恋愛ゲームの主人公、背中を見つめる。
あれからルルクさんと家に戻り、ルルクさんは一旦馬を返しに町へ戻り、その間に私はすぐに着替えて採取してきた植物を手早く洗ったり、干しておく。本当ならすぐにお昼を作りたいところだけど、これだけは申し訳ないけれど作業させてもらう。
まぁ、ルルクさんに「料理は俺が作るから大丈夫だ」って釘を刺されたからじゃない‥。多分。
「よし!全部終わった〜〜!」
裏庭の植物を植えてある庭に、湖で取ってきたハーブや花を並べてようやく安心した。と、それと共にルルクさんの服装格好よかったなぁとか、あの姿のまま町まで行っちゃったら、ギルドで働いているお姉さん達がまたときめいちゃうかもなぁなんて思うと、それはそれで胸が痛い‥。
ああもう!!蓋、蓋ぁあ!!
慌てて首を横に振って、家の中へ戻ると同時にルルクさんが玄関から紙袋を持って帰ってきた。
「あ、ルルクさんお帰りなさい」
「ああ。昼飯簡単でいいか」
「全然構いません。むしろ帰ってきたばかりなのにすみません」
恋愛ゲームの主人公なのに料理が苦手なばっかりにルルクさんにお手間を取らせて申し訳ない。眉を下げる私に、ルルクさんはふっと笑う。
「もう着替えたんだな‥」
「流石にあの格好では作業はできませんよ」
「それもそうか、また着ろよ。似合ってたぞ、蝶みたいで」
「ふふ、ルルクさん本当に蝶が好きですね」
後ろからキッチンへ行くルルクさんのあとをついていきながらそう話すと、ちょっと振り返ったルルクさんが目を細める。
「‥まぁ、そうだな」
「ルルクさんもその格好すごく素敵ですよ」
「‥そうか」
「シャツはいつも白だけど、黒も似合いますよね」
っていうか、私がルルクさんにシャツを買って以来、ルルクさん新しく買ったっけ?つい暗殺者を連想させるから、濃い色のシャツは買わなかったけど、こうも似合っているとちょっと着て欲しいかもしれない。‥首は切らないで欲しいけど。
ルルクさんは、お鍋を棚から取り出しつつ、「黒は汚れが目立たなくて確かにいいんだがな」と、大変暗殺者っぽい発言をしてちょっと怖い。気のせいだといいな。
「‥でも、お前が買ったシャツがあるしな」
「いや、ルルクさん3枚しか買ってないんで、そろそろ新調しましょうよ」
「この黒いので4枚だな」
「いやいや、もうちょっと違う色を開拓しましょう!何がいいかなぁ‥、ルルクさんの瞳に合わせて、青がいいかな、緑がいいかな‥。気を抜くと全てを丸く収めてくれそうな白になっちゃうし‥」
私がまじまじとルルクさんを見上げ、今度はお返しにシャツもいいかも?
なんて思っていると、もぞっと私の背中を何かが登ってきた感覚がして、思わず後ろを振り返る。
「どうした?」
「な、何か背中に付いてます?」
「あ?どれ‥」
ルルクさんが私の後ろを見ると、サッと何かを取ったかと思うと、ルルクさんの指には10cmくらいの緑のバッタのような虫がいる!!!手足をモゾモゾ動かしているのを見て、思わずぞっとする。
「む、虫??!」
「虫だけど、これは魔物虫だな」
「魔物虫??!」
「水場によくいるんだ。まぁ一匹くらいなら害はない」
そういうとルルクさんはキッチンのコンロの前にある窓を開けてぽいっと外へ投げ捨てた。
「う、うわぁあああ‥。ありがとうございます」
「虫がダメなのか?」
「いや、特別ダメって訳ではないんですけど、いつから背中にいたのかなって‥」
「‥湖から?」
「わぁあああ、気持ち悪い!!」
「‥お前でもそんな感覚あるんだな」
なんという言い草だ。
私がルルクさんをジロッと睨むと、面白そうに笑ってルルクさんが持って帰ってきた紙袋から美味しそうな苺を取り出して手渡してくれた。
「それでも食って待ってろ」
「‥私は子供か」
「‥どうだろうな」
ふっとルルクさんが笑って顔をコンロの方へ向けたのを見て、どうせお子様だと思っているのだろうと思って、ちょっとふてくされた気持ちで私は買ってきてくれた苺を口に入れた。
「美味しい」
って、ボソッと呟くとルルクさんの肩が可笑しそうに揺れて、なんだかその仕草に胸が苦しくなる。それと同時に、この背中をいつまで見ていられるのかなぁと苺を噛み締めながら、じっと見つめた。