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恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。  作者: 月嶋のん
恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。
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恋愛ゲームの主人公は笑われる。


昨日とはうって変わって、落ち着いた様子のアレスさん。

クッキーはかなりの数を昨日作っただけあって、注文された分は出来上がったらしい。



「じゃあ、次は何を作るんですか?」

「‥自分が作ってみたかったのを、祭り用に作ろうと思ってます。具体的にはフィナンシェやプチタルトなどを‥」

「美味しそう!!いいですねぇ」



私の言葉にアレスさんが照れ臭そうにはにかむ。


「じゃあ、粉を混ぜるので手伝って頂いても?」

「はい!任せてください」


なにせ混ぜるのはいいけれど、焼くのは本当に無理なんで。

アレスさんはルルクさんを見上げ、


「ルルクさんは、パントリーから小麦粉の袋を持ってきて頂けますか?」

「‥ああ」


ルルクさんは何か言いたげな顔で私をチラリと見ると、パントリーの方へ行ってしまった。‥何かあったのかな?ボウルに砂糖を入れつつ、ルルクさんの背中を目で追ってしまう。



「‥ルルクさんは、以前どこかで料理を作る仕事をしていたんですか?」

「え?」

「レシピを見て作ったと仰ってましたが、とても上手だったので‥」

「そう思いますよね‥。確かに器用なタイプだと思います」



なにせゲームの中では私の首をそれこそ素晴らしいくらいに切るわ、城や騎士団へ潜り込むのもお手の物だったし。あ、ヤダヤダ首がヒンヤリするわ。アレスさんは私の言葉に頷くと、昨日焼いたクッキーの箱を見て、


「ユキさんは、紋様師だけあってアイシングが上手ですね」

「そ、そうですか?」


アレスさんの言葉にパッと顔を上げて、思わず微笑む。

やった〜〜!!ゲームでは几帳面できっちりお仕事するアレスさんに褒められるのって少なかったんだけど、まさかのお褒めの言葉に私は嬉しくなってしまう。



「花や植物は自分もイメージ図を描いてましたが、蝶や動物、レース模様は自分では思い付きませんでした。‥自分のアイデアだけでなんとかしようと思っていたんですが、やはり違いますね」

「そうですか?アレスさんのレシピに描かれてた絵も綺麗でしたよ?」

「‥‥いえ、自分はまだまだです」



あれだけすごいクッキーやお菓子を作れるのに??

私は目を丸くすると、アレスさんはちょっと眉を下げて小さく笑った。



「‥昔から父の仕事に憧れて、その道に進もうと思ってたんです。でも、結局はお菓子職人を諦められなくて‥。けれど相談をした時、自分と同じ仕事をすると期待してた父は反対せず、むしろ応援してくれたんです」

「え、素敵ですね!」

「‥でも、期待してくれていた父に申し訳なくて‥せめてその気持ちに応えたくて、もっと頑張ろうとして‥」



アレスさんは大きなボウルと木べらを作業台に置くと、ジッとボウルの中を見つめて口を引き結んだ。



そっか‥。

自分で自分を追い込んだのはそのせいか。

お父さんを大事に思っていて、でもこの仕事も好きで。

どっちの思いも応えたかったなんて‥、やっぱり几帳面できちんとしてて、それでもって優しいアレスさんらしいな。



「‥お菓子を作るの、それでも好きなんですね」

「そう、ですね」

「じゃあ、今日は楽しく作りましょうね」

「‥楽しく?」

「はい!楽しく作っている顔が、アレスさんのお父様は好きだったんじゃないですか?」



私の言葉にアレスさんは目を見開いた。


「好き‥」

「やっぱり楽しいって大きいですよね。かくいう私も紋様を描いてる時は楽しいです。あ、それとアイシングしてる時もすごく楽しかったです!」


なにせ一つも焦げてない完璧なクッキーをルルクさんが焼いてくれたしね。

アレスさんはそんな私を見て、小さく微笑み、



「‥では、今日は楽しく作ります」

「はい!」

「ユキさんは、どんなお菓子が好きですか?」

「私ですか?そうですねぇ、チョコも好きだし、ケーキも捨てがたいし、あ!さっき言ってたフィナンシェは私も好きです」

「じゃあ、今日はそれを一緒に‥」



アレスさんが言いかけた瞬間、どかっと小麦粉の袋が作業台の上に置かれた。



「あ、ルルクさん小麦粉ありがとうございます。重かったでしょう?」

「‥別に。で、何を作るって?」

「フィナンシェとプチタルトだそうですよ!ルルクさんは何が好きですか?」

「‥蝶のクッキー」

「ふふ、ルルクさん本当に蝶が好きですよね」



蝶と言われて、今日は帰ったらルルクさんの手首に蝶を描いてあげよ〜〜なんて思いつつ、今度は卵を割るか‥と卵に手を伸ばすと、ルルクさんにそっと止められた。


「ルルクさん?」

「‥卵をちゃんと割れるのか?」

「失礼な!!卵は割れますよ!!‥殻は時々入るかもだけど」


どんどん語尾が小さくなった私に、ルルクさんは小さなボウルを手渡し「一つずつ割れ」と至極真っ当なアドバイスをくれた。ちなみにアレスさんはそんな様子をちょっと驚いた顔で見ていたけれど、



「‥すみません私料理とても下手なんで、いつもこんな感じなんです」



と正直に言ったら、ルルクさんが後ろで小さく吹き出した。こら!!笑うんじゃない!





卵を割ると殻が必ず入るのがユキです。

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