恋愛ゲームの主人公細心の注意を払う。
お祭りをしっかり楽しんで、ルルクさんと苺飴を食べたり、珍しい植物で染めたシャツを買ってみたり、なんだかデートのようだったなぁと帰ってきてから気付いた。ま、待てよ?これって恋愛フラグになってないよね?
「おい、料理できたぞ」
「は、はいいい!!」
今日も今日とてルルクさんの料理を有り難く頂戴する恋愛ゲームの主人公。
設定がそもそもおかしいんだよなぁ!?料理ができないヒロインって普通あんまりいないよね‥。テーブルを台拭きで拭いて、カトラリーを出すとルルクさんが大皿にサラマンダーのお肉と野菜やキノコを添えて出してくれた。
なんていうか、日々レベルアップしてる気がする。彩りも盛り方も綺麗。
反対に私の料理の腕は衰えていってるような‥。
「なんだ?何か嫌いな物があったか?」
「いえ、ルルクさんの料理ですっかり美味しい思いをしている今、自分で料理を作るようになったら食べられるかなって思ってただけです」
ルルクさんが私の言葉を聞いて、目を丸くする。
「‥俺が作れば別にいいだろ」
「いやもう本当それに甘えている訳にもいかず?!」
だっていずれ離れる可能性の方が大なんだよ?
そもそも暗殺者のルルクさんだしさ?どんなフラグが待ってるかわからないしさ?ルルクさんは私を訝しげな目で見ながら椅子に座る。
「まぁ、確かに今度周辺を見回りに行くから、時々自分で作る必要があるかもな」
「え?見回り??」
初めて聞いたぞ、その話。
私がルルクさんを見上げると、ルルクさんはサラマンダーのお肉をナイフで切り分けながら話してくれた。
「この間、狼の魔物が群れで出たろ。本来はこの地域にはいないタイプだ。もしかしたら洞窟がどこかにあるのかもしれないし、移動しながら餌場を探しているのかもしれない。どちらにしろ、町の周辺に居ついちゃ困るから、追い払う必要がある」
そうなんだ!
今まであまり魔物の話を聞いたことがなかったけれど、ギルドの人達や警備隊の人達がこうやって追い払ってくれてたから‥なんだろうなぁ。
「いつまでそれを?」
「‥それがわかればいいんだがな。ひとまず洞窟が周辺にないか調査して、他にも危険な魔物がいないかも見回りして調べておく必要がある」
と、いうことはまだルルクさんはいてくれる‥ってことでいいのかな?
嬉しい気持ちと、魔物を調べるという危険な仕事に心配な気持ちもあって‥、私はルルクさんから綺麗に切り分けられたお肉ののったお皿を受け取り、思わず眉を下げる。
「‥気をつけて下さいね」
「それはお前もだ。俺の蝶じゃなんの効果はないしな」
ルルクさんが私の右手の甲を指差す。
昨日描いてくれた黄色の蝶が、部屋の明かりを浴びてキラリと光った。
私にとっては、すごく効果がありそうだけどな。
「ルルクさんが描いてくれたから、強くなれた感じするんですけどね」
「‥そういう願いはしてないな」
お願い‥しながら描いてくれたの?
目を丸くして、ルルクさんを見上げると本人はすっと目を横に逸らした。
「え、何?何をお願いしながら描いてくれたんですか?」
「‥そういうのは言うと、効果が薄れるって言わないか」
「そうなんですか?ええ、でも気になる‥」
「ダメだ。お前はただでさえ危険なことをするからな、絶対言わない」
「なんですかそれ。私は安全安心な人間ですよ」
「なんで安全安心な人間が爆発起こして、崖から落ちるんだよ」
‥グウの音も出ない。
ええ、そうです。やらかしましたけど、あれは死なない為の苦肉の策です。
崖から落ちたのは、ちょっとしたアクシデントだったけど。
「もうしませんってば!魔力はあっても、魔術はできないし‥」
「当たり前だ。もうするな」
「‥ルルクさんって、結構心配性ですよね」
お肉をパクッと口に入れてもぐもぐ咀嚼しつつそう言うと、ルルクさんが呆れたように私を見つめ、
「‥お前は本当に‥」
と、ため息を吐くと、目を細めた。
「‥心配するに決まってるだろ」
低い声がすっと心の中に響いて、思わず動きが止まった。
眼帯を外したルルクさんのコバルトブルーと緑の瞳にじっと見つめられて、目が離せなくなってしまう。と、ルルクさんが私の方に手を伸ばす。
「え‥」
「ソースついてるぞ」
口元をルルクさんの指がそっと撫でて、ついていたソースを舐めるから私は叫んだ。
「っだーーーーーーーー!!!!!???」
「いちいち叫ぶな」
「だ、だだ、だって、な、舐め‥!!???」
「ほら冷めるぞ。早く食え」
呆れたように笑うルルクさんに、私の心臓が弾ける。
やめて!!本当にやめて!!心臓に悪い!
決めた!接触をできるだけ控えよう!!手を繋ぐなんてもってのほかだ!そう堅く決意して、私は細心の注意を払ってサラマンダーのお肉をそっと口に入れた。




