恋愛ゲームの主人公の願いと情緒。
朝早い町までの道のりをルルクさんを一緒に歩く。
早い時間帯だけあって、いつもより空気が冷えていて、緑の匂いも心なしか濃く感じる。
「‥なんだか朝早いだけなのに静かに感じますね」
「そうだな」
ポツポツと話しながら、私は平常心、平常心と心の中で呟いている。
うん、なんとか大丈夫そうだ。
「今日はどれくらいで終わるんだろうな」
「え、ああ、そうですね‥。洞窟の地図はもうできたって話してましたし、案内をするくらいだと思うんだけど‥。魔物って、それでも出てくるんですか?」
「魔石から生まれるっていう説もあるからな」
「え??そうなんですか?!」
そんなの初めて聞いたんだけど?
私が目を丸くすると、ルルクさんが可笑しそうに笑う。
「魔力が多い所には強い魔物が生息する。主は俺が倒したが、また生まれる可能性もある。だから、いつも強い奴らが調査に行ってるだろ」
「そうだったですか‥って、また生まれる可能性もあるんですか?!あ、だから練習を?」
ルルクさんが頷くと、私ははぁーっと息を吐いた。
そっか、あれで終わりじゃないって思っているから、練習してたのか。
あれだけ強くても、有事の際に動けるようにとか‥。
「って、今更なんですけど、ルルクさんって前は何をしてたんですか?」
「本当に今更だな。戦士だ」
「戦士!」
「剣も使えるが、他の武器も使う」
「へええ‥!!あ、だからレトさんの剣も使えたんですね」
「剣が割と得意だからな」
武器に得意、不得意ってあるんだ‥。
とはいえ、ようやくルルクさんの仕事を知る事ができて、ちょっと納得だ。だからあんなに強かったのか。でも、戦士だったルルクさんがなんで悪役令嬢の暗殺者になってたんだろ‥。
「あれだけ強いと、どこでも働けそうですね」
「‥‥まぁ、もう働く気はないけどな」
「それは賛成です。穏やかに暮らしましょう」
「‥誰かさんが色々巻き込まなければなぁ」
「うう‥!」
私が目を横に逸らすと、ルルクさんが笑う気配がする。
できるならこのまま暗殺者へ転身ってのもなしにして欲しい。そうすれば、もう少し私も穏やかに過ごせるし‥。
と、不意に風がザッと強く吹いて、花のついている木から花びらがワッと一斉に舞い落ちてくる。
白い花びらが雪のように落ちてきて、思わず目を奪われた。
自分の名前に似ている雪のような花びらがヒラヒラと落ちていくのを見て、ルルクさんを見上げる。
「ルルクさん、見ました?綺麗ですね!」
「‥‥ああ」
目を細めてこちらを見ているルルクさんに花びらを指差すと、またヒラヒラと花びらが落ちてくる。
「‥おい、仕事だってのに頭の上がすごいことになってるぞ」
「え?」
手を頭に乗せてみると、花びらがヒラヒラ落ちてくる。
あ、あちゃあ‥、結構なことになってる?
わしゃわしゃと手で花びらをはらっていると、ルルクさんが呆れた顔をして、私の頭の上の花びらをひょいひょいと払ってくれた‥。
「すみません‥、お手数お掛けします」
「‥素直だと気味が悪いな」
「もう!言い方!!」
なんでこんな言い方をする人にときめいたんだ私‥。
むすっと顔を膨らませると、ルルクさんが面白そうに笑った。‥大分笑顔を見せてくれるようになって嬉しいんだけど、なんていうか今の状況だと複雑だ。
と、ひらりと白い花びらがルルクさんの頭の上にふんわりと落ちた。
「あ、ルルクさんも頭の上に落ちましたよ」
「あ?」
「ほら、ここ‥、いやそこじゃなくて、もうちょっとこっち‥、あ、もう屈んで下さい。取りますよ」
ルルクさんは言われるまま屈んでくれて、私は頭の上の花びらを取ると、ぱちっとルルクさんのコバルトブルーの瞳と目が合った。瞬間、胸がギュッと苦しくなって私はパッと慌てて離れた。
「と、取れました!」
「‥ああ、ありがとう」
「ど、どういたしまして!!」
あっぶなーーー!!
急に目が合うとか!!心臓がやばいんだけど!!
っていうか、蓋!!しっかり蓋をしておくんだ私!!ドカドカと心の中に漬物石を置いて、私は小さく深呼吸した。誰も傷つけないようにしないと。そして、できれば笑顔を見せてくれるようになったルルクさんが、これからも笑顔でいられるようにしなきゃ。
決意を新たにギルドへ足を一歩踏み出すと、速攻で木の根っこにつまづいて、ルルクさんが慌てて腕を掴んで転ぶのを止めてくれた。
「‥お前、大丈夫か?」
「‥うう〜〜〜〜、頑張ります〜〜〜」
が、頑張れ、私〜〜〜!!!
片思いって最高に好きです。
(散々書いてるから知ってますね、はい)




