恋愛ゲームの主人公考える。
シヴォンさんの手首に書かれた『魔術禁止』はまごう事なき日本語だ。
でも、ここがゲームの中だと思い出した時、私は世界中の文字を調べた。
当然日本語に似た文字は一つもなかった。‥って、事は小説でよくある転生者がいるのか?それとも同業者?
でもこれは確かに紋様じゃない。
魔力を感じないけれど、禍々しいものを感じるから、確かに「呪い」なんだろう。
「‥やはり、「呪い」があると紋様は効果がないのでしょうか?」
執事長さんの心配そうな声にはっとして顔を上げる。
考え事をするよりも先に、まずはシヴォンさんを助けないと‥。私はもう一度手首をじっと見る。
「この「呪い」はいつから?」
「‥今年の2月です。突然目眩を起こされて、医務室へ運ばれて‥起きた時には手首に」
2月って学園を卒業した月‥?
それって告白イベントの時だよね‥。
目眩を起こして倒れるなんて、そんなルートなかったよね。って、ダメダメ、また思考の波に落っこちてしまう。私は執事長さんを見上げて、
「これ以外の「呪い」はないんですね?」
「はい。それ以外は‥。なにせ魔術を使えなくなってから意気消沈なさって外出もままならぬ状態で‥」
「わかりました。それならば大丈夫だと思います。体力の回復と、食欲、‥睡眠は取れていますか?」
「い、いいえ、まったく‥」
「では睡眠が取れるようにと、精神の安定も書いておきます」
私の言葉に執事長さんはホッとした顔をする。
この「呪い」を見たら、普通の紋様師だって迂闊に何かを描いたら危険だと判断するだろう。でも幸い私は日本語が読めるし、これ以外の言葉がないとすれば大丈夫だとわかる。
本当ならシヴォンさんの好きなモチーフとか好きなものを聞いて描きたいけれど、今回ばかりは仕方ない。私はちょっと考えて星のマークと共に回復する紋様を描いた。日本語で小さく文字を書くのも忘れずに書くと、文字と紋様がキラキラと光って、すぐに消えた。
「これで一週間は大丈夫だと思います。ただ、衰弱が酷いとすぐ紋様は消えてしまいます。私はこの街のギルドで働いているので来て頂ければ、何度でも描きます」
「ありがとうございます!!ぜひ、またお伺いします!!」
執事長さんが目に涙を溜めてシヴォンさんを気遣わしげに見つめる。
‥大事に思われているんだなぁ。そういえば魔術師としても歴史の長い家柄だったし、期待されていた存在だったもんね。ゲームの中ではツンデレで可愛い!なんて言われていたけど、魔術が使えないなんて相当ショックだったんだろう。こんなにも衰弱しちゃうなんて‥面影もない。
青い顔で静かに寝息を立て始めたシヴォンさんを見て、ホッとした途端、ルルクさんが執事長さんをジロッと見る。
「‥そろそろこいつに着替えをくれ」
「そ、そうでした。申し訳ありません!すぐ準備を」
「あ、いえいえそんな急がなくても、っくしゅん!!」
あわわ、率先して急かしてしまったな??
メイドさん達に隣の部屋へ連れていかれたと思ったら、ものすごい速さで見たこともないくらい素敵な淡い黄色のワンピースを着せてもらい、靴まで素敵な皮のブーツを履いていて‥、驚いた顔のまま元の部屋へ戻った。
ちょっと驚いた顔のまま部屋へ戻った私を見て、執事長さんはにっこり微笑み、ティーセットがピシッと整えられた豪華なテーブルにあれよあれよという間に座らされ、お茶が出された。
「あ、あの‥?」
「これは私どもからせめてものお礼です。洋服はどうぞお持ち帰り下さい。本当にシヴォン様を助けて頂けて感謝しております‥」
「そんな‥」
「‥もうずっとあらゆる呪術師や紋様師に見せてきたのですが、解呪はおろか、文字の正体も突き止められなく、為す術もなかったのです」
そりゃ日本語ですしね。
そもそもこの世界の言語ですらないしね。
だから、あの文字を書いた人が誰なのか私は知りたい。
確かに禍々しい力を感じるあの「呪い」を誰が書いたのか‥、あとあれを解呪できるのか‥。
と、後ろから扉が開いた音がして振り返ると、
ルルクさんも着替えを貰ったらしい。
体に沿ったラインの黒いシャツに、こげ茶のズボン。
シンプルなんだけど腰に綺麗なブルーグリーンの腰紐を巻いて、黒い皮のブーツを履いたルルクさんが部屋へ入ってきて、側にいたメイドさん達が思わずほおっと息を吐いた。
わかる。
格好いい。
しかし、絶賛私は心の蓋を抑えるので忙しい。
ルルクさんと目が合うと、ニヤッと笑い「似合うな」と言うので顔が赤くなるのが分かる。やめてーーー!!うっかりそんなことを言うのは本当にやめてーーーー!!!!なにせここは攻略対象の別荘!間違ってもフラグはノーセンキューなのだ。




