恋愛ゲームなのに武道会開催??
結局、お酒はもう少し大人になってから…と決めた。
間違ってもルルクさんの肩に寄りかかってヨダレを垂らして寝てたって言われたからじゃない‥多分。万が一もあるので控えるってだけだ。
あれから警備隊にトニーさんはギルドに連行され、あえなくお縄になった。
当然である。トニーさんを探そうとしていたレトさんも、まさか戻ってくると思ってなかったので半分呆れていたけれど、ちゃんと捕まって一安心したようだ。
そうして洞窟の調査は、かれこれ1週間経ったけれど、主がいなくなったことで大分捗っているらしい。
おかげで私の仕事はあまりなく‥、もっぱらお婆ちゃんやお爺ちゃんの病気の痛みの緩和や軽減、回復の紋様を入れる事が主になった。うう、これだとあまり稼ぎがないんだよね。今日も今日とて、お婆ちゃん相手だったので可愛いリボンやお花を描いてあげると、嬉しそうに微笑み、なぜか代金とは別に飴を頂いた。異世界でもお駄賃が飴って面白いな。
「ありがとうね、ユキちゃん」
「はい、どうぞお大事にして下さいね」
お婆ちゃんに手を振って、時計を見るともうそろそろお昼だ。
グッと両腕を上げて体を伸ばすと、横に座っていたルルクさんが立ち上がって、私の道具を片付けるのを手伝ってくれる。
「あ、ありがとうございます」
「‥ああ」
二人で道具を籠の中に入れていると、レトさんがカウンターの奥からよろめきながら出てきた。
「レトさん、お疲れ様です」
「お〜、もうヘトヘトだよ‥。トニーの奴、他にも色々やらかしてたようで‥、ったく自分の見る目のなさに目眩がするぜ」
「いやぁ、流石に人柄を全部一気に見抜くのは難しいですよ」
「だよなぁ‥。それと実力も見抜くの難しいんだよなぁ‥」
「実力?」
「誰かさんがサラマンダーを一人で倒したって話を聞いて、遠くの街から一緒にクエストしたい!って登録者がわんさか来てなぁ‥」
そうなの??
っていうか、一緒にクエスト??
ルルクさんを見上げると、ルルクさんが面倒臭そうな顔をして、
「‥難しいクエストをこなせば、ランクが上がる。強い奴と組めば、楽できるって寸法だろ」
「え、ズルじゃん」
思わず出てしまった言葉にルルクさんがちょっと目を丸くしたかと思うと、ふっと小さく笑った。と、レトさんがチラッとルルクさんを見て、
「だけど俺一人じゃあ、いちいち腕試ししてクエスト割り振るの面倒だなぁ〜〜。誰かにして欲しいなぁ〜〜」
「え?」
割り振りってなに?
私が首を傾げると、レトさんがニヤリと笑う。
「あのな、ユキ。誰でもどのクエストに挑戦してもいいって訳じゃねーんだよ。魔物が強ければ強いほど、実力がないと危険だろ?でも初心者ほどいける!って思っちまうんだ。だからギルドの職員で割り振るんだけど、たまにそれに納得しない奴がいるんだよ」
あ、ああ〜〜なるほどね!
そりゃ大変だな。でも、私はそんなのできないけど‥と思っていると、ルルクさんが私の肩をトントンと指で叩く。
「飯に行くぞ」
「え、あ、はい?」
「だ〜〜〜!!だから、ルルク手伝ってくれって!!お前の強さなら、誰も文句も言わずクエストこなしてくれるはずだから!!頼む!!‥‥ざっと80人くらいいるけど」
「80人!???」
人数の多さに目を丸くしたけど、どうやらそもそもいるギルドでちょっと困った人が30人くらいいて、新規で50人来たらしい。‥確かにそりゃレトさん一人でこなすのは大変だ。そっとルルクさんを見上げると、それはそれは嫌そうな顔をしている‥。
と、レトさんが私ににっこりと微笑みかける。
「ユキ、新規の客‥欲しいよな?」
「え?」
「50人も増えると、お財布も潤うよな?」
「え、ええっと‥」
それはそうですが、それには全くやる気のないルルクさんが戦う事になるんですよね?流石にそれは申し訳ないので‥と断ろうとすると、ルルクさんが小さくため息を吐く。
「1人銀貨1枚」
「え?」
「それなら受ける」
しれっと言ったけど、ちょっと待って??
80人も相手にするんだよ?本気で言ってるの??私が目を見開くと、ルルクさんのコバルトブルーの瞳が光る。
「‥うーー‥、まぁ腕試ししてぇ奴もいるし、良い機会にもなるか‥乗った!!!明日から3日間頼んでいいか?」
「1日で足りる」
「「1日!!??」」
私とレトさんの言葉が重なるとルルクさんが不敵に笑った。
‥暗殺者、本当にそんなこと言っていいの??
我が家の家計状況をそんなに心配しなくてもいいんだぞ?私は心配になってルルクさんを見上げると、ルルクさんの指の腹が私のおでこをちょんと押し、
「‥いっぱい食べると幸せなんだろ」
そう、可笑しそうに笑って言った。
レトさん、結構お金好きです。
私も好きです。(あんまり側にいてくれないけど‥)