恋愛ゲームバグってるよね。
普通に料理を作っていたのに、疑われるヒロインとはこれいかに。
半裸の暗殺者にじっと後ろから料理をしているのを見られるという絵面も可笑しいが過ぎる。
「服!そうだ、服を買ってきたんでまずそっちを先にしましょう!」
「服?本当に買ってきたのか」
「逆にずっと半裸のままではどうかと‥」
ええ、まあねぇ。
恋愛ゲーム上では、殺し、殺し合う世界ですもんね。
今更服なんて関係ないか?いや、今現在はとても大事だ!手早く手を洗って、リビングのテーブルの上に置いておいた紙袋を手渡した。
「シャツと下着だけですけど。ズボンは流石にサイズが検討つかなくて‥」
ルルクさんは私の持っている紙袋をちょっと驚いた様子で見つめたかと思うと、そっと受け取ってくれた。
「‥変わった奴だな」
それがお礼の言葉かーい!?
いや、もうここは何も言うまい。
ルルクさんは私から受け取った紙袋から白いシャツを取り出すと、サッと羽織ってボタンを留めていく。よかった・・ちょっと目のやり場に困ってたんで、これでもう少しルルクさんを見られるわ。
「サイズ、丁度いいみたいですね。良かったー」
「‥‥」
無言で私をチラリと見ると、ルルクさんは紙袋をソファーにポンと投げた。
「‥俺は、金はないぞ」
「いや、別にいかにも訳ありの人からお金なんて巻き上げませんよ」
貧乏でも心は錦!
私がそう言うと、ルルクさんは私をまじまじと見つめて、
「よく今まで生きてきたな」
「そりゃ結構頑張りましたよ。この家って虫とか多いし、雨漏りするし、料理はうまくできないし…って、ああ!!お鍋火をつけたままだ!!」
バタバタとキッチンの中へ駆け込み、お鍋を見るとなんとかセーフ!
良かったーー!この間なんて見事に焦がしたしなぁ。そういえば、味付けってどうしよう。
「塩ってどれくらい入れるべきでしょうかね‥」
「は?」
「料理、下手なんですよ」
一応目玉焼きくらいはできるけど、ちょっと凝った料理はおろかお菓子も満足にできない。パン粥ならできるよ?この間は焦がしたけど。
ガリガリと塩の入った壺の中を擦るようにスプーンで塩をいっぱいかき集め、鍋に入れようとするとルルクさんに「ちょっと待て!」と止められた。
「いくらなんでも多すぎるだろう」
「あ、やっぱり?」
「何故予想しておいて、入れようとした‥」
「もしかしたら美味しくなるかなって?」
「‥よく今まで生きていたな」
主にギルドの横の料理屋さんと、近所のパン屋さんのお陰ですかね。
目を思わず逸らすと、ルルクさんが私の持っていた塩の入った壺を奪い取り、
「まずは小さじ一杯から入れていって、徐々に丁度いい味を探せばいい」
「なるほど!物知りですね」
「‥お前が知らな過ぎるだけだ」
だって、以前は貴族だったし。
料理は学園に入ってから習う予定だったし。
とはいえ暗殺者に料理を教えられるとは‥恋愛ゲームのバグりもいよいよ酷いな。
「‥いいじゃないですか、お腹に入れば皆同じです」
「口に入れる時点で不味かったらお腹に入れる気も起きないだろ」
ぐうの音も出ないくらいの正論に私の心が確かに切られた。
くそ!心まで切りつけるとは!
思わず口を尖らせている私を横目に、ルルクさんは調味料棚から色々物色しては何やらハーブやらコンソメを適当に鍋の中に入れた。ええーー、暗殺者ご飯作れるの??疑いの目でルルクさんを見上げると、
「お前の料理だと殺されそうだかたらな」
「な、し、失礼な!」
しれーっとした顔で言われて、むすっとむくれると木のお玉にスープを少しすくったのを私に手渡す。
「味見してみろ」
「えっと、では‥」
一口スープをそっと口に運ぶと、美味しい!!
え、さっき適当に色々入れてたのに、こんなに美味しいの作れるの?!驚いて顔を上げると、ルルクさんがじっと私を見ている。
「お前分かりやすいな」
「美味しいって顔してました?」
「聞かなくてもわかる」
「そうですか、でも敢えて言いましょう!美味しかったです!」
ルルクさんはちょっと驚いたような顔をすると、小さく「変わってるな」って呟いたけど、美味しいものを美味しいと言っただけで変人扱いって酷くない?とはいえ、スープは確かに美味しいしさ!スープ皿を二つ持ってきて、それをよそってテーブルに置いて、パンも切ろうと袋から取り出すと、ルルクさんが私からパンを取りあげ、サッサと切り分けた。
「あとナイフの使い方が危なっかしい」
「‥切れればいいんです」
暗殺者はそりゃ切り方にもこだわるでしょうよ。
あれだけ素晴らしく私の首を切った相手だ。道具の使い方にも拘ってたんだろうなぁ。首筋がヒヤッとしたけど今は美味しいスープを頂く事に全集中しよう。そうしよう。
「ルルクさんは上手ですねぇ」
「‥黙って食え」
へいへい、すみませんね。
喋ってないと首がスースーするんですよ。
そんな事を思いつつ、スープを口に運んで頬を緩めた。