恋愛ゲームの主人公、自覚と決別。
目玉焼きはちょっと焦げたくらいの出来栄えとなったんだけど‥。
ええ、味がわかりません。
何にもわかりませんとも。
だって恋をしてはいけない!フラグはへし折る!!ってあれだけ思っていたのに、なんていうか目の前で目玉焼きを食べているルルクさんに、どうやら、いやもしかしてだけど、ドキッとしちゃったんだもん。いやいや、これはまだ確定じゃない。オッケー、クールにいこうぜ私‥。フォークで目玉焼きを切って、パクッと一口食べた。
やっぱり味がわからない〜〜〜〜!!!
どうしちゃったの私???
半ば泣きそうな顔になっていると、向かいに座っていたルルクさんが私をまじまじと見て、
「‥初めてちゃんと出来たからって、そんな泣きそうな顔をするのか」
「ううう、これには諸事情が‥」
「どんな事情だよ」
ふ、と小さく笑うルルクさんの笑顔を見ただけで、胸がぎゅうっと痛くなる。
嗚呼〜〜〜〜!!!やベー!!これは確実にやべー案件だぁあ!!!
私の胸の中はもうドコドコと大太鼓がずっと鳴りっぱなしだし、情緒という情緒はもう紋様液を間違えて配合しちゃった時のように、とんでもない事になっている。‥暗殺者ってやべーな。いや、違うか、私がやばいんだ。
「‥と、とにかく私、今日は一人で行きます!」
「はぁ?そんな泣きそうな顔をしてる奴が?」
主にルルクさんのせいです!!!
って、声高らかに叫びたいけれど、誤解をさせてしまうので私は口に目玉焼きを放り込んだ。やっぱり味がわからない。
「‥大丈夫ですってば。そりゃ頼りなく見えるかもしれないけど、これでも3年間一人で生きてたんですよ?」
「本当に今までよく無事だったな」
「大概失礼ですね〜〜」
ルルクさんのいつもの口調のお陰で、私もいつもと同じように返せるけれど、心臓はやばい。私、ちゃんといつものように笑えてる?ちゃんと言えてるかな?自分でフラグを立てたら死ぬかもしれないし、そもそも相手が暗殺者ってどないやねん!っていうか、シナリオ〜〜〜〜!!!
朝から忙しい私の脳内だけど、ルルクさんは当然そんな事はつゆ知らず‥、いやいや知らなくていいんだけどね。
と、ルルクさんが私をジッと見つめ、
「‥心配だから付いていく」
「っへ?」
「‥素直に言ってみたぞ?そら、どうする?」
からかうように笑いかけるルルクさんに、私の心の中がバチっと弾けた。
瞬間、頬が赤くなるのがわかった。
嗚呼〜〜〜!!バレないように!!バレないように!!慌てて、目玉焼きを凝視して、
「し、仕方ないですね‥」
って、絞り出すように言ったけど、なんでいつもは素直じゃないのに、今日に限って素直に言うんだよ〜〜!!と、私は心の中で叫んだ。私の言葉を聞いたルルクさんは、頭上でふっと笑った気配がすると、お皿を持って「先に洗ってくる」と行ってしまって、ようやく私は息をそっと吐き出した。
まずい‥。
これは本当にまずい。
そろそろと顔を上げ、お皿を洗うルルクさんの背中をそっと見つめる。
恋愛フラグをへし折ろうとしてたのに、私が自分で立ててどうする。
もしかしたら、ルルクさんが怪我をする可能性だってあるのに‥。
その考えが頭に浮かんだ瞬間、ゾッとした。
だめだ、それこそダメ。
私を助けてくれて、心配してくれているルルクさんがこれ以上傷つくなんてダメ。私の感情で、ルルクさんに迷惑を掛けるなんて嫌だ。
ギュッと瞳を閉じて、私は胸の中で自覚した気持ちにキツく蓋をする。
お願いだから、出てこないで。
お願いだから、静かにしてて。
バレてしまったら、一緒にいられない。
「‥ユキ?」
キッチンから、ルルクさんが私を呼ぶ声に、ふっと瞳を開ける。
‥そうだ、恋愛はしない。誰も好きって思わない。
誰かを傷つけることを回避するんだ。
「はい、お皿次洗っちゃいますね」
椅子から立ち上がって、私は綺麗に食べたお皿を見つめる。
この気持ちをお皿のように洗い流そう。
今ならきっと間に合う。
胸の奥がギシギシと軋むような音を聞かないふりをして、私はルルクさんのいるキッチンへお皿を持って歩いていった。




