恋愛ゲームのキャラ設定が後付けされていく。
まさかの実力を測る為にルルクさんが戦う事になった。
我が家のお財布事情を慮っての決断とはいえ大丈夫なの?80人を一人って本気?
そりゃサラマンダーを一撃でやっつけちゃうわ、ゲームの中では鉄壁の守りのはずの王城や、騎士団、学校なんかに侵入して私の首をスッパスッパと切ってたけどさ‥。って、ああ〜〜首がスースーする!!首を摩りつつ洗濯物をソファーで畳んでいると、ふんわりといい匂いがしてルルクさんがキッチンから顔を出す。
「飯、できたぞ」
「はい!お手伝いします!!」
夕飯はまたもルルクさんお手製料理。
本日はサラマンダーのトマト煮込みである。
サラマンダーもまさか暗殺者にトマト煮込みにされるなんて思ってもいなかったろうな‥。人生って、予想だにしない事ばっかだよね。
パクッと口入れると、お肉はホロホロと崩れるし、味付けは‥
「美味しい〜〜〜〜!!」
もぐもぐと味わって食べると、向かいの席に座るルルクさんが小さく笑った。暗殺者って魔族の血を引いてて、料理上手って設定まであって、かなりてんこ盛りじゃない?
「‥あの、ルルクさん。昼間の話本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、それは別に」
「だって80人ですよ?しかも一人でって‥」
「いっぺんに終わった方が楽だろ」
「そういう話?!でも、怪我したら‥」
「‥紋様師が目の前にいるだろ」
ニヤッとどこか悪い顔で笑うルルクさんに目を丸くする。
「え、い、いいんですかね‥」
「レトは描いたらダメなんて言ってないだろ」
「‥まぁ、そうですけど。じゃあ筋力2倍とか‥」
「蝶がいい」
「え、ええ〜〜??ちゃんとした紋様の方が‥」
身体強化の紋様を調べて描こうと思ったのに!
私は口を尖らせると、ルルクさんは可笑しそうに笑って私を見つめ、
「‥それがいい」
と、言うので私は結局頷くしかできなかった。
じゃあ、とびっきり可愛く描くか?それとも格好いい蝶‥?そんなの考えられるか??もぐもぐ食べつつどんなデザインがイイかな‥と、考えていると、ルルクさんの長い指が私のおでこをツンと突いた。
「まずはしっかり飯を食え」
「そ、そうでした!じゃあ、食べたらデザイン考えます!!」
「‥そうか」
ふっと笑ったルルクさんを見て、最初の警戒はしてないけど信用はしてない‥みたいな顔から比べたら、随分丸くなったかも‥なんて思うと、ちょっとだけ嬉しい。とはいえ私をどんなきっかけで首を切るかわからない暗殺者だけど‥。
しっかり煮込み料理を味わってからお皿を急いで洗って、テーブルでデザインを考えていると、私のメモ用紙をルルクさんが覗き込む。
「‥こうやって考えるのか」
「あ、はい‥。強い紋様はもう図式があるんですけど、それ以外なら自由というか‥」
まじまじと見つめられるとちょっと照れ臭い。
私は片方の羽は蝶で、片方が花の模様の蝶を描くと、ルルクさんがそれを指差す。
「これがいい」
「はやっ!!もうちょっと悩まなくていいんですか??」
ルルクさんは頷いて、向かいの席に座ったかと思うと何も描かれていない手首を差し出しだ。‥どうやら決定のようだ。
「まったくもう、他にも色々考えようと思ったのに‥」
と言いつつ、色んな色の紋様液を用意する。
花もあるから、色とりどり‥にしようかなって思っていると、ルルクさんの指が黄色の紋様液を指差す。
「これ一色で」
「えええ〜〜!??黄色一色で??」
それはそれで難しいんだけど‥。
でもまさか我が家のお財布を気にして、80人と戦う予定の人に文句は言えまい。せめて濃淡を出すか、グラデーションを付けるか‥、紋様師になって3年!腕が鳴るぜ!!
効果は特にいいと言われたけど、やっぱり心配で‥。
『必勝祈願』
と、こっそり描いた。
だって‥勝負ごとだし?それがいいかなって‥。
筋力5倍とか書きたかったけど、流石に私の実力ではそこまでの効力を出しきれないし。淡く金色に蝶が光り、すぐに消えるとルルクさんはそれをじっと見つめ、
「ずっと光ってたら綺麗だろうな」
「そうですねぇ。でも夜寝る時ピカピカしてたら眩しいかも」
と、言うとルルクさんはちょっと目を丸くしてから可笑しそうに笑った。
「紋様師は夢がねぇな」
「そりゃ、必死に生きてて夢を見てる暇もないですよ」
「じゃあ、何か夢を作れ」
「なんという無茶振り!ええ??夢‥?」
そりゃ元気に天寿を全うする事だろう。
でも、もし!もし他に望む夢があったら‥、できれば楽しく生きたいっていうのが夢かなぁ。
「逆にルルクさんの夢は?」
どれにしようかな?って思いつつ、ルルクさんに尋ねてみると、ルルクさんは私の描いた蝶をちらっと見て、
「‥焦げてない目玉焼きを食べる事」
と、いうので思い切り睨んだ。
すみませんね!!料理が下手で!!焦げもある意味スパイスなんだってば!




