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恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。  作者: 月嶋のん
恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。
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恋愛ゲームの主人公は腹を決めた。


トニーさんは恐らくルルクさんを魔族だっていえば、私が怖がると思ったのだろう。‥でもこの人そもそも私の首を何度もゲームではスパスパ切ってるからね?


怖いけど、魔族の血を引くなんて設定を付け足されても、ただ「ああだから強いのか〜」くらいにしか思えないんだわ。



警備隊の人達にギルドまで連行される事になったトニーさんを見送り、私はルルクさんと帰ろうと声を掛けたんだけど、ルルクさんは相変わらず目を丸くして私を見ている。



「‥ルルクさん?帰りましょうよ。それともトニーさん気になります?」

「‥いや、だが、」

「ああ、魔族ですっけ?それって問題あるんですか?」

「‥怖くは、」



どっちかというと、首を切られる怖さの方が‥。

それに魔族って、この世界にいるんだ〜〜ってなにせ今初めて知ったから、なにが怖いかとか全然わからないんだ!


私はルルクさんの手首に描かれた蝶を見て、



「‥蝶を描いて欲しいって言う人が怖いと思います?少なくとも私は怖くありません」



そう言って手首の蝶をちょんと突いて、ニヤッと笑った。


「ルルクさんは、ルルクさんでしょ?」


暗殺者という設定が変わってくれればいいけど、そこは変わらないんだろう。私も一応主人公だし?


ふわっと夕方の匂いのする風が吹いて、ルルクさんの前髪がちょっと揺れ、コバルトブルーの瞳が夕陽に照らされて、キラッと光った。どこかその瞳はまだ私の言葉を飲み込めてないのか、小さく揺れている。



「‥おかしい事、言いましたかね?」

「‥そうだな。そもそも変わった奴だったな」

「本当、大概失礼ですね!いいですよ〜〜、サラマンダーのお肉も一杯焼いて食べ尽くしてやる!!」

「絶対焦がすだろう。やめておけ」

「絶対焼く!!家に先に戻って準備してやる!!」



仕事道具と買い物をした籠をしっかり掴んで、家までダッシュしようとしたら、私よりも荷物を持っているであろうルルクさんがあっという間に私を追い抜いた。クソ!!リーチの差を存分に発揮したな!!


「ずるい!!!」

「遅いな」

「当たり前じゃないですか!ルルクさんの足の長さと私の長さの違い、知ってます??!」


ゼエゼエ言いながら、玄関の扉を開けてキッチンへ二人で半ばぶつかり合うように雪崩れ込むと、ルルクさんが突然吹きだして、声を上げてハハッと笑った。



え、なに?すごく笑ってない??

私が目を丸くすると、ルルクさんは私のおでこに指の腹を当て、ぐっと押し込む。



「‥後悔するなよ?」

「後悔?」

「‥俺がそばにいる事だ」



ルルクさんのどこか挑むような瞳に、私はぐっと拳を握る。

暗殺者を助けた時点で、後悔‥ねぇ?

どっちにしろ私はこの世界で生き残るか、首を切られるかのどちらかしかない。私はルルクさんを真っ直ぐに見上げ、



「それこそ今更でしょう。ルルクさんこそ後悔するかもしれませんよ?私に可愛い紋様だらけにされて」

「‥そうかよ」

「あと、高いお酒と果物とパンも食べ尽くしてやります」

「‥そうだったな」



ルルクさんはツンと指の腹で私のおでこを突くと、


「肉を焦がされたら堪らねぇ」

「だから!焦がしませんって!!」

「ああ、そうかい」


そう言ってルルクさんは私の手にあったサラマンダーの肉をヒョイッと取り上げると、作業台に置いてナイフを取り出した。



「‥それで?揚げるのか?ソテーか?」



ナイフの刃がキッチンの窓に差し込む夕陽に照らされ、キラリと輝き、

嗚呼‥できればそのナイフで首を切られませんように‥と、静かに心の中で祈ってから、


「今日はソテーがいいです」


と、言えた私のメンタルにブラボーとハラショーを贈りたい。

天国のお父様、お母様、ユキはどこかで間違えたかもしれませんが、今夜はとりあえずパーリナイです。



そうして、ルルクさんの買った高いチーズとか、果物とか、パンやお酒がずらりと並んだ食卓を見て、


「過去イチ豪華だ‥」


と、呟くと面白そうに笑ったルルクさんが、私にワイングラスを傾けた。



「成人おめでとう。大人の仲間入りだな」

「‥なんだか悪いことをしてるみたいな気分になるのはなぜですかね」

「酒を飲むだけで?」

「‥そうですねぇ」



置いてはあったが、使うことはなかったワイングラスに注がれた赤い液体を見て、血の色とはよく言ったもんだ‥と、思いつつ少しだけ口につけてみると、舌は甘いと感じるのに、喉を通り過ぎるとジワリと熱い。


なんだかルルクさんみたいだな。

一見イケメンなんだけど、暗殺者で人の首をスパスパと切ってしまう‥。いや、絶対切られたくないけども!!!


チラッと視線だけ上げてルルクさんを見ると、

どこか嬉しそうに私を見ているルルクさんと目がパチリと合う。



「‥えっと?」

「美味いか?」

「‥ちょっとだけ。大人な味ですね」

「そうか‥」



そうして甘く笑ったルルクさんを見て、ちょっと頬が熱くなった。

‥ワインって、アルコール度数高いだけあるな。





ワインって美味しいけど次の日に残る。

正しい大人は合間に水、飲んでおきましょ。

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