恋愛ゲームの主人公の意志は薄弱。
ルルクさんは翌朝早く早速見回りに行ったらしい。
というのも、私が起きたらもう帰ってきてるから‥。そういうの早く言ってくれよ。そう思いつつ、本日はルルクさんが見回り中に見つけたベリーの実がのったパンケーキである。
暗殺者のスキルすごくないか?
ふわふわの生地を口の中に入れると、雪のように溶ける。美味しい‥。私が焼くと確実に煎餅になっちゃうのに‥。
「まだあるぞ」
「食べます〜〜!!美味しい!!ルルクさん天才!!」
「‥そうか。ああ、そうだ。祭りだが夕方何もなければ普通に終えるらしい。レトが片付けを手伝えるなら夕方来て欲しいと言ってた」
「ああ、そっか今日で終わりですもんね。準備は時間が足りないって思ったのにあっという間でしたね」
ルルクさんが頷いて、パンケーキを一口食べて私をちらっと見る。
「今日はどうする?」
「流石に2日連続でお買い物は‥。今日は家の家事をして夕方片付けに行きますよ。あ、でもそうか皆お祭りに行ってるなら誰もいないかな‥」
「なんの話だ?」
「湖まで散歩です!前に話してたじゃないですか。皆お祭りでそっちに行ってるだろうからピクニックに行くには丁度いいかなって‥」
そう言っておいてから、ルルクさんはそういえば見回りしてきたし疲れているかなって気付いて、
「あの、でもやっぱり‥」
「行く」
「え?でも疲れてません?」
「見回りでなんで疲れるんだ。それに誰もいない方が静かでいい。昼寝もできそうだ」
ニヤッとルルクさんが笑って、「サラミ買ってあるしな」と言うと、窓の外を見るので私もつられるように外を見ると、今日もいい天気だ。さんさんとお日様の光が木々の合間を縫うように落ちて、葉っぱがキラキラと輝いている。
「‥こんな日に出掛けるのも悪くないだろ」
「じゃあ、行きますか!お皿、私ルルクさんのも洗います!」
「サンドイッチ、サラミと他に何がいい?」
「卵の‥!美味しかったんで」
「わかった」
ルルクさんがコバルトブルーの瞳を細めて笑うと、パンケーキを食べてすぐに席を立った。私も慌てて食べて、お皿を持ってキッチンへ行く。お皿洗うって言ったのに〜〜。もぐもぐしつつルルクさんの背中を叩くと、ルルクさんは私の頬を見て、ぶっと吹き出した。
「ちゃんと食ってから来い」
「でも、お皿‥」
「大した量じゃないだろ。ほら、付いてるぞ」
ルルクさんが私の口元に手を伸ばして、ゴシゴシと擦った。
しまった!接触を控えようと思ったのに、自分からやってしまった‥。赤い顔でなんとかお礼を言うとルルクさんが面白そうに笑う。‥この人、本当に人をからかうの好きだよね。唇を尖らせつつお皿をルルクさんと片付けて、サンドイッチを作る手伝いをしようと思ったけれど、
「パンをよくそんな手つきで切ってたな。危ないからそっちで支度してろ」
と、キッチンを追い出された。
‥恋愛ゲームの主人公が料理を作って追い出されるって聞いたことある?!
仕方なく大きめのシート代わりの布や水筒、お菓子なんかを籠に入れて用意したけど‥、いいのかなぁ。まぁいいか。昨今の男性料理もするしね!!
少しするとルルクさんがサンドイッチをペーパーに包んで持ってきて、準備を終えて早速出掛けることにした。なにせのんびり歩いていくと1時間くらい掛かるし。
家を出ると、春の爽やかな風が頬を撫で、歩くには丁度いい陽気にウキウキしてしまう。
「ルルクさん、こっちの道をずっと歩いていくと湖です!」
「はいはい」
私が先導するように歩いていこうとすると、小石に躓いて転びそうになる。
「わ!!」
パシッとルルクさんの大きな手が私の手首を掴んで、あわや顔面ダイブは免れたけれど呆れたようにルルクさんに見下ろされ、
「まだ5分も経ってないぞ‥」
「い、いや、今のはちょっとつまづいただけ‥」
「ほら、手を繋いでおけ。また転ぶぞ」
「大丈夫ですよ!お子様じゃないんだから‥」
接触を控えようと思ったのに、それでは意味がない。
私はサッと前を向いて歩こうとすると、
「‥一緒に歩きたい」
ルルクさんの低い声が私の足を止めた。
そろっと後ろを向くと、ルルクさんが目を細めて私を見つめ、手を差し出した。
「素直に言ったぞ?」
「〜〜〜〜ううううう!!!!」
胸の奥底の蓋があわや外れそうになって、私は慌てて漬物石とダンベル、辞書を積み重ねた。あ、危ない!!暗殺者本当に危険だ‥。しみじみと思いつつ、素直に言ったルルクさんに抵抗できず私はルルクさんの手をそっと握った。




