恋愛ゲームの主人公は振り回される。
ルルクさんの焼いてくれたベーコンと目玉焼き、温めてくれた美味しいパン。
今日も最高の朝ご飯である。恋愛ゲームの主人公なのに料理が下手な私。こっちへ来てから塩っぱすぎるか、焦げた味がするかの二択だったのに‥、有り難い。首を切らないでくれればもっと有り難いけど。
「ルルクさん、今日も美味しいです!」
「‥わかったから、よく噛んで食え」
「私はお子様ですか」
「‥どうだろうな」
ふっとルルクさんが可笑しそうに笑う姿に、完全にお子様だと思っているなと確信してしまう‥。はー、恋愛ゲームの主人公だってのに、魅力はどこへ行ったんだろうなぁ。もぐもぐと目玉焼きを食べていると、ルルクさんが時計をチラッと見る。
「今日の仕事は?」
「えーと、紋様をギルドで書いた後は特に‥。あ、でも今度お祭りがあるからレトさんと打ち合わせをする予定です」
「祭り?」
「ほら、ここって一応別荘地じゃないですか。貴族様に楽しんで貰えるようにって季節ごとにお祭りを開くんですよ」
「‥貴族様、ね」
「別荘地の管理と運営は大事な収入源ですからね。といっても町の人も結構楽しんでいるからいいんじゃないですか?私は主に裏方ですけど‥」
なにせお金がないからね。
楽しむお金より、稼ぐお金の方が大事なのだ。
「‥お前は、いつも何をしてるんだ」
「ええっと、紋様ではなくて、お祭り気分を盛り上げる為に顔や腕に模様を描いてますね。結構、評判いいんですよ」
「確かにお前には合ってるな」
素直に頷かれると、ちょっと照れ臭い。
まぁ、本当はあまりにも不器用でそれしかできない‥が正しいんだけど。
「祭りは何が目玉なんだ?」
「うーん、春は果物を使ったお菓子ですかね。春しか味わえない物を使って、あちこちの村が色々出店するんですよ!あ、そうだお菓子で思い出した!タリクさんのクッキー、ちょっと食べましょう」
箱を開いて、ルルクさんにずらっと綺麗に並べられた宝石のようなクッキーを見せる。
「どれがいいですか?お先にどうぞ」
「‥お前が先に選べ」
「いつもお世話になってるんだから、ルルクさんがどうぞ!」
にこーっと笑うと、ルルクさんは呆れたように私をじっと見ると、小さくため息を吐いて、手前にあった花の形をしたクッキーを摘んだ。ルルクさん、そういえばお花も好きだよな。蝶も好きだし、今度は花畑に蝶って絵もいいかな?なんて思って、じっとルルクさんの手の甲を見つめると、ルルクさんが私を訝しげな目で見て、
「‥なに企んでいるんだ」
「失礼な!蝶の絵をどうしようかな〜〜ってちょっと思ってたんです」
「‥確かに。そろそろ蝶が消えてきたな」
「でしょう?今度はどんな蝶にしようかなぁ‥」
クッキーの箱の中を見つつ、デザインを考えていると、ルルクさんが一つ宝石のようなクッキーを摘むと私の口元へ近付ける。
「え‥っと?」
「食べないのか?」
「た、食べますけど、自分で‥」
「どうせ食うんだろ。ほら、口開けろ」
でぇええええ??!!
なんでそんなことを突然するの??
目を丸くしつつ、ルルクさんを見上げると、本人はしれっとした顔をしてて花のクッキーを齧りつつ、「ん」と私の唇をクッキーでちょんと突く。
こ、こんなの絶対勘違いしちゃうんだけど‥。いや、ルルクさんに限ってそれはないか‥。どうせお子様扱いして遊んでいるんだろう。小さく口を開くと、ルルクさんが私の口の中にクッキーをそっと入れた。
ちょっと照れ臭くて、目を逸らしつつ一口かじると、ほろっと崩れて甘い香りと一緒にじんわりとバターの味が広がる。
「‥美味しい」
「良かったな」
そろりと視線をルルクさんの方へ向けると、頬杖をついて私を面白そうに見ているルルクさんが目に入る。‥ほらな〜〜!やっぱり私の反応を見て楽しんでるよ‥。
サクサクとクッキーを齧りつつ、いつか見てろよって思うけれど、ルルクさんに勝てる日が来るのだろうか。いや、そもそも首を切られないように勝たねばならぬ!そんなことを思いつつ、王都で評判だとタリクさんが言ってただけある美味しいクッキーを朝から堪能したのだった。




