恋愛ゲームの主人公と飴。
まさかの男性の前で裸足になるのがベッドに誘う合図なんて‥。
恋愛ゲームでは一言も言ってないのに!!と心の中で叫んだが、今は現実だから‥。
さっきは手を繋いでいたのに、あれから手を離して微妙な間のある私とルルクさんは、これまた微妙な空気の中で、湖の水際が見える場所まで歩いていく。
あああああ〜〜〜〜〜!!!!
穴があったら即ダイブしたい!!!私のバカ!!
あとついでにそんなマナーを学ぶ前にいかに早くお金が返済できるか学ぶしかできなかった私の過去よ!!へっぽこおじ様を一回くらいぶん殴っておくべきだった!!と、頭の中でグルグルとどうしようも感情が渦巻いていると、
「‥おい」
「はいぃぃいいい!!!」
「飴、食べるか?」
「飴‥?」
「昨日、じっと見てたろ」
「え?いつの間に??」
確かにルルクさんと苺飴を買った時、横にあった小さなビー玉みたいな飴が綺麗だなぁって思ってたけど、チラッと見てただけなのにルルクさんそれを見てたの?驚いてルルクさんを見上げると、可笑しそうに目を細めた。
「‥おら、綺麗だろ」
そういって、シャツの胸ポケットから小さな紙袋を出すと私の手に、コロンとビー玉のような綺麗な黄色の飴を渡してくれた。
「‥ルルクさんの好きな色ですね」
「‥‥そうだな」
飴を口に入れると、ふんわりと花の香りがする。
蜂蜜の飴が口の中をじんわりと広がると、知らず頬が緩む。
「美味しい‥」
「そりゃ良かった」
ルルクさんも紙袋から一つ飴を取り出して、口に放り込むと「甘い‥」と呟いた。そりゃ飴だしね。
「こうやってのんびり過ごすのもいいな‥」
「そうですね。でもお祭りが終わったらまたお仕事かぁ〜‥。仕事の内容は嫌いじゃないんですけど、時々面倒だなぁって思っちゃうんですよね‥。この時期しかない紋様液の植物を集めておかないとだし」
「植物?」
「夏しか採取できないのあるんですよ。それがないと発色が今ひとつとか、効果が薄れるとか‥」
私の話をルルクさんが頷きつつ聞いてくれて、さっきのちょっと微妙な空気が薄れていくのを感じる。きっかけを作ってくれたのはルルクさんだけど‥。本当なんだかんだで気遣ってくれて有難い‥。
「‥蝶の紋様に必要な植物はあるのか?」
「そうですね、ここだとあの黄色の花とかですかね‥。また近くここに来ないとだなぁ。そろそろ失くなってきたし‥」
「いいな。散歩がてら行くか」
「結構距離ありますよ?」
「今度は馬に乗っていけばいいだろ」
「そうだった、ルルクさん馬にも乗れるんだ!」
本当に万能では?って思っちゃう。
ルルクさんは可笑しそうに私に笑って、「一緒に行くだろ?」というのでもちろん頷いておいた。
「行き方が違うだけで少しは仕事も楽しめるだろ」
「‥普段はすぐからかってくるくせに、そういうのサラッと言っちゃうんだから‥、ずるい人です」
うっかり感情の蓋がガタガタいうからやめてくれ。
じとっとルルクさんを見上げると、ルルクさんがますます面白そうに笑う。まったく‥、絶対私を仕方ないお子様だって思ってるよ。
「‥結局ルルクさんにお返しをしたいのに、いつも助けられてばっかりです」
「そうでもないぞ」
「そうですか?私、何かできてます?」
どんなこと?とワクワクした顔でルルクさんを見上げると、眉を下げて笑う。
「料理を焦がしたり」
「え」
「すぐに転んだり」
「なんで」
「いきなりとんでもないことをしてるとこだな」
「それのどこがルルクさんに還元していると??!」
なんでそんなことがルルクさんにとって良いことなの?
目を丸くしてまじまじと見上げると、ルルクさんが小さく笑う。
「‥今まで誰かと過ごすことがなかったが、お陰で暇しない」
「それは喜んでいいんでしょうか?」
恋愛ゲームの主人公なのにとんでもない事しかしてないって、どうなんだ‥。私はちょっと遠い目で湖を見つめた。と、ルルクさんの指が私の右手の甲に軽く触れた。
「‥誰かさんに紋様を描いてもらうのも好きだ」
「それなら納得の答えですけど‥」
「酒に弱いのも面白いって言った方がいいか?」
「もうそこまでで!」
ビシッと止めると、ルルクさんがまた吹き出した。
もう!本当に暗殺者ってやつはちょいちょい人の心を弄ぶな?じとっと睨んだ私に、
「弁当、そこで食べるか?」
と、指差した場所はなかなか良い水際のスポット。
私が頷くと、ルルクさんはふっと笑って、
「靴は脱ぐなよ」
っていうので一気に顔が赤くなった。もう!!忘れてたのに!!!