恋愛ゲームの主人公、困った時はお互い様。
シヴォンさんの腕に元気になるようにと紋様と星を描いた。
金色に願いが光ったかと思うと、黒い『魔術禁止』の文字に吸い込まれてしまったけれど、シヴォンさん曰く、今まで何の反応も示さなかった‥という事だから、これは絶対希望を捨てちゃダメでしょ!
とはいえ、私が何かを描いても光って文字を吸い込むだけだし、大きな変化はない。強いていえば、手首に痛みがあったけれど、楽になったという事くらいだ。できれば、恋愛ゲームの主人公としては、ちゃちゃっと呪いを解除!なんて展開がいいけれど、現実はやはり甘くないようだ。
私とルルクさん、シヴォンさんで、木の下で手首に書かれた文字を見て、
「‥何か紋様で変わった模様を描いたから、だろうか」
「変わったって‥、星の模様はそこそこありますよ?」
シヴォンさんの腕をルルクさんとまじまじと見ながら話すけれど‥、一体どうすればこの文字は消せるのだろうか。シヴォンさんはといえば、私とルルクさんを交互に見ながらぽかんとしているけど、魔術師なんだし何か知らないのかな?
シヴォンさんは私達をまじまじと見て、
「‥二人とも、本当に怖くないんだな‥」
「そりゃ魔術はできませんし」
「俺もできない上に、そもそもこいつの方がよっぽど怖いぞ。すぐに色々起こすからな」
「ちょっと!ルルクさん?私だっていつもわざと起こそうと思ってやってる訳じゃないんですよ?」
「‥そうだといいんだが」
先ほど魔物虫がブーツに入って、裸足になった私の言葉はどうやら信じるに値しないらしい。じとっと呆れたように見つめられて、私は思わず遠くを見つめた。だって虫ばっかりは私にはどうしようもないし〜。
「ともかく!シヴォンさんの「呪い」をどうにかできないか、実験してみるしかないですね」
「実験‥?」
「何がきっかけで文字を吸い込んだのかとか、どうやったら解呪できるかとか?」
「‥本気か?」
「当たり前じゃないですか。あ、でもギルドに行くのは気が引けるなら、仕事終わりに別荘へお邪魔しますがどうしますか?」
できれば攻略対象とは一定の距離を保っておきたいのが本音だけど、流石にこれは放っておくべきじゃないだろうし。ルルクさんを見上げると、最早諦めの境地の顔をして私を見ている。あ、そうか、これってまたもやルルクさんを巻き込んでしまうな?!
「あの、ルルクさん忙しければ私だけでも‥」
「さっき裸足になった奴が何か言ったか?」
「‥いいえ、なんでもございません」
ぴえええ‥、なんでそんな睨むんだよう!!
巻き込んで悪いなぁって思ったのに〜〜〜!しかし、有無も言わさないルルクさんの真顔に一体何を言えましょう。
「じゃあ、ルルクさん、一緒に行ってくれます?」
「当たり前だ」
あっさりとそう言うルルクさんに、暗殺者って本当に面倒見がいいなあって思う‥。
シヴォンさんはそんな私達を見て、なんだか泣きそうな顔になる。
「‥すまない。恩に着る」
「いいえ、困った時はお互い様ですよ!」
にこーっと笑うと、シヴォンさんが私を見て慌てて顔を逸らした。
おっと?もしかしてもうツンデレが発動してるのかな?
と、ルルクさんが立ち上がったかと思うと、私の体をヒョイッと持ち上げた。
「る、ルルクさん?!!」
「また虫が入って裸足になられても困るしな。それと、お前の迎えが来たようだぞ?」
「え?」
私とシヴォンさんがルルクさんの見ている方角へ目を向けると、執事長さんと騎士さん達が慌ててこちらへ駆け寄ってくる姿が見えた。
「‥黙って出て来てしまったから‥」
「今度は一緒に散歩するか、声を掛けてあげて下さいね。倒れた時、皆さんすごく心配してましたよ。皆さん本当に優しくて羨ましいです」
私なんぞへっぽこおじ様に借金のかたに売られそうになったのに‥。
実の両親には別荘へ送られてしまったとはいえ、心配してくれる侍従の人達がいるってのは幸せだと思うし、やっぱり慕われていたからゆえ‥じゃないかな。
私の言葉にシヴォンさんは執事長さん達を見て静かに微笑んで頷くと、
今度は私とルルクさんを見上げ、
「今度、ぜひ来てくれ。その時には歓迎する」
そう言って、ちょっとはにかんでくれて‥、なんだかそれだけで私も嬉しくなった。
 




