恋愛ゲームのキャラ設定どうなってるの?
ルルクさんと私の負けず嫌いがバトルしたけど、結果は私の惨敗だった。
そもそも物理でも強いし、お財布も私より強かった‥。
むすっとした顔でルルクさんを見上げると、ギルドから貰ったサラマンダーのお肉をルルクさんが抱え、もう今にも鼻歌でも歌い出しそうなほどの機嫌の良さ!
‥暗殺者ってのは本当にいい性格だよ!
「‥おい、いつまでむくれてんだよ」
「すごい面白そうな顔をしてよく言いますよ!」
ジロッと睨むと、ルルクさんが目を細めて口角を少し上げた。
本当にいい性格だよ。いつも真顔か澄ました顔なのに。
「‥もうこうなったら、ルルクさんの買った高ーーーいチーズとか果物とかパンとか、めちゃくちゃ食べてやります!!」
嫌味のようにそう宣言すると、ルルクさんはふっと小さく吹き出した。
「そうかよ」
「そうですよ!お酒だって飲んでやります!‥初めてだから、どれくらい飲めるかわかりませんけど」
「なんだ値段は知ってても飲んだ事はないのか」
「一応、未成年ですし‥」
「‥今、幾つだ?」
「19です」
「成人してるじゃねえか」
「‥お財布が成年に達してなかったんです!」
要するに贅沢するお金は私にはなかったの!
ルルクさんは目を丸くしたかと思うと、小さく笑って「じゃあ、今日は酒も危険だな」って言うので思い切り頷いてやった。覚悟してろ!めっちゃ高いお酒をいーーっぱい飲んでやる!!
‥なんて思いつつ、町を出て我が家へ続く林の道を歩いていると、後ろから馬に乗った警備隊達がこちらへ真っ直ぐにやってくる。
あれ?
警備隊なんて、時々見回りに来るだけなのに珍しいな。
不思議に思っていると、その警備隊達が私達の側へ来ると馬から降りてきた。突然のことに驚いていると、ルルクさんがすぐに私を自分の前に立ってくれたけど‥。
濃紺の隊服を着た若いお兄さんがルルクさんを気にも留めず、後ろにいる私に声を掛ける。
「君は、ユキ・ティラルクで合っているね?」
「は、はい」
なに?なにが起きているの?
ドキドキしていると、警備隊の人達の一番後ろに馬に乗ったトニーさんが降りてきて、私はあっと声を出す。
「トニーさん!??どこへ行って‥」
「今はまず話を聞いて欲しいんだ!ユキちゃん、君は危険な奴といるってことを知って欲しくて!!」
「はぁ???」
危険なら貴方でしょうに。
っていうか、まず貴方はギルドの皆に土下座して来なさいよって言おうとしたら、トニーさんはニタリと笑ってルルクさんを見上げる。
「‥俺、思い出したんだ。昔、ギルドで左右の瞳の色が違う奴は魔族の血を引く者だって!」
トニーさんが勝ち誇ったような顔でビシッとルルクさんを指差すと、ルルクさんの背中が小さく揺れた。ん?なんだって?魔族?私が目を丸くしていると、トニーさんはそれは面白そうに口を釣り上げる。
「‥前にそこの男の目を見た時、すぐ思い出せなかったけど、警備隊の人達に確認したらそうだっていうんだ!!魔族の血だよ?ユキちゃん、そいつはそばにいるだけで危険なんだ!!」
暗殺者にそんな設定あったの?
だから眼帯をしてたの?
私は驚いてルルクさんの横顔を見上げると、さっきまであんなに楽しげに目を細めていたのに、その瞳が暗く、不安げに揺れているのを見て、胸が抉られるように痛くなる。
ニタニタと嬉しそうな顔をしたトニーさんが、すっと手を差し出した。
「ね?怖いでしょ?だからこっちへ‥」
その顔を見た瞬間、私の中の何かがブツッと切れた。
「‥どこが怖いって?」
過去イチ低い私の声に、空気がシンと静まった。
トニーさんは驚きに目を見開き、私を引きつった顔で私を見た。
「え‥、だって魔族」
「魔族だろうがなんだろうが、どうでもいいです。それよりも!!トニーさんが私に付きまとったり、魔物寄せの香を付けた魔石を渡されたせいでサラマンダーに襲われた方がよっっぽど怖かったです!!!」
「え、え‥」
私の言葉に警備隊の人達の顔つきが一気に険しくなり、冷たい視線がトニーさんに一斉に注がれた。
「ルルクさんは、怖くないです!!なにも悪いこともしてません!!私をサラマンダーから助けてくれたし、料理も作ってくれるし、嫌な事も危険な事もなに一つ私にはしません!」
トニーさんは私の言葉に目が落ちちゃうんじゃないかってくらい目を見開いて、「え、でも、魔族だよ?」って言うけど、暗殺者に設定が一つ増えたくらいどうって事ない。私の首はいつだって危険に晒されてるけど。
私は警備隊の人達をぐるっと見回して、
「トニーさんの犯罪行為はギルドマスターのレトさんがしっかり握っているので、しょっぴくならその人にして下さい!」
「‥我々も、どうやら上手く利用されていたようだな‥、おい!」
警備隊の人が声を上げた瞬間、トニーさんが捕まって目を白黒させ、「なんで?なんで?」と叫びながら結局引きずられていったけれど‥、なんでもなにも、悪いことをしてない人をどうして捕まえられると思ったんだろ。幸せな人だな。
なにはともあれ、レトさんもこれで一安心だろう。
「いや〜〜、良かったですね!これでスッキリ!って感じですね」
笑顔でルルクさんを見上げると、ルルクさんも目が落っこちてしまいそうなほど驚いた顔で私を見ていた。え?なんで?




