恋愛ゲームの主人公、一難去ってまた一難。
ルルクさんにおでこをドスドスと突かれつつ、周囲を見ると他のギルドの人達が慌ててこちらへ駆け寄ってくる。
「ユキちゃん!無茶し過ぎ!!」
「怪我はない?!」
「っていうか、とにかくユキちゃんも怪我の手当しないと‥」
皆に口々に言われて、私は目を丸くする。
怪我?どこを??
自分の体を見ると、ズキッと膝が痛む。そっと長めのスカートをめくってみると、両膝を思い切り擦りむいてた‥。あ、結構な血が出てる。
「すぐ手当を‥」
私の傷を見てギルドの人が言った途端、体がふわっと浮いた。
「え?」
「行くぞ」
ルルクさんが私の体をお姫様抱っこしていた。
‥もう一回言う。お姫様抱っこしてた。
「な、な、なぁああ!???」
目を見開いてルルクさんを見上げると、それはもう面白そうな顔をしてる!
あ、絶対この人、からかってる!!でも、今、私は絶賛気持ちに蓋をしてるっていう微妙な立場で‥感情が心の中で暴れてるんですけど!!!
もう顔は隠せないくらい真っ赤だろうし、泣きそうだ‥。
フラグを立てるな!!主に私だけど!!
思わず両手で顔を覆うと、ルルクさんが「おい、顔を出せ」と不満そうに言ったけど‥、こんな恋愛ゲームで必ずあるシチュエーションやられて、普通に顔を晒せると思ったのか!??恥ずかしい!!ただただ恥ずかしい!!あと重くないかな?
とはいえ、助けて貰った身‥。
そろっと両手をちょっとだけ下ろして、ルルクさんを見上げた。
「‥眼帯、外すの嫌だったんじゃないですか?‥すみません、私のせいで」
そこは本当にごめん!って思ったので、素直に謝るとルルクさんは目を一瞬見開いたかと思うと、私をジロッと睨む。
「‥もう、今更だ」
「そうですか?‥あ、あと助けてくれて本当にありがとうございます」
「‥それこそ今更だな」
「もう!だって危ないって思ったら体が動いちゃったんですよ‥」
モゴモゴと言い訳をすると、ルルクさんが私の体をギュッと抱き寄せた。
「‥本当に、弱いくせに」
「そりゃルルクさんに比べたら弱いですけど、」
自分のせいで誰かが傷つくのは嫌だったんだもん。
それに今回は私の膝が怪我しただけなら、めっけもんじゃない?
「‥ルルクさんや他の人が怪我するのも嫌だし」
ルルクさんがすかさず私を見て、またも睨んだ。
なんだよ〜〜、ごめんってば〜〜〜!!
思わず体を縮こめると、ルルクさんはハァッと重い溜息を吐いて、
「‥どうして、こんなんで生きてこれたんだか」
「あ、失礼な!普通の意見を述べただけなのに‥」
「はいはい、さっさと怪我の手当てをするぞ」
「もう!もうちょっと真剣に聞いてくれても良くないですか?」
私は真剣に心配してるのに‥。
ルルクさんは洞窟の入り口に張ってあったタープの下へ私を連れていくと、タリクさんもまたそこへ戻っていた。タリクさんは私を見るなり、傷が痛いだろうに駆け寄ってきた。
「ユキさん!大丈夫でしたか?!」
「あ、はい。ルルクさんのお陰で膝の負傷だけで済みました!」
努めて明るく笑うと、タリクさんはなんだか泣きそうな顔になる。
「‥本当に、無事で良かったです」
「ご心配お掛けしてしまって、すみません。でももう大丈夫ですよ」
「‥それは良かったです。あ、さぁ手当てをしないとでしたね」
ほんわりと微笑むタリクさんが、近くの椅子を用意してくれてルルクさんがそこへ私をそっと下ろしてくれた。うう、良かった‥、照れ臭くて堪らなかったから、これでようやく一安心だ。ホッと息を吐いた瞬間、
「ユキさんは、ルルクさんとお付き合いされているんですか?」
「んん!!??」
「‥まぁ、込み入った仲ではあるな」
「る、ルルクさん!!!??」
「ああ、やはりそうだったんですね〜。ルルクさん、血相を変えて助けに向かって‥」
「おい、怪我人の手当てを早くしろ」
ちょっとルルクさん??
今、タリクさんの言葉を遮ったな?!
っていうか血相を変えて助けに来てくれたのか‥。
じわっとその事実が嬉しくて、胸の奥の蓋が外れ‥っだぁあああ!!!外れるな!!ノットオープン!!!フラグが立つからダメ!!慌てて心の中で漬物石を増量して蓋をした。
「あ、そういえばユキさん、どうしてあのサラマンダーが光るとわかったのかお聞きしても?」
「へ」
突然、タリクさんに聞かれてハッとした。
まずい!!ゲームの中でしか知らない知恵を大披露してしまった‥。
しかもこれって言ったら、もしかしてフラグを回収してタリクさんと恋愛ルートに入ってしまう事に!??ドバッと冷や汗が出た。ど、ど、どうしよう!!!




