恋愛ゲームの主人公、新イベント!31
昨日に続き、今日も大盛況だった紋様描き。
何よりレオさんが来て、更に勢いづいたと思う。王族自ら描いて貰って満足そうに微笑めば、一般庶民は「私も描いてほしい!」だ。しかも期間限定だしね。
そんな訳で、紋様師の皆さんはご飯も食べる間もなく必死に描き続けた。
みなさーーん!紋様は怖いものじゃないです!とっても便利で貴方の生活を快適にする補助道具のような物ですよー!と、アレスさんがお菓子を売りつつ宣伝してくれたのも大きい。うう、お店に顔をろくに出せないのに有り難い!
「お、お腹空いた‥」
まだまだ並んでいる人達がいるけれど、紋様師さん達で交代で休憩に入った‥。ようやく自分の番が来てヨロヨロとギルドの奥にある休憩室に入ってぐったりと机に突っ伏した。そんな私にルルクさんは、いつの間にかレオさんが用意してくれた差し入れのサンドイッチを手渡してくれた。
「ほら、飯だ」
「あ、ありがとうございます‥。うう、美味しい。沁みる‥」
「昨日よりもひっきりなしに来るからな。周辺の街や村からも結構な数が来てるって話だ」
「それは有り難いです‥。仕事がない状態に比べたら最高ですよ」
と、言いながらハムの入ったサンドイッチをもそもそと食べていると、ミッツさんがヨロヨロしながら扉をノックして顔を出した。
「あ、ミッツさんもお疲れ様です」
「うむ‥、その、ユキさん、休憩中に悪いんだが、一人紋様を描いて欲しい人がいるんだ」
「へ?」
特別に描いて欲しい人?
ミッツさんはキョロキョロと周囲を見回して、そっと扉の外へ声を掛けた。と、中へ入って来たのは昨日、呪いを発動させてしまったフィン君だった。
「フィン君!」
「姉ちゃん、兄ちゃんも、呪い、解けたの‥?」
「あ、うん!もうすっかり!フィン君も紋様描きに来てくれたの?」
パッと駆け寄って、ワクワクした顔で尋ねるとフィン君はみるみる泣きそうな顔になった。
「でも、俺、呪いを‥掛けちゃうから。そんな奴、やっぱり紋様なんて意味がないかもって‥」
「え」
そんな事ないと言おうとした途端、ミッツさんがフィン君の肩に手を置いた。
「そんな事はないぞ少年!紋様は平等だ!大人も子供も!必要な人に必要な紋様をいつだって描く!」
「‥けど、呪っちゃうかもなのに?」
「その為に僕たちがいるんだ!呪いを解き、皆を笑顔にする!」
ミッツさんが力強く宣言すると、フィン君は驚いたようにミッツさんを見上げた。うむうむ、いい事言うじゃないか〜〜!嬉しくて、ルルクさんを見上げれば優しく微笑み返してくれた。
ミッツさんは私を見て、
「と、いう訳でユキさん、フィン君に紋様を頼む」
「いやいや、どう考えてもミッツさんの出番ですよ」
「だ、だが私の紋様は、その、魔力がだなぁ‥」
しどろもどろに話すミッツさんを、フィン君が見上げて、
「俺も、兄ちゃんの紋様がいい」
「え!?だ、だが、ユキさんは王族も勧める紋様師だぞ!?」
「何言ってるんですかミッツさん。お客さんの希望が第一ですよ。フィン君、こちらの椅子にどうぞ!ほらほらミッツさん!準備して!」
ミッツさんは慌てた様子で紋様の道具を用意しつつ、「本当にいいのか?」と心配そうだ。と、ルルクさんがフィン君の前にある椅子にミッツさんを座らせた。
「客の前だぞ。気合いを入れろ」
ルルクさんに言われてミッツさんは目を丸くし、それから一つ咳払いをしてフィン君を見つめた。
「‥紋様師として最善を尽くします!どのような紋様が良いですか?」
ミッツさんの言葉にフィン君が嬉しそうに笑い、
「じゃあ、虹!王子と同じやつ!!」
「わかりました!描かせて頂きます!」
「ちゃんと格好良くな」
「か、格好良く???」
困った顔をして私を見上げたけれど、ぜひ格好いい虹を描いてやって下さい。ニッと笑って、「楽しみだね」と、フィン君に言えば、ミッツさんは真剣な顔をしてフィン君の手の甲を持ち上げ、筆を滑らせた。
真剣な顔をして、フィン君の手の甲に魔力を流しつつ虹を描く姿は真剣そのもので、皆でその様子をじっと見てしまう。
そうして、虹を描いたミッツさんがホッと息を吐き、それからもう一つ小さな剣の紋様を描いた。フィン君はその剣まじまじと見てから顔を上げた。
「これって‥」
「騎士になる夢が叶うように‥、私から応援だ」
ミッツさんが照れ臭そうにそう答えると、フィン君は嬉しそうに口元を緩め、
「まぁ、見ててよ。あっという間に強い騎士になるから。そんで、兄ちゃんまた紋様描かせてやるよ」
「なっ!?描いて貰うではないのか??!」
目を見開くミッツさんにルルクさんが面白そうに「良かったなぁ、宣伝してもらって」と笑えば、フィン君が可笑しそうに笑った。その光景に私は嬉しくてニヤニヤが止まらなかった。うん、私も頑張って描かせてもらわないとだな!
ヘナタトゥーしてみたい‥。




