恋愛ゲームの主人公は負けず嫌い。
結局ルルクさんにからかわれる形で小鹿亭を後にし、家に戻る前に買い物をしようと話した。なにせ、ルルクさん体が大きいから食材がすぐなくなる‥。あ、もちろん私が焦がしたから‥ではないよ。多分。
「お肉はあとでギルドに取りに行く事にして‥お野菜とパンは買っておこうかな。あ!そうだ、ルルクさんズボンも買っておいた方がいいですよね。お店こっちにあるんですけど、見ていきますか?」
「‥そうだな」
なにせうちへ来てから血だらけ、傷だらけのズボンだったし‥。
一緒に服を売っているお店に行って、ルルクさんにサイズを確認して貰う。
「じゃあ、ズボン買ってきます」
「いや、それは自分で払う」
「何言ってるんですか、昨日助けて頂いたのに払わせる訳にはいきません」
「は?今日金を受け取ったのを見てただろう。自分で払う」
「ではズボンだけは払います」
「お前なぁ‥」
ルルクさんが呆れたように私を見るので、私も負けじとルルクさんを見上げる。
くそ、背が本当に大きいな。首が痛い。
「助けられっぱなしじゃ、嫌なんです!」
「‥わかった。でも次はない」
「強情ですね」
「それはお前だろ」
恋愛ゲームの主人公とは思えない火花を散らした背景。
いいんだ、もう‥私は主人公のはずなのにシナリオなんてあってないようなものだし。ルルクさんのズボンを3本買って紙袋に入れて貰うと、私はちょっとだけ得意げにルルクさんに渡した。
「じゃあ、次は食材買いにいきましょうか!」
「そうだな‥」
「えーと、卵と牛乳とパンと‥」
思い出しながら、白とベージュが基調の町並みを歩いていく。
ルルクさんはどんな食材が欲しいかな?いつも食材を買うお店に着き、籠を持って食材を入れようとすると、ヒョイとルルクさんが私の手から、籠を取り上げた。
「えっと?」
「どれを買うんだ?」
「あ、ありがとうございます。卵と牛乳とパンと、あとはチーズも買っておこうかな‥でも、高いしなぁ」
チーズ好きなんだけど、高いんだよね‥。
いくつも丸いチーズが並べてあるのを見て、出来るだけ安いの‥と、じっと見つめていると、ルルクさんが値段も見ずに籠にポイッとチーズを入れる。
「ちょ、ちょっと??ルルクさん??」
「あとはどれだ?」
「い、いや、それ買うお金‥」
「今度は俺が出す」
そう言うと、コバルトブルーの瞳がギラッと光る。
‥これ、絶対引く気がないな?
「だったら、この安いの!こっちので!!」
「聞こえねぇな。お、酒もあるな」
「そ、それ、めちゃくちゃ高いやつ〜〜!!」
「果物美味そうだな」
「も、もっと高いヤツ〜〜!!!」
我が家のエンゲル計数を考えると、真っ青なお値段の物をホイホイと籠に入れ、なんとか止めようとしたけれどお店のおじさんはホクホク顔で籠を受け取って、気付いた時にはお会計が終了していて‥。
「夕飯は豪勢に食うか」
「お、お金‥」
「俺が払ったんだから問題ないだろ」
「問題大有りですよ!!!お金は大事に使わないと!!!」
「今回の買い物だけで吹き飛ぶ財布じゃねぇ」
「そこはそうですけど‥」
絶対私がズボンを押し切って買ったから、負けじと買っただろう‥。
私がジトッとルルクさんを見上げると、ルルクさんは目を細めるだけだった。なんか悔しい。絶対次は負けないぞ。と、思っていると、ルルクさんが次に美味しいけれどお値段がやはりお高めのパン屋へ入ろうとするから、私はダッシュでルルクさんのシャツの裾を掴んだ。
「待って!!もうおしまいです〜〜!!」
「パンも買うんだろ?」
「だったらこっち!!!」
「安心しろ、俺が払う」
「ダメです〜〜!!!」
美味しいものは好きだけど、お金も大事!
私なんて借金のカタに売られそうになったんだぞ??
しかし、そんなことを知るよしもないルルクさんは、当たり前だけど強かった。物理で強かった。
引っ張る私の腰をヒョイっと持ち上げて、パン屋に入店。
驚き過ぎて、最早何も言えない私をいいことに、ルルクさんはいつか食べたいなぁって思っていた高級パンを買って店を出た。ちなみにパンは私が責任を持って抱えた。
「も、もう信じられない‥」
「そんなに夕飯が楽しみか」
「そうじゃなーーーーーい!!!」
涙目でパンのいい匂いがする袋を抱えつつルルクさんを睨むと、コバルトブルーの瞳がそれはそれは楽しそうに私を見つめた。もう!!暗殺者負けず嫌い過ぎない??
成城とかお値段にビビるんだけど、美味しいんですよね‥。
値段にビビるんだけど。