていたのです。箪笥がまとう鮮血の赤は被害者の血でしょうか、それとも箪笥自身の血でしょうか。


 箪笥は手摺の上にすっくと立ち、パリの街を嘲笑するかのように見下ろした後、空中に身を躍らせます。


 もはやこれまでと悟ったのでしょう。


 地面に激突した箪笥は木っ端微塵に砕け散り、こうして事件は幕を下ろしたのでした。


 この後、アンジュールと彼ピの幸せな結婚式がきて、いい話風にまとまって終わりです。


 いやぁ……。


 どうですか、皆さん。


 いちいちツッコんでたら説明進まないという、私の謎めいたメッセージの意味はもうお分かりになっている頃でしょう。


 よくここまで付き合ってくれましたよね。


 おれは今、何をご紹介されたんだ……? みたいな虚しさに囚われてはいませんでしょうか。


 でもね(謎の擁護)、今回はちょっといろいろ割愛してしまいましたが、カミは割とキレイに整合性取ってくるっていうか、ちゃんとつながってる伏線同士を流れるように回収してくるっていうか、何かヘンにクオリティが担保されてるんですよ。細部に抜けがないっていうか。そういうところはさすがなのです。


 でも。


 若者の脚が移植されたはずの捜査課長の鼻は最後までスルー!


 そこがまた素敵ですね。


 さて、今宵の食前酒とメインディッシュはいかがでしたでしょうか。


 奥深いミステリの世界には、まだまだあらゆる種類の美酒と美食が埋もれている。


 秋の夜長、これから読むのはバカミスにする? それともいつもの本格派?


 悩ましい季節になりましたね♡

バカみたいなあらすじのせいで、R18判定食らったらどうしようってドキドキしてる……。


あ、余談ですけど私、「R15」と「残酷表現あり」は必ずセットだと思っていて、「何でわざわざ分けてんだ……?」ってずっと素で思ってました。

よく考えたらありますね、残酷表現を伴わないR15。

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― 新着の感想 ―
知らなかった。 短編タイトルの古式ゆかしい味わいと今なお色あせないバカミスのきらめきが素晴らしい作家さんですね。 バカミスメタミス好きなんですが、深く考えず感性で楽しむ類のもの=『良さ』を言語化し…
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