恋愛ゲームの主人公はひっそりと。
そんなこんなで今日一日大変穏やかだった。
そのうち全身甘くなっちゃうんじゃないかってくらい、甘い香りに包まれ、帰りはお土産とばかりに作りたてのお菓子を頂くので私はホクホクである。
時々、アレスさんも優しく笑いかけてくれるようになったし、私はその微笑みを見るだけで気持ちが楽になったのかなって安心するし‥。大変いい調子である。反対にルルクさんは時々眉間にシワが寄ってるけど。薪の調節、難しいのかな‥。
仕事を終えてルルクさんと夕陽の中、二人で家まで歩くけれど、ちらりとルルクさんを見上げると眉間のシワはない。やっぱり薪の調節が難しいのかもしれない。無言のルルクさんを見上げ、
「毎日美味しいお菓子を頂けてラッキーですね!」
「‥お前は、本当食い気一択だな」
「え、それ以外に何かあるんですか?」
「‥‥ないな」
「でしょ?今日の夕飯はサラマンダーの蒸し焼きにしますか。それなら多分失敗しないと思います!」
ルルクさんと帰り道、自信満々で今ならできる!とばかりに夕飯作りを立候補したのに、ルルクさんは真顔で「なんで蒸し料理ならできると思った」と言うので私の心は死にそうだ。酷い、言葉で私の心の臓を切りつけてきたな!!
「それより先に蝶を描いてくれ。もう消えてきた」
「それよりって‥、本当に蝶が好きですよね」
「雇う条件に蝶を描くのもあったろ」
「あれ??そんな条件ありましたっけ?」
そう言うとルルクさんが可笑しそうにコバルトブルーの瞳を細めるので、胸の中がバチっと弾ける。うう、暗殺者め‥その顔、反則だと思う。
「帰ったらすぐ描きます‥」
「お菓子で忘れないうちに頼む」
「はーい」
二人で笑いながら夕焼けの下、林の中を歩いているとこんな穏やかな時間が続けばいいなぁと思ってしまう。でも、私の首さえ切らないってもうちょっと確信が持てれば尚良し!なんだけどね‥。
そんなことを話していると、私達の前からレトさんを始め、ギルドの人達が馬に乗ってこちらへぞろぞろとやってくる。
「あ、レトさん!お疲れ様です。見回りですか?」
「おう。祭りも近いからな、念の為に見回りだ。なにせルルクが先日サラマンダーも出たから、またどっかで魔物が出てくるとは限らないって言うしなあ」
「え」
ルルクさん、そんなことレトさんにいつの間に言ってたの?
驚いてルルクさんを見上げるけれど、しれっとした顔をしている。
「‥祭りも近いし、警戒しておくに越したことはないだろ」
「だな。まぁ、確かに周囲で不審者を見たって情報もあったから、注意はやっぱり大事だな。ルルクがいれば安心だが、ユキも気をつけてな」
「はい!ありがとうございます」
レトさん達は手を振って、町へ戻っていったけれど‥、ルルクさんもしかしてお祭り楽しみなのかな。チラッとルルクさんを見上げると、すかさず「別にそうじゃないぞ」と返された。何?!いつの間に人の心を読んだの??
「‥お祭り、楽しみですね!」
「そうだな‥」
「レトさんから金貨をゲットできたら、私もお祭りで色々買えるし‥、その時こそルルクさんに奢ります!」
「はいはい、楽しみだな」
「もう!ちゃんと聞いてます??何を買って欲しいか考えておいて下さいね!」
「はいはい」
サラッとかわされる私って一体‥。
さっき私に雇用条件に蝶を描くって言ってたけど、私も何か条件を付けた方がいいかな。何をルルクさんにお願いしようかなと思っていると、先を歩くルルクさんが私を振り返り、
「ユキ、行くぞ」
低い声で呼んで、小さく微笑んだ。
たったそれだけなのに、胸がぎゅっと苦しくなる。
あーあ、本当に名前を呼ばれただけで、自分の気持ちの蓋がガタガタ言ってるなんてルルクさんは知らないんだろうな。私は気持ちに漬物石とダンベルをしっかり蓋の上に置いてから、ルルクさんを見上げる。
いつか離れても、その時はお互い笑顔ならいいじゃないか。
その時までは、一緒にいてもいいよね。
そう思って、私もルルクさんに微笑みかける。
「はーい。帰ったらまず蝶ですね、蝶」
「‥ああ」
夕陽に照らされて出来たルルクさんと私の影が重なるのが見えて、ちょっとだけ嬉しくなる。これくらいの距離なら許されるよね‥。そう思って隣を一緒に歩いて帰った。
薪でオーブンの熱を調節するのは本当に難しい。
昔の人ってすごいですよね‥。(焦がした)




