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『第一話 魔王討伐』じゃ

 ※


 魔王軍占領域。

 炎と溶岩で覆われた黒い火山。その頂に魔王城はそびえ立っている。


「ついにここまで来たか、勇者クスロウよ」


 城の中心部。とてつもなくデカイ神殿に、すさまじくデカイ魔王がいた。


「まさかあの四天王すら倒すとは……敵ながらあっぱれだぞ」

「四天王?」


 オレはその巨体を見上げると、後ろを振り向いた。


「ああ……それってェ~さっきの門の前に立ってたやつらのこと?」

「……そうだが」

「あ~、そうかゴメンゴメン、チュートリアルbot A,B,C,Dだと思ってた。殺す前にもっとスキルとか出す暇与えた方が良かったかな」


 「てかそんなことよりここ立地悪くね?」オレは汗ばんだ服の首元をパタパタさせた。


「あっちいな……なんでワザワザこんな噴火しまくってる山の上に城建てたんだよ」

「貴様ッ!! わが魔王軍を愚弄するのも大概にしろ……! 許さぬ!!」


 魔王は大きな棍棒を振り上げる。それだけで凄まじい風が巻き起こり、


「力自慢みたいだな」

「当然だ。(ワレ)のレベルは3万5千。

 せいぜい数百レベルが限界の人間(キサマら)では到底たどり着けぬ次元ぞ」


 魔王が邪悪にほくそ笑む。


「へェ~」

「フン、強がりか。泣いて謝るなら今のうちだぞ」

「ハイハイそういうの良いから、早くかかってこいって」


 オレは背中の剣を抜いた。


「時間の無駄だぜ」

「言ったな!!」


 魔王は青筋を立て、棍棒を振り下ろした。

「おっと」ギリギリで避ける。


「アブネー」

「ふん、安心するのはまだ早い!」


 攻撃で破砕した神殿の破片が、ドリルのよう変化して降り注いでくる。

 矢継ぎ早に着弾。凄まじい衝撃波が巻き起こった。


「ふはは見たか!!」

「見た見た、見える攻撃なんて当たらねェよ」


 オレは無傷で魔王の足元に立っていた。


「なっ……どうやってかわした?」

「あんたのエイムが悪いんじゃない?」

「くそッ!!」


 魔王はまた棍棒を振るう。再び神殿が崩れ、その岩が弾丸となり発射される。

 その瞬間、オレはスキルを発動した。

「《攻撃予測》、《自動回避》、《空中歩行》」

 早口で唱えながら走り出す。

 空を足場にして飛び上がり、弾丸をかわす。


「ならば!」


 その先に魔王が回り込んできて、棍棒を叩きつけてくる。

 が、《攻撃予測》で捉えていた。

 オレは棍棒を錆びた剣で受け止めた。


「《衝撃反射》」

「ぐっ!?」


 攻撃した側の魔王の腕の筋肉が、バリバリと音を立てちぎれ飛んだ。

 青い鮮血が飛散し、奴は弾かれたボールのように石畳を転がると、神殿の彫像に叩きつけられた。


「ぐがっ!?」


「ちなみに、避けてたのは服を汚したくないからだ」


「あーあー」オレは鮮血が飛び散った服を見てげんなりした。


「王女に貰ったお気に入りだったのに……」


 魔王の紫色の顔がみるみる真っ赤に染まる。


「我を本気で怒らせたな……」


 棍棒を両手で持って、正眼に構える。先程とは違って接近してくる様子はなかった。


「キサマ……ひき肉では済まさんぞォォッッ!!」


 魔王は棍棒を思い切り地面に叩きつけた。

 ズン。

 と大気が震え、直後、爆風が吹き荒れる。

 地割れが生じたと思うと中から橙色のマグマが吹き出し、こっちに押し寄せてきた。


 …………怒らせてもこの程度か。

 オレはそれに対峙するように《封印剣》を構えた。


「《切れ味鈍化:解除》」


 そう唱えた瞬間、剣の周囲の空気がぐわんと揺れた。

 錆びた鉄のようだった刀身がきらびやかな銀色に染まる。


「《接地固定》《衝撃範囲限定》《反動吸収》……」


 さらに複数の制限スキルをかける。

 王国にまでは被害が及ばないようにしないとな。


「よっ、こらせっ!」


 オレは迫り来るマグマに向かって、銀の剣を振り下ろした。

 瞬間、魔王が棍棒を振り下ろした時の数十倍の衝撃波が巻き起こった。


 マグマが空中で静止した。

 そして爆発的な風圧によって、一瞬で押し戻されるように魔王の方へ寄せ返っていく。


「なにっ、待っ……ぐぉああああああああああ!!」





「まったく、期待はずれだぜ魔王サマ。頭は無事でよかったってとこか。それより下は……あ~見るに耐えんな」


 首だけになった魔王を見上げて、オレは顔をしかめた。生首でもこれだけ大きいと、負けヅラを拝むのも一苦労だ。


「なぜだ……なぜ……レベル3万5千の、この我が……」


 かすれた声で魔王が返す。


「言い忘れてたな」


 オレは剣をもう一度振り上げた。


「オレのレベルは、99万なんだ」


 絶句した魔王の額から突き出た角を切り落とす。

 これで任務完了だ。

 後のこいつは、まァ首だけだし、ほっといてもそのうち死ぬだろう。


「じゃ~ね~」

「おっ、おい! 待てッ! ほったらかしていくな……!」


 こうしてオレは転生1ヶ月でアッサリ魔王を討伐した。



「…………本当に置いていきおった。あのバカめ」

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