恋愛ゲーム、イベントは突然に!
まさかの100人倒せるかな?
なんて、友達できるかな?みたいなノリの実力試験を一人でやってしまったルルクさん。
べらぼうに強いやんけ。
いや、確かに恋愛ゲーム内においても襲いくる暗殺者を王子が王族の近衛隊と一緒に戦いながら、私を庇ってくれてただただ当時はヒーロー格好いいなぁ〜と思ってたけど‥。近衛隊っていえば、腕にめちゃくちゃ覚えもある人達じゃん。騎士ルートの時に至っては国防を守る要とガチでやり合えるとか‥。
「‥ルルクさんって、本当に強かったんですね」
しみじみと裏庭の端っこに座って、何故かしれっと私の横に座っているルルクさんを見上げると、面白そうに目を細めた。
試験は無事に終わって、ルルクさんの厳正な試験の結果、実力を認められた人達はクエストやお仕事をゲットし、それ以外の人は「これくらいなら」とお仕事を紹介されていたけれど、完膚なきまでにルルクさんに叩きのめされた屈強なお兄さんやおじさん達は静かに頷くだけであった。
‥まぁ、当初の予定通りになったからいいとして‥。
「‥お昼にはちょっと流石に早いですね」
「そうだな」
「もう仕事は今日はないんですか?」
「ない。お前は?」
「ルルクさんの実力試験に流れていったんで、本日は閑古鳥が鳴いてます」
私の言い草に、ルルクさんがふっと可笑しそうに笑った。
「そりゃ商売の邪魔をして悪かったな」
「‥別に。明日から盛り返しますよ!」
「頼もしいこって」
「とりあえずひと段落ついたようですし、散歩がてら高台に行ってみましょうか」
そういえば町の案内も大してしてなかったし、丁度いい機会だろうと思ってルルクさんに提案すると、コバルトブルーの瞳が嬉しそうに細められた。‥なんていうか、結構素直に表現してくれるようになったな。
レトさんに声を掛けてから、私はルルクさんに町を案内しつつ高台の方まで歩いていく。
ちょっと階段が長いけれど、登りきった高台は芝生が広がっていて、木々の下にはベンチがいくつもあるなかなかいい場所なのだ。後ろを振り返ると町が見渡せて、メインストリートである入り口からはチラホラと馬や馬車に乗った人達が移動しているのが見えた。遠くには町を囲むように高い山々が見えて、なかなかの景観である。
「どうです?気持ちいい場所でしょ?」
「‥静かでいいな」
「そうですね。ちょっと階段を登るからどうしても人は少ないかも。あ、ベンチあそこにしましょうか?」
大きな木の下にベンチがあるけれど、日陰になっていて丁度良さそうだ。
ルルクさんが頷いて、一緒にベンチまで歩いていくと、ベンチに真っ白なハンカチが折り畳まれた状態で置かれている。
「‥誰か戻ってくるのかな?」
「あ?」
「いや、席を取っておいてあるのかなって‥」
それにしても綺麗なハンカチだなぁ。
縁にはレースが編まれていて、布もどう見ても高そうだ。
と、サクサクと後ろから誰かが歩いてくる足音がして、そちらを振り返ると、
濃い茶色の長い前髪がふわふわと揺れ、少し垂れ目の長い濃い緑のローブを着た男性がこちらへやってきた。どこかふんわりした雰囲気なのに整った顔立ちをしているなぁ‥。
でも、どこかで見た事のある顔‥?
「すみません、この辺りでハンカチを見ませんでしたか?」
「あ、は、はい!これ‥ですか?」
ベンチからハンカチを拾ってみせると、その人はホッとしたように微笑む。
「ああ、ありがとうございます。頂きものだったので‥」
「そうですか、それなら良かったです」
そっとハンカチを手渡すと、私にふんわりと微笑みかけ、
「貴方はこの町の方ですか?」
「あ、はい」
「ギルドに用事があってきたのですが、なんだかお取り込み中だったようで‥」
「あ、ああ‥」
思わずルルクさんと目が合うと、その人はふんわりと微笑む。
「もうギルドは落ち着いた感じ、でしょうか?」
「はい。そこはもう。私もギルドで働いている者なんですが、もしかして洞窟の調査に来た方、ですか?」
「そうなんです!あ、申し遅れました。私はタリク・ベオと申します」
「あ、私はユキ・ティラルクと申します」
へ〜〜、タリクさんかぁ。
私とそんなに年が変わらない感じなのに、洞窟調査ってすごいなぁ。
‥ん?
待てよ??
タリク‥???
私はニコニコと微笑むタリクさんを見上げて、
「‥もしかして、王都からいらっしゃいました?」
「そうです!え、よくわかりましたね!」
「あ、なんというか、佇まいが?」
「ええ?そうですか?普段はもう少ししっかりしろって言われているんですけど」
と、ほわほわとした微笑みに私は気が遠くなった。
知ってる。
しっかりしろって言ってるのは、貴方が家庭教師をされている王子ですよね。
そして私が入学する予定だったマリーベル学園で、魔石学を専攻にしてた先生‥。
そう!!!恋愛ゲームの攻略対象の先生じゃないかーーーーい!!!!!!
ニコニコと微笑むタリクさんに対し、私は青ざめながら引きつった顔で微笑み返したけれど‥、なんで、学園にいるはずの貴方がここに??と、私の心の中はさながらムンクと化していた。




