恋愛ゲームの主人公、新イベント。23
夕食を食べ終え、私とルルクさんは部屋へ戻ったけれどタリクさんとアレスさんはまだ戻ってこなかった。お仕事、大変なのかな‥。
「明日も仕事はあるんだ。先に風呂に入っておけ」
「はーい」
ちびっこルルクさんは冷静だな‥。
確かに私ができる事は今現在はないし、お風呂に入るか。
「じゃあ、先にお風呂入っちゃいますね」
そう言って着替えを持ってお風呂に入らせてもらうけど‥、てっきりルルクさんの事だから一緒に入る!とか言うのかと思ってた。うん、あれはきっと私をからかおうとしてたのかもしれないな。ともかく大きなタオルを持ってお風呂へ行ってみれば、
「あ、まだ蛍いる!」
窓の外を見ればチカチカと光る虫達。
うーん、なんてロマンチックなんだ!体を洗って湯船に浸かれば綺麗に光る蛍。贅沢だ。贅沢過ぎる。
と、またポツポツと音がしたかと思うと、外がザアッと一瞬で雨音に変わる。
「え?また雨?!」
本当にしょっちゅう雨が降っては止むなんて言ってたけど、よく降るなぁ〜。飛んでいた蛍も慌てたように木の陰に隠れて、小さく光っている。外に行って見てみようかと思ってたけど、これは無理そうだ。
「早めに上がってルルクさんと交代するかぁ」
お湯から上がって着替えた頃には雨音が止んでいて、広いリビングへ戻れば、ちびっ子ルルクさんが大きなソファーにゴロッと寝転がって何かを見ていた。‥なんだかすごくリラックスしてるな。
「ルルクさん、何を見ているんですか?」
「さっきタリクが来て書類を渡されたんだ。これは紋様師達が使ったお湯の分析と、お湯をどこから取って来たかの報告書‥だな」
「え?!何かわかった事があるんですか?」
「‥成分としては、もうないはずの白の魔石が薄っすらとだが反応したらしい」
「白の魔石?!だから呪いを弾いたのかな‥?」
「この薄さじゃ通常じゃ無理らしいけどな。ただ初めての呪いだったから呪力が弱かったのかもしれないと言ってた」
騎士さん達の体は、呪術師さん達の見立てでは紋様師さん達のお陰で呪いは大分緩んでいるそうだ。あと数日間、紋様を書き続けて貰えば解けるだろうとの事で、そちらも一安心だ。
でも、もう一個気がかかりなのが魔石の反応がある以上考えられる洞窟という存在だ。もしかしたらそのせいで魔物が現れている可能性がある。
「どこかに洞窟があるんですかね‥?」
「かなり入念に調べたが、洞窟はなかったそうだ。だから温泉を重点的に明日にでも調べようという話になった」
「温泉‥」
「温泉から続く道のどこかにあるかもしれないしな」
「そっか、地下水とかかな‥」
と、なるとルルクさんまた忙しくなりそうだなぁ。
こんなに小さい子供になったのに、ルルクさん絶対行きそうだ。けど、小さいから無理しないで欲しい‥。ついつい頭をそっと撫でると、ルルクさんは私をじとっと睨み、
「言っておくが、中身は成人だからな」
「わかってますよ?でも体が小さいから心配で‥」
「‥そうじゃなくて‥。まぁ、いい。ともかく風呂に入ってくる」
「はーい。溺れないように気をつけて下さいね」
「‥それはお前だ」
どう考えてもルルクさんなのに〜〜!
頬を膨らませると、ルルクさんは可笑しそうに笑ってお風呂場へ向かった。うーむ、子供なのに格好いい‥、元大人だから?ひとまず寝支度をして、ベッドの方へ行けば大きなベッドの横に小さなベッドが一つ。
「私はこっちでいいかな?」
コロッと小さなベッドに横になれば、ふっと体から力が抜ける。
やっぱり緊張してたんだな‥。ふと渋いおじさんが描いてくれた紋様を見れば、まだキラキラと光っている。ううむ、おじさんの紋様の素晴らしさたるや!
迷いも躊躇いもない、しっかりした紋様と魔力。
「私もこんな風にもっと描けたらなぁ‥」
有名になるとか、そういう事を望んでいる訳じゃない。
ただ自分の紋様を求めてくれた人に、喜んで貰えるくらいの効果を出せたらいいなぁとは思う。
恋愛ゲームの主人公だけど、今までは誰かと恋愛しないようにって生きてきた。
そうしてルルクさんと恋人になったけど、私の人生は当たり前だけどまだまだ続くのだ。しかも今まではひたすら「生きる為」に紋様を描いていたけど、今度はその「紋様」で、どうやって仕事をしていきたいか‥と、自分で選べる。
「すごい幸せだ‥‥」
選ぶこともできず、ただ逃げて、隠れていた身としてはとても嬉しい。
そしてその隣にルルクさんがいてくれる事も嬉しい。
どんな風になっていくかはわからないけれど、この先もルルクさんが隣にいる未来だったらいいなぁ‥。
そう思って目を閉じると、そのままスコンと寝落ちてしまった。
途中、私の頬を誰かが撫でた気がしたけど、夢?いや、ルルクさんだな‥なんて思いつつ。
選べるって、すごく幸せですねぇ‥。
私はドーナツを食べるべきか、ケーキを食べるべきか‥(悩)




