恋愛ゲームの主人公は願う。
あれからギルドに行って治療をして貰って、さぁ帰ろう〜と思って立ち上がろうとした私を軽々と抱き上げたルルクさん。
「なんでまた抱き上げるんですか!??」
「反省期間は祭りが終わるまでだぞ」
「そんなしれっと!!恥ずかしいですってば!!」
「そうじゃなきゃ反省しないだろ」
「もう!!無茶苦茶です!それに私、お、重いでしょうに」
「‥小麦粉と同じくらいだな」
「それ大袋ですよね!??っていうか、同じって‥」
完全に私の体重バレてるじゃーーん!!!
ルルクさんに縦に抱きかかえられたまま遠くを見つめた。嗚呼、乙女のトップシークレットを‥。
そんな一部始終を見ていたレトさんがそんな私達を見て、可笑しそうにお腹を抱えて笑った。
「お前ら本当面白いな。いや、黒煙が見えた途端、ルルクが血相変えて飛び出して行った時は何が起きたんだって思ったけど、本当にユキが無事で良かったよ」
「‥え」
ルルクさん、血相を変えて飛び出したの?
私がルルクさんを見つめると、ルルクさんが舌打ちする。
「‥俺に蝶を描くのはお前だろ」
そう言って目を逸らしたけれど、心配してくれた事に胸が嬉しさで一杯になる。
くっ!!でも、ダメダメ!!うっかり蓋が!!感情の蓋がまたズレてしまう!!必死に漬物石とダンベルを重ねるけれど、ルルクさんの攻撃力強過ぎる‥。
と、レトさんが胸ポケットから小さな布袋を取り出して、私に手渡した。
「え、これ‥」
「約束してた金だ。今回本当に助かったよ」
「ええ!?ダメですよ!だって私、ちゃんと期限まで仕事をしてないし」
「実はアレスさんに渡しておいて欲しいって頼まれたんだよ」
「え?!」
私が目を丸くすると、ルルクさんの眉間にシワが入る。
ん?なんでルルクさんが機嫌が悪くなるの?レトさんは不思議そうな私を見て、ニヤッと笑う。
「‥ま、心に響く紋様を描いたからじゃないか?」
「心に響く‥?」
「皆、時々迷ったりするからな‥。お前の紋様嬉しかったんだろう」
そうなの…?
でも、それならそれで嬉しい。
誰かに喜んで貰える‥それは私にとっても嬉しい事だから。
小さな布袋をそっと握りしめると、ルルクさんが私をジトッと見るので態とらしくにこーっと笑う。
「これでルルクさんに奢りますね!」
「‥好きにしろ。ただしこの体勢で祭りに行くからな」
「なんでですか!??善行を行ったのに!?」
「手段が悪過ぎる」
自分はゲーム中では人の首を手段を選ばず切り落とすくせに!!
そんな言い合いをする私達を眉を下げて笑うレトさん。笑ってないで助けて!!乙女のピンチです!!
「さ、帰るぞ」
「ちょ、もう!ルルクさん!??」
「あ、お前ら〜〜、一応魔物は倒したけど道中気をつけろよ〜。あとルルク、見回りしておきたいから明日も頼んだぞ」
レトさんが笑って手を振るので、私も慌ててルルクさんに抱き上げられたまま手を振って外を出ると、空はすっかり夕焼け空だ。
嗚呼、クッキー作りもおしまいなんて‥、結構楽しかっただけに寂しい。
そんな私を他所にルルクさん、本気で私を抱き上げたまま町の中を歩いていく。恥ずかしくないのか?暗殺者って‥。
「そういえば狼の魔物はどうしたんですか?」
「‥この地域では見ないタイプだったから、ダルゴの街にある警備団に報告するそうだ。お陰で明日も見回りだ‥」
「え、すごい。信頼されてますね」
「‥どうだか」
「そうですって!ルルクさん強いし、頼りになるし!料理もできるし!」
「‥最後のは違うだろ」
ルルクさんが私の言葉にふっと笑う。
‥そんな表情を見ると大分信用してくれるようになったなぁって思う。レトさんが「血相を変えて」って言ってた言葉を思い出し、信用から信頼に変わってきた?なんて考えてしまう。
でも、この気持ちはずっと蓋をしておかないといけない。
もしそのせいでルルクさんが傷ついたら‥。
そんなの絶対嫌だ。ちょっとまだ痛む腕と足に巻かれた包帯を見る。
恋愛ゲームのルートがどうなっているのか、まったくわからない。
わからないけれど、私はできるなら皆が幸せなルートを選びたい。‥その選択が、たとえ自分を傷つけても。
「ユキ」
ふとルルクさんに呼ばれて、私は顔を上げる。
すると目の前に白い鳥の群れが綺麗な鳴き声を上げながら夕陽の中を飛んでいく。
「あ!白い鳥!」
「‥幸せを運んでくれるんだろ」
覚えてたの?
私が目を丸くしてルルクさんをまじまじとみると、ふっと笑って、
「料理が焦げないかもな」
「もう!そこは余計です!」
そう言い返したけれど、ルルクさんが覚えていてくれた事が嬉しくて胸がいっぱいになる。あーあ、本当にどうしたらいいんだろう、これ‥。
料理を焦がすってよくやるよね?
やるよね???