恋愛ゲームの主人公なのに恋せず乙女。
高台でお弁当を食べた後は、仕事はないので帰ろうとギルドに置かせてもらった仕事道具を取りに行く。
‥できれば!!できればもうタリクさんと会いたくないので、
サッと行って、パッと帰ろう!!命大事に恋せず乙女!!!深呼吸して、ギルドの扉を開くとガランとしてる。
「あれ、誰もいない‥?」
「クエストに行ったんだろ」
「それでかぁ」
何はともあれ良かった〜〜〜!!
ホッと息を吐いて、カウンターの奥に置かせてもらった仕事道具を取りに行くと、レトさんが奥から出てきて、
「よ、お疲れさん!いやぁ〜〜、今日は本当に助かったぜ!あ、ルルク。約束してた代金支払っていいか?」
「‥ああ」
「ユキも良かったな〜!明日から客が来るぞ!良かったなぁ〜〜」
レトさんは機嫌よく話しつつ、お金を袋に入れてドサッとカウンターの上に置いた。‥お、おお、すごいお金の音がする。思わずお金の入った袋をまじまじと見ると、ルルクさんが面白そうに私を見て、
「‥美味い物、買っていくか」
「え??!」
「‥ちょっとした収入も入ったしな」
「い、いや、そのお金はルルクさんのでしょ?」
慌ててそう言うと、レトさんが感慨深そうに、
「ユキも本当、顔が明るくなったよなぁ。昔ここへ初めて来た時は真っ青な顔だったのに」
「あ、ああ‥それは、まぁ、はい」
だってまさに生きるか死ぬか!だったんだもん。
ルルクさんはレトさんの言葉に意外そうな顔をして私を見る。うん、色々あってだね?
「そのユキが、仕事をし始めた時は心配だったけど、ようやく落ち着いた感じだな」
「ほとんどレトさんのお陰ですよ。紋様師なんて仕事できるか不安でしたけど‥、今はこの仕事で良かったって思ってますもん」
私が微笑みかけると、レトさんは嬉しそうに目尻を下げる。
「そうか、そうか。あ、明日な洞窟の調査に王都から来た先生‥だったか、学者がうちのギルドの奴と調査に行くことになったんだ。悪いけど明日は早めに来てくれるか?7時くらい‥だな」
一瞬、目が点になる。
あ、明日??!!まさか会わないと思ってたのに!!
私の顔を見て、レトさんが不思議そうにまじまじと見つめ、
「何か用事があったか?」
「いいえ、ございません。明日、生きます‥」
行きますって言おうと思って、生きますになってる私。
しっかりしろ、私!!恋愛フラグを回避すれば問題はない!!それに先生はあくまでも調査であって、戦うなんてことはないし、紋様は必要ないだろう‥。そう思って、引きつる口元をなんとか動かした。
「じゃあ、今日はこれで失礼します」
「おう!明日、頼むな〜〜」
レトさんに手を振って、ギルドを出るけれど‥心の中が一気に重たくなる。
落ち着け、大丈夫だ私。恋愛フラグを片っ端から折っていけばいいだけだ!!
なんとか顔を上げると、隣に立っているルルクさんが私をまじまじと見て、
「一人で百面相して楽しそうだな」
「‥うう〜〜〜〜、そうでしょうね!傍目から見ると楽しいでしょうよ‥」
「おら、そんな顔をしてると値段も見ずにまた高いチーズ買うぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!それはダメ!!美味しかったけど、ルルクさんのお金は大事にしてって言ってるじゃないですか!!」
慌てて、先に行こうとするルルクさんのシャツの裾をはっしと掴むと、ルルクさんのコバルトブルーの瞳が可笑しそうに細められる。
「‥ぼーっとしてると、どんどん買うからな」
「何でそんな買う気満々なんですか。ダメですよ、全くルルクさんはちょっと目を離すと危険なんだから‥」
「じゃあ、見張ってればいいだろ」
「‥またそんな無茶振りして。もう、ルルクさん今日はできるだけ近くにいて下さいよ」
シャツの裾をしっかり掴むと、ルルクさんはふっと小さく笑う。
「‥どうするかな」
「本当にもう雇用主の話をもう少しちゃんと聞いて下さい」
「はいはい、牛乳はどうする?買うか」
「買います。あとパン‥あ、言い忘れてましたけど、サンドイッチ本当に美味しかったです!ご馳走様でした。私も今度作ります!」
今度は卵を焦がしませんよ?
にこーっと笑ってそう言うと、ルルクさんがちょっと目を丸くしてから、指の腹で私のおでこを突いた。
「そりゃ、楽しみだ」
「‥信じてないでしょう?」
「いいや、楽しみにしてる」
「じゃあ、今日は卵多めに買います!」
「‥まんま失敗する気だな」
「だから失敗しませんってば!念の為です」
私の言葉にルルクさんが吹き出したかと思うと、歩き始めるので私は慌てて後ろを付いていく。今度こそ卵を焦がすものかと誓いながら。
ルルクさん、実は目玉焼きは半熟派。




