恋愛ゲームの主人公は変わり者。
まさか花を採取しようと思ったら、魔物虫がブーツに入ってくるなんて誰も思わないじゃないか〜〜!!
ルルクさんに説明をすると、天を仰いで「なんつー奇跡を起こすんだよ」としみじみ言われた。恋愛の奇跡ならウェルカムなんだけど、私はどうしてこうトラブルの神に愛されているんだろう。
シヴォンさんは未だ赤い顔のまま私をチラチラと見ていて、私も居たたまれない。でも元気そうで良かった‥。気を取り直して、ルルクさんという壁からひょっこり顔を出す。
「あの、シヴォンさん、本当にご迷惑をお掛けしてしまって‥」
「べ、別に大丈夫だ!」
「あの私、シヴォンさんに紋様を描かせて頂いたユキ・ティラルクと申しまして‥、お身体の具合はいかがですか?」
「紋様師‥、お前が?」
「あ、はい」
「この「呪い」の体に描いたのか?」
「はぁ」
紛れもない私ですけど、何かまずいことがあったのかな?
シヴォンさんは驚いた顔をして、私をまじまじと見つめた。
「‥「呪い」の恐ろしさをお前は知らないのか?」
「い、いえ‥そこまでは」
「‥知らなくて描いたのか?」
ええ?そんなに確認取る必要あるの?
でも私が知っている日本語で書かれていたから、まぁ大丈夫かなって思ったんだけど、もしかして相当危険だったの?シヴォンさんをまじまじと見ると、
「‥呪いの種類にもよるが呪いは、解除しようとした人間を殺すこともあるんだ」
「え」
「‥魔術を使えない人間にとっては害はないとわかっていたからいいが、今後は「呪い」に簡単に触れない方がいい」
そうだったの?
でも私はそんな知識知らないんですよう!!
と、壁になっていたルルクさんの気配がピリッとしたものになって、私はそろっと視線だけ動かしてルルクさんを見上げると、怖い気配を纏ったルルクさんが私を見て、
「以後しないように」
「しませんってば!!そんな怖い話を聞いて、逆にどうしてすると??」
「‥お前は必要があれば触るだろう」
「そこまでしませんって」
「じゃあ俺が「呪い」にかかったら?」
「‥‥」
思わず考え込む私にすかさず「絶対触るなよ!!」と言われたけど‥。
いや、でも助けが必要だったらどうにかしたいって思うのが人間じゃないの?
そんな会話をする私とルルクさんを、シヴォンさんがまじまじと見つめ、
「‥‥知らないとはいえ、「呪い」が刻まれた俺に触るなんて、怖いもの知らずにもほどがある」
「そうは言いますけど、あれだけ青白い顔をしてたらどうにかしたいと思います」
シヴォンさんを真っ直ぐに見つめてそういうと、シヴォンさんが目を丸くする。
え、そんなに驚くことなの?と、頭上でルルクさんがハーッと大きくため息を吐いて、私の頭をわしゃっと撫でた。
「‥こいつはちょっと規格外だ」
「ちょっとルルクさん?」
「褒めてるんだ。一応」
「‥それなら、もうちょっと言葉を選んでもらっても?」
唇を尖らせると、ルルクさんがふっと笑って私を見て、
「で、どうするんだ?」
「あ、そうでした。あの、シヴォンさん紋様を確認させてもらっても?」
「‥‥本気か?」
「本気ですよ。ええと、ここでします?それとも別荘の方で?」
「‥‥ここで」
「じゃあ、そこの木の下で確認させてください」
シヴォンさんは半信半疑、といった様子で私と一緒に大きな木の下へ行く。
丁度いい場所に座ってもらって、私は断りを入れてからシヴォンさんの袖をまくる。手首には相変わらず黒い文字が『魔術禁止』と書いてある。そうして、その上に描いた紋様にそっと触れた。
「‥うん、紋様はやっぱり少し薄まってますね。体は少しは楽になりましたか?」
「楽には、なったが‥。いや、その前になんでそんな簡単に触れるんだ!」
「え?」
「呪われた体だぞ?害がないとはいえ怖くないのか?」
「別に。だって害はないなら問題ないじゃないですか」
「は?」
シヴォンさんが口をあんぐり開けて私をまじまじと見た途端、横にいたルルクさんがぶっと吹き出し「だから規格外だって言ったろ」っていうけど、もう少し素直に褒めて!っていうか、もしかしてシヴォンさんちゃんと治療されてなかったの?
「‥紋様師さんや呪術師に見て頂いたんですよね?治療は、」
「治療は特に。‥家族も怖がって俺を別荘に追い出したくらいだし‥」
そう呟くように言って、シヴォンさんが俯いて自分の手首を見た。
その顔を見て、だからあんなに自暴自棄になってたのかと合点がいった。‥それは確かに二重の意味でショックだったろうな。私はシヴォンさんの顔を真っ直ぐに見つめる。
「‥怖くないですよ。大丈夫」
「おかしいだろ、お前」
「そうですね、よく言われますねぇ‥」
チラッと私の隣に立っているルルクさんを見上げると、静かに頷かれた。
これでも恋愛ゲームの主人公なのに変わり者呼ばわりって、本当にこの世界はおかしいわー。
普通ってよくわからない..。




