三日月島の住民
同時多発テロにより世界中で殆ど同時にゾンビが発生して人々に襲いかかった。
人々は逃げ惑う。
偶々そのとき船に乗って海上にいて、ゾンビ化の難を逃れた人たちも同じ。
ゾンビが発生していない島々に逃げ込もうとしたが、逃げ込むなら断崖絶壁に囲まれた島で無くては駄目。
サンゴ礁に囲まれた砂浜がある島には、海底を歩いてきたゾンビの群れが上陸し島民に襲い掛かった。
断崖絶壁に囲まれた島なら、島民の船を係留している港さえ防衛できればゾンビの上陸を阻止出来るからだ。
ただ島で生活出来る人の数は限りがある。
だから断崖絶壁に囲まれた島々は、石油を満載したタンカーや穀物運搬船などの乗員を搭載している荷を引き渡す事を条件に受け入れた。
海底火山が隆起してできたある群島の断崖絶壁に囲まれた島々にも、受け入れを求めて船が次々と集まって来る。
その殆どの船は客船などの観光クルーズ船。
「この金を払う、だから儂だけでも上陸させてくれ! 足りないなら鞄に詰め込んだ金全部渡すぞ!」
分厚い金の札束を振り回し上陸させてくれるよう怒鳴る金持ちらしい乗客。
「奴隷にされても良いから上陸させて」
見目麗しい女性が飽満な胸を見せびらかせながら哀願する。
それに対し港で上陸を拒み、ボートで近寄るクルーズ船の乗員乗客に銃口を向けている島の長が怒鳴り返す。
「金なんてこんな世界では紙屑だ!
うちの村の家庭を壊す気か? 売り払う先も無い奴隷なんて要らんわ!」
その時、1隻のクルーズ船から朗報がもたらされる。
同じ船会社に属するクルーズ船からの通信を聞いての事。
「オイ! 皆んな! 近くの三日月島がクルーズ船の乗員乗客も受け入れてくれているぞ!
但し条件があって、島の治安を維持するため上陸した者たちは隔離される事を受け入れる事。
混乱を回避するため最初に上陸するのは女子供で2〜30人ずつの上陸、女子供の上陸が終わったら船の燃料などの物資を引き渡し、最後に男性の上陸が許される。
この条件を受け入れるなら上陸を許すとの事だ」
その朗報に周辺に停泊していたクルーズ船全てから歓声が上がる。
「チョット待て! 今三日月島と言ったか?」
上陸を拒んでいる島の長が聞き返して来た。
「ああ、三日月島って言ったな」
ボートの乗員が返事を返す。
「なんだ、金が惜しくなったのか? もう遅いけどなハハハハ」
札束を振り回していた金持ちらしい男が笑い声を上げる。
「違う! 違う! 三日月島の住民は食人族なんだよ!」