恋愛ゲームの攻略対象人生色々。
渋々お手伝いを了承してくれたアレスさん。
それなら全然やらなくても良かったんだけど、タリクさんはどうやら私を推薦したいと思って、レトさんに交渉したらしい。
あれからタリクさんはニコニコ笑って、
「じゃあ明日、午後にお手伝いお願いしますね!それともし良ければ今からお茶しませんか?」
と、流れるように誘われ、私とルルクさんはあれよあれよと素敵な庭の四阿で優雅に午後のお茶をすることに‥。あ、あれ??お菓子作りはしなくていいのかな?ぽかんとしていると、タリクさんは綺麗に絵付けをされたティーカップでお茶を飲み、にっこり笑う。
「ユキさんがお手伝いに来てくれて、本当に安心しました」
「いえ‥、でも私本当に料理が苦手で‥」
「大丈夫です。大半はきっとアレスがやってしまいます。お願いしたい最優先は、一人で抱えないようにすることなので‥」
「一人で‥?」
私が不思議そうな顔をすると、タリクさんが静かに頷く。
「学生時代から、とにかく一人で抱え込んでしまうのが彼の悪いくせでして‥。普段はお菓子作りをして、気を紛らわせていたんですが、城でちょっと色々あってこちらへ僕が無理を言って連れだしたんです」
「え‥」
「とても大変な仕事をしていて心労も溜まっていたので‥、これを機会に本当にしたい仕事をしてはどうかと提案したんですが、彼自身がそれを認められないらしくて」
小さくため息を吐くけれど、タリクさんのその顔は友人というより生徒を心配する先生の顔だ。‥本当、そういう所は変ってないなぁ。
「‥先生、みたいですね」
「え?」
「あ!いや、私の以前の学校の先生みたいな顔をされてたので、つい」
「ふふ、そうですか‥?まぁ、確かに教職をしていましたが、先日ユキさん達に会ってもう好きな事だけをしようって決めて辞めたんです。今は魔石の学者です!」
「そ、そうだったんですか!??」
まじで??!
そんな思い切った事をしちゃって平気だったの??
驚きに目を見開くと、タリクさんはほんわりと微笑み、
「まぁ、でも時々王都で家庭教師はする事になってはいるんですけどね‥」
「そ、そうなんですか」
知ってる〜〜〜。
それは王子様に、ですよね?
大学院を卒業して、経営学、語学、地理に社会と多岐に渡って造詣が深い先生だもん。そりゃ学園を辞めても引く手数多であろう‥。感心していると、タリクさんがにっこり笑って、
「アレスにも、まだ若いですし好きな事に打ち込んでみるいい機会かと思って‥、ユキさんのように好きなものを好きだとはっきり言える方が側にいるのは良い刺激になると思ったんです」
「買い被り過ぎでは???」
「いえいえ、そんな事はないですよ。‥ちょっと意固地になっているアレスですが、そんな訳で明日からよろしくお願いしますね」
「は、はい‥」
まさかそんな風に言われると思ってなかった私。
思わず頷いてしまったけれど‥、私が入学するはずだった学園の攻略対象は当然ながら色々な道を歩んでいたんだな‥。そりゃ私がここで紋様師として仕事をしているのもなんとなく腑に落ちるわ。
なんとなく不思議な気持ちのままお茶会を終え、ルルクさんと一緒に家まで帰るけれど、待てよ?一番巻き込まれているのは他ならぬルルクさんでは?と、ハッとした。
「‥ルルクさん、なんか色々すみません」
「は?」
「いや、なんかまた色々巻き込んでしまって‥」
「今更だな」
「う、うう‥」
「まぁ、別に今に始まった訳じゃない」
「それ、もっと申し訳なくなるんですが‥」
じとっと見上げると、ルルクさんがコバルトブルーの瞳を細める。
「‥一人で手伝い、できるのか?」
「できません。無理です」
「即答だな」
「‥私に散々焦がすなって言ってるくせに‥」
「そうだな。あれを食べるのは俺だけで十分だ」
「それこそ嫌なんですけど‥」
なんでちょっと気持ちに蓋をしている相手に焦げた料理を食べさせたいと思うんだ。嗚呼、パン粥を上手に作れた私のあの時の腕前よカムバック‥。そんな事を思いつつ、夕暮れの日を浴びてオレンジ色に染まった我が家へルルクさんと帰るのだった。
ルルクさんは、割と食べられればいい人だけど、
作るとなると美味しい物にしたい人です。




