恋愛ゲームの主人公やらかす。
ルルクさんと手を繋ぎつつ湖までピクニック‥。
字面を見たら完全にデートでは?
でも、ルルクさんそもそも暗殺者だし、フラグが立ったら私の首を切るかもしれないし‥、内心複雑だ。
恋愛ゲームのシナリオはすでに破綻しているとはいえ、私の死亡フラグだけはしっかり立っているような気もするし‥、でもアレスさんの事件を考えてみると、違うかもしれないし‥。一体どうなっているんだと思っていると、ルルクさんが私を見下ろし、
「また百面相してるぞ」
「はっ!!ちょっと思考の海に潜ってました!」
「‥溺れることなく戻ってきて良かったよ」
呆れたように話すルルクさんに、ちょっと照れつつ周囲を見回した。
大分歩いてきたお陰で、湖が見えてきて、涼しい風がふんわりと流れる。明るい緑の葉がさやさやと風に揺られて、それと同時に水音も聞こえてきた。
「湖、見えてきましたね!」
「結構早く着いたな」
「‥ルルクさんの歩幅のお陰ですかね?」
私だとちんたら歩くけど、ルルクさんは結構しゃきしゃき歩くから‥。
でも早く着いた分、湖を楽しめるからこれはこれでいいかもしれない。
「あ、ルルクさん、そっちに船着き場があるんです。行ってみませんか?」
「ボートがあるのか?」
「今は多分ないと思います。貴族達が夏のシーズンになると乗るんで、その時はズラッと並んでるんですけど‥。乗りたかったんですか?」
「‥いや、お前が乗ったら危険かと」
「もう!!どんだけ私危なっかしいと思われてるんですかねぇ!?」
じとっとルルクさんを睨むと、おかしそうに笑って私の指差した方へ歩いていく。
ガランとした船着き場は静かに水音だけが響いていた。近くには丁度いい感じに枝が垂れ下がって水面をゆらゆらと風が吹くたびに揺らしていて‥、思わずじっとその風景に魅入ってしまった。
「‥綺麗ですね」
「ああ」
「昔、ここへ初めて来た時、綺麗だなぁって感動したんですよね」
「‥一人で来たのか?」
「そりゃそうですよ。だってまだ知り合いがいなかったし‥」
「落ちなくてなによりだ」
「だから落ちませんって!それに私ちゃんと泳げますし?」
胸を張ってルルクさんに言うと、ルルクさんが目を丸くする。
ちょっと?もしかして私が何もできないと思ってない?
「昔、住んでいた家の側に泳ぐ場所があったんです。結構泳げる方だったんですよ?」
‥まぁ、貴族なんで?
一応小さなプールがあったんですよ。異世界なのにプールがあるの?!って驚いたけれど、小さい頃は泳いで遊んでいたっけ。その後はへっぽこのおじ様のせいで資金繰りというお金の中を溺れそうになるという泣ける話になる‥。ああいかんいかん、暗くなるから忘れておこう。
「ルルクさんは泳げるんですか?」
「多少な」
「なんでもできるんですね‥」
「‥そんな器用じゃない」
「あれだけ料理ができて、紋様まで綺麗に描けるのに?」
「‥料理は、割と簡単にできるぞ」
それができてれば私は苦労してません。
無言で唇を尖らせると、ルルクさんが小さく吹き出した。まったく、自分が器用だってもう少し自覚した方がいいと思うよ?
それはそうと船着き場の先まで一緒に歩いて水面を見ると、水が今にも触れそうだ。‥誰もいないし、足先だけでも水につけたいなぁ‥。
「ちょっと、ブーツ脱いでもいいですか?」
「は?」
「水に足を付けたら気持ち良さそうだなぁって‥」
と言いつつ、ルルクさんの答えを聞くことなくササッとブーツの紐を解いて、素早く素足になると船着き場のふちに座って足を水に付けた。
「気持ちいい〜〜!ルルクさん、冷たくて気持ちいいですよ!」
にこーっと笑って、後ろを振り返ると目元を赤くしたルルクさんがちょっと明後日の方向を見ている。
「‥ルルクさん?」
「‥‥一応聞くが、お前それを人前でやってないよな?」
「え、初めてですけど‥」
「俺の国とお前の住んでいるここの風習の違いもあるかもしれないが、裸足になるのは、その、恋人との間しか許されない行為だ」
「へ」
なんで恋人との間でしか許されないの?
はてなマークが顔中から出ていたのであろう私をルルクさんが目元を赤くしたまま、チラッと見る。
「‥つまり、ベッドに「わーーーーー!!!!わかりました!!」
つまりお誘いしちゃう合図みたいなものね!??
私の国ではどうだかわからないけど、ルルクさんの国ではそういう事なのね!??私の顔まで赤くなってしまって、慌てて立ち上がって足を乾かそうとすると、ルルクさんがサッと後ろを向いてくれた。お気遣いありがとうございます!!
嗚呼〜〜〜〜!!!
恋愛フラグを立てないように!って思ってるのに、私が無知なばっかりに色々やらかしてしまってる‥。どうかこれがフラグの一つになりませんように!!そう思いつつブーツを履き直すとルルクさんが視線だけ動かして私を見る。
「‥溺れるのも困るが、それだけは絶対するなよ」
「はい‥」
なんとも微妙な空気になって、恋愛ゲームの主人公なのに己の浅はかさを呪った‥。




