恋愛ゲームの主人公はチートじゃない。
レトさんが言ってたように今日はほとんど紋様を描く依頼がなくて、その代わり昨日のサラマンダーを止めようとして怪我をした人達の治癒の為に紋様を描く依頼が多かった。
「はい!これでおしまいです。お疲れ様です」
「ありがとう〜。これ代金ね。」
「こちらこそ昨日はお世話になりました!どうぞお大事に」
最後の弓矢の担当のお兄さんに挨拶をして、ふうっと息を吐く。
よし、終わった〜〜。横に座っているルルクさんを見て、
「ひとまず終わりました。もうそろそろお昼ですし、ご飯食べに行きましょうか」
「‥そうだな」
「小鹿亭にサラマンダーのお肉が出るってギルドの人が言ってましたね。それ食べましょっか?」
「‥あとでカウンターに言えば、肉は分けてくれるとレトが言ってただろ」
「あ、そっか。じゃあ、お昼はお魚にしようかな」
ルルクさんは私をじっと見るので、私は首を傾げる。
「ルルクさん?どうかしました?」
「‥いや、元気ならいい」
「え、あ、はい?」
椅子から立ち上がるルルクさんを見て、慌てて仕事道具を片付けていて、ハッと気付いた。もしかして心配してくれてたのか?腕を組んで私の横に立っているルルクさんを見上げ、人の首をスパスパ切ってたけど、暗殺者って、優しいんだなあと思うけど‥。
できればその優しさで、どこでどう恋愛が始まるかわからないけど、その時にはぜひ手加減して欲しい‥。でもあれだけでっかいサラマンダーの首をスパーンと切っちゃうから‥、あっさり切られちゃうのかな。あ、ダメ、また泣きそう。
「‥おい、何一人で百面相をしてる」
「‥一身上の都合ですぅうううう‥」
「そんなに腹が減ってるのか」
いえ、純粋に首を切られたくないなって思っているだけです。
どこか遠い目をしながら小鹿亭に行ったらおばちゃんにめちゃくちゃ心配されて、
「スープとサラマンダーの揚げ物も付けてあげるから、ゆっくり食べな!」
と、美味しいスープとサラマンダーの揚げ物を頂いた。
あ、揚げ物とは!!完全に盲点だった!そういえば、全然作ったことなかったな!!って思いながら、唐揚げのような味のするお肉を頬張っていると、ルルクさんが静かな凪のような瞳で私を見て、
「初心者が揚げ物なんざするなよ」
「な、なんで‥」
「目玉焼きを焦がすやつが、揚げ物をした日には火事になる」
「酷くないですか??まだ作ってもいないのに!!」
「目玉焼きを焦がさずにできたら言え」
‥‥恋愛ゲームの主人公といえば、大概お料理上手なのに‥、何も言えねぇ!!!私よりもずっと美味しいご飯を作れる暗殺者ってチートじゃない?ずるくない?むすっとして、ルルクさんを見上げ、
「じゃあ、ルルクさん美味しいの作って下さいよ」
「‥言われなくても」
もう!ああいえばこう言う〜〜。
じとっとルルクさんを睨むと、スッと揚げたてのサラマンダーの唐揚げをフォークに刺したかと思うと、私の口元に持ってくる。
「そんなに好きなら、やるよ」
「え、じゃあ、こっちの皿に」
「どうせ食うんだろ。口開けろ」
「い、いや、恥ずか‥ング!!!??」
問答無用で唐揚げを口に突っ込まれ、目を丸くした私にルルクさんが可笑しそうにぶっと吹き出した。ちょ、ちょっと!!乙女になんてことをするんだ!って、言いたいのに結局もぐもぐと食べ切ってから、
「乙女の口に唐揚げを突っ込まないで下さい!」
「美味しかったろ」
「そういう問題じゃないです!!まったくもう!!」
暗殺者だけあって、素早いんだよ!!
ルルクさんのお皿を見ると、もう空っぽで‥、私はどうにかやり返したくて自分のお皿の唐揚げをフォークで刺して、ルルクさんに向けた。
「ルルクさんもどうぞ〜」
敢えての超絶いい笑顔でそう言うと、ルルクさんのコバルトブルーの瞳がじっと私を見たかと思うと、
「‥誤解されたままでいいなら、食べるが?」
「え?」
誤解?何を?
そう思って、チラッと周囲を見ると、昼食を食べていたギルドの人達がこそこそと「やっぱり付き合ってるんだな」「え、でも本当に?」って言う声が聞こえて、私は自分で恋愛フラグを立てている事に気付いて、急いで唐揚げを自分の口に突っ込んだ。
あ、危なーーーーー!!!
恋愛フラグは危険だってのに!!
うっかり死んでしまっては元も子もない。
もぐもぐと唐揚げを咀嚼していると、ルルクさんが私を面白そうに見て、
「警戒心と察知能力向上って手首に書いておいたらどうだ?」
と、言うのでそれはもう恋愛ゲームとは思えないくらいの眼力でルルクさんを睨んだ。




