恋愛ゲームの暗殺者のお弁当と節約。
翌朝、頑張って目玉焼きを焼いた。
すごく頑張ったんだけど、ちょっと端っこが焦げた。‥嘘です、結構焦げました。
なんかもうちょっと焼いた方がいいかな?とか思っちゃったんだよね。
そんな訳で結構焦げた目玉焼きをそっとルルクさんの前に差し出すと、朝一番に吹き出して、
「下手だな」
「いきなり真顔で言わないで下さいよ!!」
「火加減って知ってるか?」
「知ってますよ、一応」
あれだろ?
焦げそうになったら、火を弱める‥とかでしょ?
私は口を尖らせつつ、塩をパラッと振ってフォークを突き刺す。‥うん、焦げた味が全面的にする。あと気のせいでなければ殻も入ってた。
「‥せっかくルルクさんの仕事だから成功させたかったのに‥すみません」
思わず項垂れて、そう呟くと向かいの席に座るルルクさんが目を丸くしたかと思うと、
「‥大した仕事じゃねぇ」
と、言って焦げた目玉焼きを大きな口で食べた。
そりゃ、人の首をスパスパ切ってた人にしてみたら、ただ倒すだけなら‥って、違う、違う。80人を1日ってのがすでにヤベー案件なんだけどね!??私はルルクさんをじっと見つめて、
「‥無理しないで下さいね」
というと、ルルクさんが小さく笑う。
「雇用主の言う事はちゃんと聞いてるだろ」
「‥そう言って全然聞かないじゃないですか」
「サラマンダーの時はちゃんと帰ってきた」
「要点は押さえてますけど‥」
私の言葉にルルクさんがまた吹き出して、クスクスと笑う。
‥暗殺者はどうも楽しかったらしい。私は心配で朝から落ち着かないというのに‥。
「今度、洞窟の調査にえらい奴が来るって言ってたろ」
「あ、はい」
「その護衛の適任も調べておきたいんだろ」
「ああ、なるほど‥」
そっか、レトさんそっちの仕事もあるから大変なんだな‥。
大人って大変だ‥と、思いつつ目玉焼きを完食する。うん、やっぱり焦げた味が口に残っている‥。
「お昼は小鹿亭で食べましょうね」
最早しょぼくれた私がそういうと、ルルクさんが私をチラッと見て、
「‥昼飯を食える時間があるかわからないからな、パンに具材を挟んで持っていく」
「それって世に言うお弁当では???」
「そうだな。節約にもなるな」
事も無げにルルクさんが言ったけど、暗殺者が節約の為にお弁当‥。
あの黒い服に身を包み、私に剣を振り落とす男がお弁当とは、スチルの世界とはどんどん無縁になっていくな!??驚いた顔のまま、ルルクさんをまじまじと見つめると、ニヤリと笑って「焦げてない卵も入れておこうか?」と言うので、もちろん睨んでおいた。‥入れておいて下さい。
そんな訳で、ルルクさんお手製のサンドイッチを持って私とルルクさんがギルドまで歩いて行くけれど‥、ギルドが見えてきた辺りからなんか雰囲気が違う。そこかしこに腕に覚えあり!って感じのいかつい顔をしたお兄さんとかおじさんとか、いつもギルドで働いている剣士さん達とは明らかに面構えが違う面々がいる。
「え‥っと」
ちょーーーーっと怖いかも?
思わずルルクさんの側へ寄ると、ルルクさんが小さく笑う。
「将来のお客だぞ」
「そ、そうなんでしょうけど、ちょっと怖いっていうか?」
「‥‥なんであれが怖くて、俺が平気なんだ」
「え、だってルルクさんだし‥」
私の首を切るかもしれない相手が側にいるのはもう慣れてきた。
そんな自分の神経がちょっと怖いとは思うけどね。
ルルクさんが私の言葉にふっと眉を下げて笑うと、ギルドの扉が勢いよく開いてレトさんが慌てて私達を手招きした。
「す、すまん‥!相手が100人になった‥」
「ええ!??」
「まさか噂を聞きつけて、人数が増えるとは思ってなくて‥」
「昨日の今日で凄すぎません???っていうか、ルルクさん絶対3日間の方がいいですよ!」
私とレトさんでそういうと、ルルクさんはちょっと上を見上げて、
「面倒くせぇ」
「そんな問題じゃないですってば!」
「‥それより、昼はどこで食べる?」
「そこ?!ギルド‥は、ちょっと今日は無理そうだし」
「静かな所がいい」
「じゃあ、高台にでも行きます?見晴らしもいいですし、静かですよ」
「わかった」
横でレトさんが「いやいやそんな話をしてる場合じゃないから!!」って言ってたけど、そうでした。だけどそんな言葉どこ吹く風。ルルクさんは肩をちょっと回して、
「‥すぐ終わらせる」
と、言うと颯爽と歩いて、ギルドの裏庭へ向かっていった。
私?思わず追いかけたよ!!
だってその目が私を殺す時と同じように、ギラギラした目だったんだもん。『暴力・人殺し禁止』って書いたの‥まだ消えてないよね??と、思わず冷や汗が流れた。
紋様で何か描けるとしたら「マイナス3キロ」
な私です。